幾千の孤独
最初に思考を持った瞬間を誕生と呼ぶならば、『彼』は生まれながらに独りだった。
他者と語り合う言葉も持たず、触れ合うための姿も持たず。
『彼』はこの世に唯一の放浪者として生まれ出た。
どれほど世界を流離っても同朋と呼べるものは見つからず、己の生まれた理由も見出せない。
終に世界の果てまで流れ着き、一切の存在から異質である己を悟ったとき、『彼』は最初の感情を知った。
────それは孤独。
決して他者と相容れることのない、意識だけの存在。
────誰か。
────誰か、自分を見つけてくれ────
悲痛な嘆願は、終に天に届くことはなかった。
最初の肉体を得たのは偶然だった。
宛てもなく世界を漂いながら、地上の生き物の営みを眺めて僅かな慰めを得ていた『彼』は、ある日気紛れで森へ降りた。
そこに死にかけた一頭の雌鹿と、子であろう、生まれたばかりの仔鹿がいた。雌鹿の背には無数の矢が刺さり、彼女がヒトに追われて傷ついたことを無残に物語っていた。
『彼』はこの世の生き物の摂理に干渉するつもりはなかったし、肉体を持たぬ身ではどうすることも出来ないとも思ったが、そのときばかりは間近に寄って雌鹿を覗き見た。何故なら、か弱く途切れていこうとする命の中で、恐ろしいまでの妄執が揺らめいていたからだ。
生への執着、我が子への想い、自らを狩りたてたヒトへの憎悪と恐怖。
何よりも『彼』が圧倒されたのは、仔鹿を残して逝くことを嘆く母の悲痛な叫びだった。見れば確かに生まれたての命、親の庇護を失えば、それは即座に死に繋がるほど脆弱な存在。
それまで何かに捕らわれることのなかった───あるいは、捕らわれることが出来なかった───『彼』に、その執着の強さはあまりに眩しく、鮮烈に映った。
引き寄せられるまま近づいたとき、突然視界がぶれた。急速に狭くなった視野、そして感じる風と空気の匂い。『彼』は雌鹿の体内に取り込まれた己を悟った。
死にかけた彼女にとって『彼』の膨大な意識の嵩は過ぎたのだろう、ゆっくりと四散して薄らぎ消えていく思考の中で、雌鹿は最後まで我が子を案じていた。
『彼』は呆然とした。
────これが肉体。
重い四肢、揺らぐ意識、馴染めぬ過酷な自然の息吹。
だが、次には歓喜した。己がそうして焦がれたものを手に入れるすべを持っていたことに。
未だ血を流していた肉体を修復すべく望みに燃えれば、即座に全身はそれに応え、鏃を押しやり傷を塞いだ。萎えていた四肢に力を込めれば、意識は全身に行き渡り、力強く大地を踏み締めることを許した。
そこで気づく。幼い仔鹿がじっとこちらを見詰めていた。
獣の本能で異質の存在が傍にあることは気づいても、それに怯えるほど成熟してもおらず、母から離れられない思慕に包まれる小さな命。
『彼』は消えた母と子の絆を思った。これまで知らなかった感情に支配される。それは────
『彼』は子を呼んでみた。初めて他者に掛ける声は、細く震えていた。子は最初躊躇し、それからよろめきながらやって来た。濡れた鼻面を押し当てて、縋るように全身を擦り付ける仕草。その触れ合う体温の温かさ、優しさに『彼』は初めて涙した。
黒く大きな瞳から流れる己の涙は、やはり熱く心地良かった。
『彼』は決意した。
この肉体における生がどれほどのものであろうと、その想いに従って命をまっとうしようと。
この温かさとならば、それまで過ごした幾百千の年月を引き換えにしても構わない。雌鹿が全身で叫んでいた願いに応え、この幼き命を見守ろう。それが厳粛な死に立会い、あまつさえとどめをさすことになった己の役割なのだと。
『彼』は己の生に理由を持った。
しっとりとなめらかな仔鹿の温みを与えてくれた天に感謝した。
肉体を得た生活は新鮮であり、また、不自由でもあった。
