「天王寺 薫 って人がね・・・・・」
類の瞳が 真っ直ぐあたしを見ているのに気づかないフリをする
今 類の目を見たら ――――――――――
あたしはきっと泣いてしまう
あかい糸
act.2
「天王寺?」
「うん・・・・・天王寺なんて凄い名前だよね・・・」
「もしかして あの投資家で有名な 天王寺グループの一人娘?」
類の顔色が変わる
「さすが・・・・そっちの世界では有名なんだ」
あたしは また溜息を落とす
もう・・・・・昨日から どんだけ幸せが逃げて行ったんだろう
「昨日・・・家の前で待っててさ、ソノヒト
近々 道明寺の婚約者として発表があると思うからって」
「婚約者?・・・・」
「うん・・・・・
でも またどうせ いつもの事だろうと思って あたしもただ普通に
”ああ そうですか”って答えたの」
「・・・・・うん」
「そしたら ソノヒト・・・・・」
――――― 信じてもらえていないようですけれど
この間 一緒にパーティーにも出席致しましたの ――――
そういって渡された写真を取り出す
向かい合って微笑みあう2人
あいつが こんな顔をするなんて ――――――
「ほんとっ 信じらんない」
類が ヒョイッと あたしの手から写真を奪って 目を丸くする。
「これ・・・・・ 司? 笑ってる・・・・・」
「でしょ? 鼻の下デレーっと伸ばしちゃってさ。 気持ち悪い!!」
空を見上げて また溜息
今までだったら 例え写真なんか渡されたって 何てことない
またか・・・・と思うだけ
たけど 今回は・・・・今回の写真は違う
道明寺が笑っている
それも あたしですら見た事のないような笑顔で ―――――――
たまたま・・・・
たまたま タイミングが良かっただけかも知れない
あいつがパーティーの席で どこかの令嬢をエスコートするのは
ビジネス上 仕方のないこと
アノヒト を ビジネスでエスコートして
たまたま写った笑顔
そう思えばいい
そう思えばいいのに ――――――――――
あたしの胸が ザワザワと音を立てる
「ま・・・きの?」
類に呼ばれて ハッ と我に返る
「大丈夫?・・・・・・じゃなさそうだよね」
心配は・・・・かけたくない・・・
「あぁ! だっ大丈夫だよ? ほらっ どうせまたいつもの ――――――――――」
言葉とはうらはらに あたしの頬を伝い落ちる熱い雫
「あ・・れ? おかしいな・・・・なんで・・だろ」
類は黙ったまま
ただあたしの頭を ポンポンと優しく撫でてくれた
「解んないの・・・・なんでこんなに不安になるのか・・・」
本当に
どうしてこんなに不安になるのか解らない
ただ あいつが笑っているというだけで
なぜ こんなにも胸が締め付けられるのか
答えを見つけられないまま 朝を迎えた
大学の授業も バイトの最中も うわの空
あたしの脳裏に浮かぶのは ――――――――――
見たことのない 道明寺の笑顔ばかり
「でもこの写真・・・・・」
類が写真をじーっと眺めながら ポツリと呟いた
「・・・・ううん やっぱ何でもない」
そう言うと まるで ”これ いるの?” とでも言いそうな雰囲気で
写真をヒラヒラさせる
あたしは写真を受け取り バッグへとしまった
こんな写真 ――――――――
持っていたくはなかったけど
その辺に捨てるわけにもいかない
あたし自身 この写真をどうしたらいいのか
まるで思いつかないでいた
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