略奪された一人の団長
「ええと、…………もう一度言ってくれるか?」
その日、青騎士団長マイクロトフは、一人の青年に呼び止められた。まだ二十歳を超えて幾らも経たないような相手は、赤騎士団の騎士服を纏っていた。
「では、もう一度最初から申し上げます」
彼は丁寧に頷いて、復習うように口を開いた。
「わたしは赤騎士団第二部隊所属、レセルと申します。以前よりマイクロトフ様をお慕い申しておりました。今現在、決まった相手がおられないなら、お付き合いしていただけないでしょうか?」────『決まった相手はすでにいる』とか、『おれは男だ』とか、言いたいことは山ほどあるが、何しろ驚きのあまり声が出ない。
真っ直ぐに彼を見詰める赤騎士は端正な容貌の持ち主だった。赤騎士団では美貌の団長に次ぐ目の保養要員として周囲の関心を集めている若者なのだが、無論マイクロトフにはそうした情報などない。
当の美貌の団長を射止めた彼にしてみれば、他の人間の顔かたちなど個体の識別手段以外のなにものでもないのである。
彼以外の男なら、この赤騎士に真正面から深刻な眼差しで見詰められたら多少はくらっときたかもしれないが、大輪の花のごとき恋人と向かい合うことに慣れているマイクロトフには、まったくそんな情感は湧かなかった。むしろ言われたことを咀嚼するのに忙しい。
「ええと……お付き合い、というのは…………」
レセルと名乗った赤騎士は、深い溜め息をついた。
「────ならば言い直します。わたしの恋人になっていただけませんか?」
「!!!!!!」
幾らなんでも全然意味がわかっていなかった訳ではない。ただ、そういう申し込みを受けたのが初めてで、念のため確認を入れただけである。
予想以上にストレートな表現をされてマイクロトフは慌てふためいた。
「お、お、おれは男だぞ!」
「ええ、勿論」
「おまえ、そういう趣味を持っているのか?」
「……こうした感情を持つのはマイクロトフ様が初めてです」
「お、おれは気持ちに応えられない!!」
「どうしてですか? 男はお嫌いですか?」嫌い────などと言ってしまうのは赤騎士団長への不実に思える。思わず口篭もったところに相手が畳み込んだ。
「試してみもせず、食わず嫌いをなさるのは良くないと思いますが……」『試す』どころか、もう散々…………とは更に言えない。
「────カミュー団長」
「カ、カ、カミューがどうした?!」
「…………のことがお好きなのでしょう? いえ、わたしは長いことマイクロトフ様を見詰めておりましたから、そのように感じたのですが…………」
「う……………………」
しっかりと言葉に詰まってしまった男に、青年はくすりと笑った。
「……ならば、わたしにもチャンスがあるということですね。マイクロトフ様、わたしはカミュー団長から貴方を奪い取ってみせます」
騎士団の仲間から『小粒のバラ』(団長がバラとうたわれているため)と称される華やかな笑みを浮かべたまま、赤騎士は高らかに宣言した。
そのままくるりと背を向けて去っていく後ろ姿を見詰めたまま、マイクロトフは呆然とするばかりだ。
男に告白されて初めて、想いを打ち明けたときに恋人が感じたであろう心地を理解する。それは一言で言って『真っ白』というものであった────。
「最近、悩みでもあるのかい?」
柔らかな口調で恋人が問う。答えられないマイクロトフに、赤騎士団長カミューは忍びやかに微笑んだ。
「……わたしで力になれることなら、何でもするぞ?」
優しげな言葉にいっそう詰まる。
宣言通り、赤騎士レセルはマイクロトフに対する猛攻を開始していた。
早朝訓練が終わる頃を見計らい、タオルと飲み物を持って現れる。差し入れ自体は実にありがたいのだが、『好きです』という言葉と熱い眼差しには困惑する。
もとが誠意の塊である上、同じ禁忌の想いを抱く同志としては、そうそう無下に扱うことも出来ない。マイクロトフとしては必死に言葉を選びながら拒絶しているのだが、相手はいっこうに怯まないのである。想うだけなら自由だろう。
そう言われると、もし自分がカミューに受け入れられなかったら同じことを考えただろうと想像してしまい、それ以上の言葉が続かなくなる。