これまで縦横無尽に空を駆けてきた『彼』にとって、木々を避けながら森を走り、糧を得ねば空腹に喘ぐという現実は、価値観を一変させるものだった。
それでも一日中野山を駆け巡っても不可思議な力に満ちた肉体は疲弊を知らなかったし、住処に戻れば『彼』だけを待ち続ける温もりが待っていた。
それは『彼』が得た最初の安らぎだった。
異端の生を受けてすでに幾星霜、孤独と絶望、やがて生まれた諦念を道連れに世界を漂い続けてきた『彼』にとって、戻るべき場所、慈しむべき存在はすべてを投げ打っても構わないほど大きなものだった。
日々成長する仔鹿の姿、目を細めてそれを見詰め、『彼』は万物の置かれた時の流れを思う。その輪から外れた己が、今やっと連なることの出来た喜びを噛み締め、そしていつの日か子との別離を迎えれば、そのまま土と還ることすら望んだ。
もう、二度と独りにはなりたくなかった。
他者の温かさを知った以上、それは耐え難い。
仔鹿が一人立ちし、二度と我が元に戻らなくなったことを認めたら、そのときは────
長く、無為に過ごした空虚の生に終わりを告げよう。望みさえすれば、それは叶うと確信している。徐々にではあるが、『彼』は己の持つ力を理解し始めていた。肉体を持たぬ代わりに与えられた「意志の力」、それが限りなく強く確かなものであることを。
だが、一日でも長く────『彼』は思った。
やっと得た平安を、一日でも長らえることが出来るよう。────その願いもまた、天に聞き入れられなかった。
ある日野駆けから戻った『彼』は、遠くに悲痛な叫びを聞いた。
『彼』の帰りを待ち侘びて住処から抜け出た仔鹿が、ヒトに狩られて上げる恐怖の叫びだった。
小高く張り出した丘まで走ると、眼下に逃げ惑う仔鹿とそれを追う複数のヒトが現れた。
────あるいはそれが、弱肉強食の掟なら。ヒトが生きるための、切実な思いを込めての狩りであったなら。
『彼』には見守るしか出来なかっただろう。
どれほど仔鹿をいとおしく思っても、それが世界の理であり、生きるものの宿命だったから。命の輪を繋いでいくとは、かくも残酷で凄まじい戦いであることを『彼』は認めていたからだ。
だが────
それは無残な屠殺の場だった。
多くの傷を受けて、怯えながら逃げる仔鹿を、笑いながら追い詰めていく狩人たち。そこには生存の戦いといった緊張はなく、ただ無力な獲物を嬲る優越感と嗜虐が溢れていた。
『彼』は愕然とした。────何だ。
これはいったい、何なのだ────自らの命を養うために、敢えて他者の命を奪う悲痛な祈りは聞こえない。悪戯に射掛ける弓、逃げ道を塞ぎに走るヒトの口元に浮かぶ楽しげな笑み。
必死なのは殺されかけている仔鹿のみ。血塗れた背中はやっと斑が消えかけて、まだ成獣でないことを物語っているというのに。
仔鹿の細い断末魔の叫びと、殺戮者たちの歓声が『彼』を現実に引き戻した。時すでに遅く、慈しんだ小さな存在がゆっくりと大地に沈んでいくところだった。
濡れ濡れとした黒い瞳、それはかつての母鹿と同じように、理不尽に命を摘み取られる哀しみと恐怖を浮かべていた。やがてその目から光が失われ、痙攣していた四肢が最後の震えと共に地に落ちる。
息絶えた仔鹿を取り囲んだ襲撃者たちが、何事か相談していた。が、彼らはそのまま踵を返したのだ。屠った獲物を持ち帰ろうとはせず。潰えた命を無為に置き去りにして。
その刹那、『彼』の中で何かが弾けた。
────最初から────
最初から、遊びだったのだ。
食するためでもなく、自らの生命を脅かされたわけでもなく。
ただその力を誇示するためか、僅かな高揚を得るためか。
戯れに嬲り殺された骸を前に、『彼』は吠えた。
身の内を駆け回る悲憤と憎悪、呼び集めた大いなる意識の束は、大地を削り、いかづちとなって降り注いだ。
