この国にはエベレストがある。青い虚空の下、黒い頂上が窓一杯になった時、小さなセスナ機は乱気流に巻き込まれ激しく揺さぶられた。
地上では、大勢の人がひしめき合って暮らしていた。風景は多彩で楽しい。その多くは女性たちだ。長い黒髪を結び、たおやな細身に布をまとい優しげに見えるがしっかりと逞しい働きぶりだ。子供を抱きそして多くの寺々では花と供物を捧げ深く祈る姿は美しい。
ことさら多彩なこの市場で一番に目を奪われたのは女性たちの風俗、山高帽、何枚も重ね着したスカート、背負っているのは鮮やかな布に包まれた赤ん坊や買った品々。山坂を越えてきたらしい強そうな足には泥がついていた。これは見せる物でなく日常の姿らしいのがうれしい。 そして、不揃いで小さめの馬鈴薯、タマネギ、トマト等が転がっている地面を見ると普通ではない。粒揃いの丸い石がびっしり硬く埋め込まれている。これはもう遙かなるナスカの道だ。美しい。めまいがする。あまりにも無造作に立つ自分が不思議に感じた一瞬だった。