残務に追われて夕食を採れなかった日、疲れ果てて戻った自室の扉の前に夜食のトレイが置かれていたこともあった。
勿論カミューもとても気のつく恋人だけれど、やはり騎士団長として忙しい人間である。なまじ白騎士団長に気に入られているため、あるいはこなす業務はマイクロトフ以上だ。
従って、この一介の赤騎士に比べるとマイクロトフに払う時間が少ない。こうして深夜、どちらかの部屋を訪れ合う短い逢瀬が精一杯なのである。
そして何と言っても、朝に関してはカミューに分がなかった。
マイクロトフが元気に訓練に励んでいる頃、彼はまだベッドでもがいているのだから。
疲れたときに示される情にはほろりとくるものだ。
そうしたものに流されるつもりはないけれど、『これがカミューだったなら』と思ったことは幾度もある。それが後ろめたく、知らず無口になってしまう最近のマイクロトフなのだった。
「マイクロトフ?」
「いや────悩みと言うほどのものでは…………」
「……そうかい?」
カミューは温かく目を細めた。
「ならば無理には聞かないけれど……。困っているなら、最後でもいいからわたしがいることを思い出してくれ」
人の機微には格別聡い恋人は、無理に話題を進めようとはしない。それでも、思わずマイクロトフがぐっとくるような甘い配慮を囁いて、しっとりと身を寄せてきた。最後どころか、如何なることも一番に打ち明けたい────それがおまえを傷つけることでない限り。
マイクロトフは心で呟くと、恋人の肩を抱いてなめらかな頬に唇を押し当てた。
赤騎士の献身は痛いほどだった。
まったく何処まで気が利くのかと思うほどに、あれこれ先回りして立ち動く。所属の違う青年が、これほどまでに自分の動向を察知することを不思議に思い、一度それを口にしてみた。
するとレセルは恥じらうように笑みながら、『内緒です』と答えたのだ。
秘密にされると気になるのが人の常、いつしかマイクロトフはこの赤騎士を他の騎士とは区別して考えるようになった。そうして改めて見ると、確かに美しい若者である。
輝くような金髪、晴れた日の大空のような瞳の色。
目鼻立ちはくっきりしていて、青年が自らの姿に自信を持っていることを窺わせる表情をする。
魅力的であることは認めずにはいられなかった。ただ、カミューという相手がいなかったとしても、マイクロトフには同性である彼に恋情を持ったとは到底思えないのだ。
彼にとって男の価値とは、信念の正しさや誇りの確かさ、剣士としての生きる姿勢といったものであり、容姿や体型には意味がない。カミューにしても、美しい容貌をしているとは思うが、彼の魂に惹かれたのであり、決して姿形に左右される感情ではないと思う。
何度袖にされても直向きに追い掛けてくる青年。ただでさえ恋人のことをひた隠しにしているマイクロトフには、気を遣わない唯一の相手となった。
話し込む時間も増えた。マイクロトフの方から進んでカミューの話を出すことはしないが、努めて隠す意識も薄らいだ。「何故、おれなのだ?」
そう問うと、
「では、どうしてカミュー団長なのです?」
とにっこり切り返される。
青年と話していると、改めて自分の感情を正面から見直すことが出来た。
どれほどカミューが大切か────どれほど愛しく思っているか。
赤騎士には申し訳ないと思いつつ、彼がカミューの話題を振ってくるたびに、想いは幾度でも再認識させられる。
赤騎士レセルはカミューに対してあからさまな嫉妬をみせることがなかった。そのあたり、実に頭の良い人間だ。
その瞳が、常に楽しそうに輝いていることに、マイクロトフはあまり気づいていなかった────。
その夜、マイクロトフは苛立ちも露に廊下を突き進んでいた。
白騎士団長ゴルドーが、商いにロックアックスを訪れる交易商人から賄賂を受け取っていることが発覚したのである。
当然カミューは知っていたらしい。だが、裏工作に関心のないマイクロトフは、商人が置いていった進物を初めて目の当たりにして、語調も荒くゴルドーに問い質したのだ。