途端に木霊する悲鳴と怒号、我が身に与えられる痛みにだけは敏感な生き物────ヒト。
丘上からその無様な姿を見下ろして、『彼』は思った。
この世でもっとも完成された生き物、ヒト。
だが、もっとも傲慢で醜く、卑劣で残忍な生き物────
焦土と化した大地には、無力な獲物を嘲笑っていた生き物はもういない。『彼』は軽やかに崖を駆け下りて、失われた「我が子」の元へ向かった。
理性の一端が、その栗色の肉体だけを避けて攻撃を降らせた。仔鹿の、今は冷たくなりつつある身体に顔を寄せ、『彼』は幾度も名を呼んだ。そして二度と応えが返らぬことを認めた上で、『彼』は己の決意を変えた。仔鹿に殉ずることを振り払い、新たな使命を見出した。
長い流離いの日々で学んだ事実を反芻する。醜く愚かで無力な身を弁えず、平然と他者の命を奪う生き物。
ちっぽけな利のため平然と同朋を欺き、僅かな思想の違いを理由に殺し合いを重ね、力の誇示を繰り返す唯一の生き物、人間。
獣には決して無い、どす黒く汚れた本性を持つ生き物を、常に固体としての優位を信じて疑わぬ、我欲に塗れた生き物を────壊してやる。
この世界から葬り去る。
倫理の箍を外した生き物を、粛清する神となる────
『彼』は最後にもう一度、死んだ仔鹿を見下ろした。
今日の日の慟哭を忘れぬため、『彼』は仔鹿の名を我がものとした。それはかつて、母たる雌鹿から受け取った記憶。以来、ずっと呼び掛けてきたたった一つの名であった。
小さな亡骸の横に寄り添うように纏った『器』を脱ぎ捨てて、己の望みを果たすに有効な肉体を得るための旅に出る。
夜に息衝く魔獣の誕生。
二度とは振り返らなかった。ただ心だけで仔鹿に別れを告げた。────安らかに、『オーランド』────
いつしかその名は恐怖の伝説となった。
オーランドの孤独な粛清は、だが遅々として進まなかった。大地を焦がす力を持ちながら、あくまで殺戮の手段に固執したからだ。
その脳裏には常に逃げ惑う仔鹿の姿が焼き付いていた。無力に苛まれ、絶望の悲鳴を上げていた儚く脆い存在が。
同じ悲嘆を味わってもらわねばならない。狩られるものの恐怖を存分に。慰みによって命を奪われる無念さを、その身に嫌というほど感じてもらわねば────。
オーランドは次々と『器』を選び、その意識を封じて肉体を自由にするなり周囲の人間を葬った。『器』としたのは一国の君主や権力者、そして名も無き農夫だったこともある。
選別は容易かった。その意識の中にほんの僅かな陰部があれば、オーランドは易々と意識を支配し、我がものとすることが出来た。他人より優位に立ちたい、あるいは財を極めたい───そんな我欲が『彼』を導き入れる。そして共存することを許さぬ『彼』の意識に押し潰されて消滅していくのだ。
オーランドは血に酔った。
ヒトの悲鳴、鮮血の海にだけ、あの哀しい離別を忘れられる。
最初はそれでも相手を選んだ。どうしても死んだ仔鹿に重なる幼子は、殺戮の対象から外していた。
だが、やがて悟った。それらはみな、いずれ醜悪な異臭を放つ存在の予備軍であることに。幼子であっても力関係を振り翳すものの何と多いことか。結局ヒトは争い、傷つけ、奪い合う本性を持っている。
ならば、と粛清の輪を広げた途端、忌むべき魔獣の称号を与えられた。
オーランドは嘲笑った。魔獣とはどちらであることか。保身のままに周囲を平らげ、望みのために他者を屠り。それこそ、魔獣の名に相応しき行為ではないか。
────こんなものだ。
その頃には『彼』が人間に取り憑く意識存在であることを知るものたちが、『彼』を滅しようと試み始めていた。オーランドはその尽くを粉砕し、恐怖の君臨者であり続けた。無論、その名は衆人の知るものではなかったが、突然人柄を変えて傍若無人に振舞う者には『魔獣』が取り憑いたとの烙印が押されるようになった。凌辱の味を覚えたのはいつだったか。
