谷口中級文法講義    接続法Ⅰ式要求話法について 

要求話法の基本…「~であれ」(主語に対する話者の要求をあらわす)

   Der Mensch ist edel. 人間は高貴である。 (直説法)

   Der Mensch sei edel! 人間は高貴であれ!(接続法Ⅰ式要求話法)

古いドイツ語でのみ用いられる用法も多い。但しそれが慣用表現として現代ドイツ語に残存していることも多い。

現代ドイツ語では、要求話法を用いるかわりに、話法の助動詞mögensollenなどを用いることが多い。

   Der Mensch soll edel sein.

 

1 主語に対する実現可能な要求や願望・祈願をあらわす。

 1-1 Ein jeder tue seine Pflicht! 各人それぞれが自分の務めを果たせ!

 1-2 Hans komme sofort zu mir! ハンスにはすぐ私のところへ来てもらいたい!

 1-3 Dein Reich komme! おんみの国の来たらんことを! 

1-4 Es gebe doch keinen Krieg! 戦争が起こりませんように!  (Es gibt +4格で「~がある、生じる」)

 1-5 Gott helfe uns! 神よわれらを助けたまえ!(神様が私たちを助けて下さいますように!)  

  現代ドイツ語では、料理のレシピや薬の説明書などで見かけることが多い。

1-6 Man nehme dreimal täglich zwei Tabletten. 毎日3回2錠ずつ服用のこと。

1-7 Zuerst schäle man die Kartoffeln, wasche sie und lege sie auf einen Suppenteller..

       まずジャガイモの皮をむき、水洗いし、スープ皿の上にのせること。 

★日常会話で頻繁に用いられる次の表現も要求話法である。

1-8 Gott sei Dank! やれやれ、ああよかった。(直訳は、「神に対して感謝あれ!」  ちなみにDankが主語で、Gottは3格) 

  発展 特に祈願文では話法の助動詞mögenの接続法Ⅰ式を用いることがある。さらに直説法との違いを強調するため

  に倒置をしたり、Daß(Dass)!の形を用いることがある。意味は基本的に同じ。

 1-5-1 Gott möge uns helfen! 神よわれらを助けたまえ!

1-5-2 Möge Gott uns helfen! (Helfe uns Gott!) 神よわれらを助けたまえ!

1-5-3 Daß Gott uns helfen möge! (Daß Gott uns helfe!) 神よわれらを助けたまえ!

 

2 Sie(敬称2人称)に対する命令文、およびwirに対する勧誘文。

 これが現代ドイツ語では、最も普通に用いられている要求話法の用法である。本来は1と同じように、主語に対する話者の要求を表している。この場合に必ず倒置するのは、主語がSie wirのときの接続法1式は直説法と形が同じであるため、直説法との混同を避ける必要があるからである。

 2-1 Kommen Sie bitte herein! どうぞお入り下さい。

2-2 Seien Sie mir bitte nicht böse!  どうか怒らないでくださいよ!

2-3 Gehen wir heute durch den Park!  今日は公園を通って行こうよ!

3 学術論文等での表現

「~しておこう」「~することにしよう」「~してみよう」の意味で論文の中で現代でもよく用いられる。

 3-1 Hier sei ein Teil der Statistiken geboten. ここに統計の一部を挙げることにしよう。

    (=Hier will ich einen Teil der Statistiken bieten.

また特に数学の問題文などで「取り決め」を表すときにもよく用いられる。

 3-2 Die Figur ABC sei ein gleichseitiges Dreieck. 図形ABCは正三角形であるものとする。

4 譲歩(認容)表現「たとえ~であろうとも」

元来は「~であれ」「~するがいい」という要求表現だったが、そこから認容の意味が派生した。

認容表現は現代ドイツ語ではパターンがほぼ決まっているので、構文として理解しておくとよい。(譲歩認容表現のプリントも参照のこと。)

 4-1 Er sage, was er will, ich glaube ihm nicht. たとえ彼が何を言おうとも、俺は彼の言うことなんか信じないぜ。

  メモ:元来の直訳は「彼は望むところのことを言うがいいさ。(でも)俺は彼の言うことなんか信じないぜ。」となる。なおこの構文でwillsageに同化

してwolle(接続法Ⅰ式要求話法)となることがある。

4-2 Was er auch sage, ich glaube ihm nicht. たとえ彼が何を言おうとも、俺は彼の言うことなんか信じないぜ。

    メモ:このauchは認容の意味を強調するauchである。また認容の副文は独立性が高いので,後続の主文を倒置しないことが多い。

 4-3 Ohne Gesundheit ist kein äußeres Gut, welcher Art es auch sei, genießbar.

健康がなければ、外的な富は、たとえどんな種類のものであれ、享受できない。    

4-4 Wer in irgendeinem Fach, sei es Technik, sei es Medizin, den Dingen auf den Grund gehen will, der wird auf

dieses Problem stoßen.  工学であれ医学であれ,何らかの専門において物事の本質を究めようとする者は,この問題に突き当たるでしょう.

★現代ドイツ語における認容表現では、接続法Ⅰ式要求話法を使わずに、話法の助動詞mögenを用いることが多い。

 4-1-1 Er mag sagen, was er will, ich glaube ihm nicht たとえ彼が何を言おうとも、俺は彼の言うことなんか信じないぜ。

4-2-1 Was er auch sagen mag, ich glaube ihm nicht. たとえ彼が何を言おうとも、俺は彼の言うことなんか信じないぜ。

 4-3-1 Ohne Gesundheit ist kein äußeres Gut, welcher Art es auch sein mag, genießbar. 

   健康がなければ、外的な富は、たとえどんな種類のものであれ、享受できない。    

★過渡期の現象として、このmögenを接続法Ⅰ式要求話法にしてしまっているものも時々ある。

 4-2-2 Was er auch sagen möge, ich glaube ihm nicht. たとえ彼が何を言おうとも、俺は彼の言うことなんか信じないぜ。

5 目的をあらわす副文内で用いる

 「~するために」の意の従属接続詞damitに導かれる副文の中では、古くは接続法Ⅰ式要求話法を用いることが多かった。目的の意味を明確にするためである。しかし現代ドイツ語ではふつう直説法を用いる。なお、damitのかわりにさらに古いドイツ語ではdaß(dass)auf daß(dass)を用いていることもある。

 5-1 Er nimmt ein Taxi, damit er den Zug erreiche.  彼はその列車に間に合うようにタクシーに乗る。

5-1-1 Er nimmt ein Taxi, damit er den Zug erreicht.  彼はその列車に間に合うようにタクシーに乗る。

 

 

 

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