ゴルドーは激怒した。そうした進物が騎士団を潤すのだと逆に攻め立てられ、いきなり退室を命じられたのである。
残されたカミューが困惑した眼差しで自分を見ていたのに気づいた。この後、腹を立てた白騎士団長をいつもの柔らかな口調で宥めるのだろう。またも自分が恋人の負担を増やしたことで自責を感じ、それでも絶対に賄賂など容認出来ないと怒りは収まらず、滅茶苦茶な気分だった。
カミューの部屋を訪ねたかった。
恋人は優しく自分を受け入れ、癒してくれるだろう。だが、それも逃避のような気がして躊躇われた。
ことごとく不器用な人間だと自嘲しながら部屋に戻った彼は、扉の前に立ち尽くす赤騎士に目を見張った。
「おまえ────」
「こんばんは、マイクロトフ様」
赤騎士レセルは朗らかに笑った。困ったように自分を見ていたカミューの面差しが残っていたため、全開の笑顔に何処かほっとしている自分に気づく。
「良いワインを手に入れたので、お訪ねしたのですが……お邪魔ですか?」
「い、いや────」
そう言われては追い返す理由がない。騎士団長が一騎士と親しくする例はあまり見ないが、よくよく考えれば、彼もかつて尊崇する青騎士団長とそうした楽しい時間を過ごした懐かしい記憶がある。
所属の違いは問題になるまい。かえって自団の騎士でないだけ、気が楽かもしれない────そう思い、青年を部屋に招き入れた。
そう言えば、とふと考える。
カミュー以外の人間を私的に部屋に入れるのは、これが初めてではないだろうか…………。やや後ろめたさを感じたのは一瞬だった。
「────ゴルド−様のことは、あまりお気になさらぬ方が良いかと思います。マイクロトフ様が正しいことは、騎士団の人間が皆、認めておりますから」
いきなり言われて目を見張った。つい今し方の顛末を青年が知っていることに驚いたのだ。
「何故、それを…………」
「わたしにはちょっとした情報網があるのです」
彼は悪戯っぽく笑った。
────すると、荒れた気分を和らげるために訪ねてくれたのか────
マイクロトフは胸苦しさを覚えた。
「…………どうしてお戻りになられたのです?」
「?」
レセルは正面から切り込んできた。
「カミュー団長の部屋へ行かず、何故…………」
「……おれは別に、カミューに慰めてもらおうとは思っていない」
憮然として言うと、青年は微笑んだまま一撃を見舞った。「────苛立っておられるから、腹いせをしてしまうのではないかと恐れられたのではありませんか?」
「は……腹いせ……?」
「そのような意識はなくとも、無意識に乱暴を働いてしまうのでは、と」
マイクロトフは紅潮して机を叩いた。
「おれが────おれがカミューにゴルド−様への不満をぶつけるとでも言うのか!」
「……わたしになら、幾らでもぶつけて下さって構いません」
ふと笑いを納めた青年は、立ち上がって騎士服を脱ぎ始めた。仰天したマイクロトフは青褪める。
「な、な、何をしている?!!」
「忘れておいでかもしれませんが、わたしは貴方をお慕いしているのです。この身体でお慰めできるなら、どうぞ御自由にお使いください」
「なっ…………」
「……無論、カミュー団長には黙っております。わたしとて、あの御方を尊敬しておりますから────無闇に傷つけるつもりなどありません。ただ、今はマイクロトフ様のことしか考えられないのです……」
レセルは最初の一枚を脱ぎ捨てた状態で挑発的にマイクロトフに近づいた。うっすらと笑みを浮かべ、空色の瞳で見詰めてくる。
「────わたしがお嫌いですか……?」
「そ、そういう問題では……」
「でも、こうして部屋に入れて下さったということは、少なくとも多少は好意を持ってくださっていると自惚れてもよろしいのでしょう?」
「う────」
軽はずみな行為を心底悔やんだマイクロトフだ。必死の形相で後退る彼に、青年はやや寂しげな表情を見せた。
「わたしなど、到底カミュー団長の代わりになるとは思いません。でも……お願いです。一度だけでも構いません、わたしの想いを叶えて下さいませんか?」
「……………………」