『器』と為した人間に渦巻いていた欲望の示すまま、他者を組み伏し貪った。『器』の肉を通して得る快楽よりも、奪われる者の絶望の味がオーランドを歓喜させた。
無力に喘ぎ、許しを請う人間を力のままに踏み躙る行為。それはあたかも遠い記憶を彷彿とさせる行為である。追い詰められ、逃げ惑っていた庇護すべき対象を嘲笑を込めて跪かせた男たち。
オーランドにとって、それは復讐の一環であり、この上もなく好ましい暴虐となった。
だが、その行為がもたらす本当の意味を悟る前に、『彼』は禍の神として封印された。道連れにした多くの神官が与えた忌み名は『淫獣』────
四百年にも渡る長い、第二の孤独の始まりだった。
その青年を初めて見たとき、遠い記憶の何かが疼いた。
封印を解かれて歓喜しながら得た『器』、その肉体との同化はひどく困難であった。
屈強な四肢、若き力に漲る理想的な肉体。だが、その持ち主にはオーランドの好む暗闇がなかったのだ。人間ならば誰しもが持ち得るはずの暗い欲望、翳りある望み、そうしたものを持たない人間を、およそ『彼』は知らなかった。
あるいは長きに渡る封印によって勘を失っていたのも一因だろうが、「魔」の力を解放させる夜の訪れを頼るしか『器』を支配することが出来なかった。
それでも、オーランドは焦らなかった。如何なる人間も、やがて己に跪く。身を明け渡し、暗闇に沈むときがくる────そう信じて疑わなかった。目覚めと共に視界に飛び込んできた青年は、何処か懐かしい目をしていた。覚えがあったわけではないし、際立って整った容貌を持っている程度に認識したに過ぎない。だが、その眼差しだけがオーランドの何かを揺らした。
『器』の意識から、青年が『器』の情人であることを知った。そう珍しいことではなかったが、興味を覚えた。
白皙の美貌、不可解なほど透明な淡い印象を受ける肢体。決して脆弱には見えないのに、これまで見たことのない柔らかさに満ちた青年。
情人が異形のものに変わり果てたのを知っても、彼は揺らぐことなく向かってきた。未だかつてそうした反応に出会ったことのないオーランドには、あまりに快い衝撃だった。
『器』とした人間に伴侶と呼ぶ相手がいたことは初めてではない。だが、そのいずれもが魔に憑かれた相手を恐れ、自らを救うべく逃げ去っていこうとしたのである。
愛とか恋とか、人間の言葉は上っ面を撫でるばかりの空言だ。『愛している』と囁いたそばから、悲鳴を上げて逃げようとする。そんな姿ばかりを見てきたオーランドにとって、青年の一途な視線は眩しく、そして忌まわしかった。
────これは危険な存在────
本能が囁く。けれど、それを上回る渇望がオーランドを後押しした。
跪かせ、涙させよ。打ちのめし、懇願させ、慈悲を請わせよ。
破壊と殺戮、そして凌辱。選び取った道の示すまま、『彼』は青年を翻弄した。
どれほど悲嘆に喘いでいても、だが彼は誇り高かった。情人を傷つけずに取り戻したい一念に燃え、度重なる恥辱にも毅然と立ち向かってきた。彼を支えるもの、それが『器』への想いであることに気づきながらも、オーランドの自信は揺らがなかった。
いずれ倒れる。疲れ果て、情人を想うことに絶望して、青年は目前に平伏すだろう────
そのときがきたら。
オーランドにはわからなかった。そのとき、己が青年をどうするのか。これまで同様、獲物を引き裂き、その喉首から断末魔の迸りを上げさせたいのか。それとも────
『器』とした青年の意志に引き摺られているのか、あるいはそれが自らの意志なのか、見定めることが出来なくなったときから運命は決まっていたのかもしれない。