「今宵限り────二度と近づくなと命じられてもいい……どうか、カミュー団長だと思ってわたしを抱いて下さい。思い出を胸に、諦めますから…………」
「レセル────」
息がかかるほど近づいた青年が、ふっとマイクロトフの胸に身を投げた。反射的に抱き止めた腕に、その唇は密やかな笑みを形作った。
「────好きです、マイクロトフ様…………」
室内には時を刻む柱時計の音と、ふたつの息遣いだけが響いている。
しばらく無言だった男が口を開いたとき、その口調はひどく静かだった。
「…………カミューの代わりなど、何処にもいない」
マイクロトフは決意を滲ませた声で続けた。
「だが────おまえも同じだ、レセル。身代わりなどと、二度と言うな。おまえは十分に魅力的な人間なのだから」
マイクロトフは腕の長さだけ青年を胸から離した。
「……おれは誰でも構わず抱き締めることが出来るほど器用な人間ではない。おれの想いは常にひとつだ────欠片でもカミューに後ろめたい真似は出来ない。許してくれ」
「マイクロトフ様…………」
「……おまえの気持ちは嬉しく思う。初めて自分の想いを曝すことが出来た。だが────応えることは出来ない。おれはもう……選んでしまったのだから」カミューと共に生きることを。想いのすべてを捧げることを。
「…………愛しておられるのですね、カミュー団長を────」
青年が目を細めて呟く。マイクロトフはしっかりと頷いた。誇らしげな表情で。
「天に恥じることなく、彼だけを────生涯かけて」
レセルは目を伏せた。わかりました、と小さく言うと再びマイクロトフを見上げて真剣に訴えた。
「お願いです。一度だけ……一度だけ、くちづけてはいただけませんか?」
マイクロトフは瞬いて、それからゆっくり首を振った。
「言っただろう? おれは、想いの向かわぬ相手に如何なる行為も与えることは出来ない。たとえそれがおまえを傷つけるとしても、それがおれの誠意であり───誇りなのだ」カミューのすべてを得たときから、自分のすべても彼のものとなった。
愛情なく唇を交わすなど、青年とカミュー、二重の不実となるだろう。
マイクロトフの固い意志に、やがてレセルは苦笑した。やや哀しげに見える笑顔で明るく言う。
「……カミュー団長の部屋へお行き下さい、マイクロトフ様。おそらく、あの方もそれを待っておられるはずですから────」
すでにゴルドーへの憤りは鎮火していた。それほど青年に与えられた衝撃が大きかったからだ。
マイクロトフは熱くなる頬を覚えながら頷き、青年と共に部屋を出た。
廊下の分れでいつまでも自分を見送る視線に、心でもう一度深く詫びながら足早に進む。
城の対角に位置する部屋を訪れたときには、もう恋人のことだけで頭が満ちていた。迎えた心配そうな顔を見るなり強く抱き締め、その体温に酔い痴れた。おれのすべてはカミューのもの────
最後に切なくそう思い、その後は燃えるような情熱に溺れ、何も考えられなくなった。
「……以上、報告を終わります」
居並ぶ赤騎士隊長を前に、青年はきりりと締め括った。第二隊長がぼんやり呟く。
「────そうか、やはりそうだったか。疑わしいとは思っていたが…………そうなのか────」
「それはわたしの台詞だ、アレン。いったいいつから、こうしたことを始めたのだ?」
赤騎士団副長が怪訝そうに口を挟む。それに対して第一隊長が丁寧に答えた。
「かれこれ一月半にもなりますか────。決してランド副長に隠し立てするつもりはなかったのですが、事実確認をしてからと思いまして……」
「我ら騎士隊長で話し合い、このたびの策を弄しました」
「名付けて 『カミュー様・青騎士団長と恋仲疑惑説解明作戦』 と申します」
「『揺さぶり作戦』も後から付け加えましたぞ」
「そうだったな、ロドリー」
副長がげっそりした顔で溜め息をつく。そんな様子を知ってか知らずか、第三隊長が高らかに言い放った。
「マイクロトフ団長に探りを入れ、尚且つ誘惑によってカミュー様への想いを試す、まさに一石二鳥の策!! 発案はランベルトであります!!」
「ちなみにマイクロトフ団長の動向は、我らから青騎士隊長に働きかけて情報を流して貰っておりました」
「…………しかし、結果が出たはいいが…………」
「口惜しい…………我ら、何のために不可侵条約など結んでいたのか……」
「『トンビに油揚げ』とは、こういう状況を言うのでしょうな……」
「貴様!! カミュー様を『油揚げ』とは何事だ、安っぽ過ぎるぞ!!」
「アレン殿、ものの例えですから────」
言い合う部下を眺める赤騎士副長の脱力はいっそう酷くなるようだ。
「それにしてもレセル、良くやってくれた」
副長の顔色に気づかない第六隊長が無事任務を終えた赤騎士を慰労すると、青年は苦笑混じりに答えた。
「わたしの容姿を買っていただいたのは光栄でしたが……正直つらかったです。マイクロトフ団長を欺いていたわけですから」
「そうだな────しかし、よくぞマイクロトフ団長はよろめかずにいてくださった。おまえならいつでも、という騎士を大勢知っているぞ」
「突っ走るばかりの御方と思っていたが……誠の純愛なのでしょうな。誘惑に乗らず、カミュー様への想いを通すとは…………」
「……嬉しいような、悲しいような……」
ぼやいた第五隊長に、第一隊長から叱責が飛んだ。
「何を言う、グスター。我らが第一に願うのは、常にカミュー様の御幸せ。不本意ながら、あのお二人が恋仲であることが確かめられた今、影から応援して差し上げるのが我らのつとめ!!」
「────そうですな、マイクロトフ様なら安心してカミュー様をお任せ出来ます……………………うう………………」
「ええい、泣くな!! して、レセル。マイクロトフ団長は間違いなく一指もおまえに触れなかったのだな?」
「はい、まったく。しかし、そうなったらなったで非常に困りました。わたしはこう見えても受け身は一切嗜みませんので────」そう、赤騎士レセル────端正でほっそりした容姿の持ち主だが、彼は真性の上に男役専門なのである。
自団長には密かに心踊るものがあるのだが、崇拝し過ぎるあまり、そうした対象として考えることが出来ないのであった。「万一にもマイクロトフ団長が血迷われたら、どうなったことか…………。それに何より、カミュー様を裏切り、悲しませるような真似は死んでも出来ません」
「うむ。おまえにはつらい役目をさせた」
彼の所属する第二部隊の隊長はしみじみと頷いた。
「……我らは結局のところ、マイクロトフ団長の愛と誠を信じていたのかもしれませんな…………」
ぽつりと呟いた第八隊長に、一同が切なげに同意する。
「そこまで思われておいでなら…………カミュー様は幸福でおられましょう」
「もはや我々には何も言えぬ…………」
最初から何も言えない立場ではないのかと喉元まで出掛かる副長だが、部下の憔悴した様子に口篭もる。
「…………だいたい、今頃になって確認とは…………お二人の仲は相当前からのものなのに────」
「何か仰いましたか、副長?」
「い、いや別に………………」
「では下がっていいぞ、レセル。ご苦労だったな」
「はい、失礼致します」
なおも机に突っ伏す者、天井を見上げて溜め息を吐く者、十人十色の反応を示している騎士隊長らを眺めやり、青年は踵を返した。
あの一瞬────
『おまえの代わりはいない』、そう囁かれたとき、胸が騒いだ。決してマイクロトフは彼の守備範囲ではないのだが、本当に恋に落ちそうになったのは否めない。
あの誠実で真っ直ぐな、それでいて不器用な男に愛されるカミューは、確かに幸せに違いない。赤騎士レセルは微笑みながら、心で二人の騎士団長に祝福を唱え、静かに扉を閉めた────。
タイトル……「略奪」されたのは赤騎士団長、
奪われたのは赤騎士隊長方でした(笑)
途中でネタバレしたかな〜と思いつつ、
一気に書き上げたのは
ラストの隊長たちを書きたかったから〜。
想っても報われない集団、
だけど幸せな苦労人たち。
こいつら、ホントに変な人々……
副長殿の苦労が忍ばれます(笑)
オリキャラがここまで幅を利かせてるのは
うちのサイトくらいだろーなー……とほほ。鳴海っち、こんなもんでよろしいでしょうか?
個人的には「白からプリンを略奪する赤」も
捨て難かったんですけどね(爆笑)