聖なる風によって空虚の世界に追われ、閉じ込められた魔獣はひとり笑う。
────まったく不覚を取った。
四百年前の苦渋とは別の、むしろ穏やかな自嘲だった。
あんな人間が残っていたのだ。自らの危機を省みず、同朋のために苦難に立ち向かう勇者たちが。
「愛」のため、「信頼」を絆に戦いを挑んできた男たち。
その見事な団結に、魔獣は苦笑を禁じ得ない。
『器』と為した騎士たる青年。
その意志の何と頑強で健全であったことか。
僅かな躊躇もなく、些かの後退もなく、ただ真っ直ぐに突き進むことしか知らぬ意志に負けた。初めて支配を振り切った人間に、オーランドは怒りよりもむしろ憧憬さえ抱いた。
貫く意志の強さ、確かさ、温かさ。長い放浪の中で見てきた人間の薄暗い一面を、それは払拭して余りあった。
最後の『器』が彼であったことに、オーランドは理由を得る。
何故、あの相容れぬ存在を『器』とすることに固執したのか。
男が青年の情人であったことよりも、更に奥深く。思うに任せぬひとがたを、それでも手放すことが出来なかったのは────感じていたのではなかったか。
あの『器』こそが、自らを滅ぼす力となることを。
待っていたのではなかったか。
いつの日にか、揺らがぬ正しき信念を持つものたちが、呪われた己を解放してくれることを。
そして『贄』と呼んだ青年────
どれほど汚し辱めても、屈することなく見詰め返してきた琥珀の瞳。あの目に跪いたのは自分ではなかったか。
『器』同様、前を見詰め、それでいて『器』を見詰めるときにだけ、ほのかに色合いを変えたあの瞳────あれは遠い記憶の中で、自分に向けられた眼差しではなかったか。黒く輝く潤んだ瞳、絶対の信頼と無償の情愛、何処までも愛しかった小さな存在。
同じものを、『器』に向き合う青年に見たのではなかったか。あの輝く眼差しが欲しかった。
一途に迸る情熱を向けられたかった。
無防備に開かれる心を得たかった。
抱き返す腕の温かさを独り占めしたかった────
手に入らぬならば、壊してしまいたいほど。
意思を失くした青年は、もはや彼ではないと認めていても。
『器』の男に向けられる彼のすべてを奪い取り、長き孤独を埋めたかった。
永遠にも等しい、絶望と諦めに彩られた生。その空虚を埋め尽くしたかった────けれど。────今ならばわかる。
『愛』を奪うことは出来ないのだ。
奪い、壊すことしか知らぬ己にどうして、与え、育むことが出来ただろう。淫らな獣と謗られながら、他者と身体を繋いできたのは温もりに飢えていたからだと、今更悟って何になるだろう。
この執着が愛と名付けられるものならば、その想いに囚われることこそ滅びへの一歩だったのだ。
閉ざされた異世界、だがここでも己は不死の身であるらしい。
『彼』は静かに決意した。
ここを最後の住処としよう。
かつて決めていたように、意志の力で生を終えよう。懐かしい記憶の瞳、そして今なお鮮やかな瞳を描きながら、永劫の孤独に別れを告げよう。
もはや言葉にするための肉体を持たぬ『彼』は、思考のすべてで最後に叫ぶ。
────カミュー……おまえに────
漠と広がる異質の世界は、異端を受け入れ、優しく抱き止める。
四散した魔獣の意識の欠片に刻まれていたもの、それはヒトへの祝福だったかもしれない────
この辺でお気づきの方もいらっしゃるでしょうか。
実はオーちゃん、ルカ様のイメージで書いてました。
先日メールで指摘されてびっくり〜。
そこまで読んでくださる方もおられるとは!にしても、すっかり鬼畜外道魔物ではなく
純愛野郎になってしまったオーちゃんですが、
この話をオーちゃんバナー(いつからそんな名に……)作成者、
めぐみ様に捧げさせていただきます。
や、やっと終わったわね、エミリアさん……!!(逃避)