騎士の事情


まだ日も高いというのに、酒場は結構な賑わいを見せていた。
新・都市同盟軍の本拠地には、戦時下ではあっても時たま訪れる無柳を埋めるための施設が多々ある。この酒場もそれらの一つで、女主人レオナの気っ風の良さや、同盟領内外から集められる酒を目当てに、足を運ぶ人々が絶えない。
この日も店内はほぼ満席といった状態だった。その一画で酒を酌み交わしていた傭兵たちが、ふと珍客に気付いて声を張った。
「おいこら、おめーら、ここはお子様の来る店じゃねーぞ」
ビクトールが言えば、フリックも苦笑する。
「まあ、そう言うなって。こっちへ来いよ、二人とも」
それは同盟軍の指導者ウィンと、その義姉ナナミであった。入っては来たものの、居心地悪そうに立ち尽くしていた二人は、フリックの言葉に弾かれたように歩を進めた。
傭兵たちが引いてやった椅子にちょこんと腰掛け、少年は辺りを窺い見る。
「だからよそう、って言ったのに……ぼくら、場違いだよ」
小声で言うが、少女は憤然と言い返した。
「一緒に来てなんて言わなかったよ。ウィンは帰ればいいじゃない」
姉弟喧嘩というにはあまりに一方的である。この同盟軍内では相対的に女性陣が強いのだ。取り成しを兼ねて、フリックが割り込んだ。
「まあ、何たってウィンはおれたちのリーダーなんだし、場違いってことはないさ。酒……はアレだが、軽いものでも摘むか?」
だが、少女はきつい目で彼を睨んだ。
「子供扱いしないでよ、酒場っていうのはお酒を飲むところでしょ」
「おいおい、穏やかじゃねえなあ」
それまで可笑しそうに遣り取りを眺めていたビクトールが乗り出した。
「どしたよ、ナナミ? 何かムシャクシャすることでもあったのか?」
まあね、と澄まし顔でフリックの飲み差しのグラスを取ろうとする。奪われまいと慌ててグラスを遠ざけた傭兵が怪訝そうにウィンを見据えた。
「本当に、どうしたんだ?」
少年は口籠りながら答えた。
「ヤケ酒、なんだそうです」
「はあ?」
つまり、と更に小さくなった声が続ける。
「自分があんまりにも女としての魅力がないから、ヤケ酒を飲みたい気分なんだそうです」
傭兵たちは「成程」と頷いて良いものかどうか、たいそう難しい選択を迫られたような心地に陥ったのだった。

 

 

 

結局ナナミは温めたミルクで心を癒すに留まった。これはレオナの心尽くしだ。ほんの少し甘いエキスを加えたミルクで懐柔されるあたりがナナミらしい単純さである。
両手で包んだカップを美味そうに啜る少女を眺めつつ、フリックが切り出した。
「……で? 何でまた、そんな自棄になったりしたんだ? 誰かに女らしくないとでも言われたのか?」
「んなの、今更誰も期待しちゃいな……って、痛ェな!」
テーブルの下で相棒に思い切り足を踏まれて憮然とするビクトールだ。しかし、縋るような指導者の眼差しに気付き、渋々と言い募る。
「誰に何を言われたか知らんが、気にするこたーねえぞ。おまえは同盟軍・リーダー殿の姉さんだ。間違いなく、女の子だぜ」
今一つ慰めになっているとは言い難い台詞だが、ナナミは小さく頷いた。
「ガサツで女の子らしくない、ってのは分かってるの。でも、やっぱり男の人から見たら魅力ないんだろうな、って……」
珍しく消沈している様子にフリックの常識人としての良心が奮起した。
「そんなことはないと思うぜ? 確かに、おれたちなんかは仲間として考える方が先に来ちまうが……ほら、例えばカミュー、あいつはちゃんとおまえをレディ扱いしてるじゃないか」
マチルダ騎士団を離反して同盟軍の一員となった元・赤騎士団長カミューは、本拠地中の少女らの憧れの的だ。相棒である元・青騎士団長マイクロトフも精悍な騎士ぶりで人気を博しているが、それとは微妙に異なる評価を捧げられて現在に至る。
カミューの女性に対する礼節は、他の騎士とは比較にならないスマートさだ。他の男が口にすれば歯の浮きそうな台詞を、ごくごく自然に吐いてみせる。
気障な奴だと初めは思っていた傭兵らも、いつしか納得するようになっていた。あれがカミューの地なのだ、と。
何しろ彼は、幼女から年配の女性に至るまで、まるで変わらぬ姿勢で相対する。彼にとって女性はすべて「レディ」であり、にっこりと微笑むべき相手なのだ。
かと言って、女性と見れば鼻の下を伸ばす節操のない連中とも違って、何処か一歩退いたような慎ましやかさがある。決して下心を感じさせず、それでいて紳士的な態度で遇してくれる男性、本拠地の女性陣はそんな目で赤騎士団長を見ているようだ。
例に洩れず、ナナミもカミューに魅了された少女の一人であった。無論、恋愛感情とは程遠い、思春期にありがちな幼い憧れに過ぎないのだが、彼に話し掛けられれば頬を染め、男勝りの影も潜めて無邪気に浮かれる。それを知るからこそ、フリックとしては何気なく零した言葉だった。
ところが、カミューの名を聞いた途端にナナミはプルプルと震え出した。
「……お願い。今はその名前を出さないで、フリックさん」
傭兵は小首を傾げる。
───「誰彼構わずレディ」な男を引き合いに出したのはまずかっただろうか。それとも、非常に考え難いが、彼が現在のナナミの鬼門だったのか。
「……カミューに何か言われたのか?」
「ううん、まさか。カミューさんはいつだって優しいもん」
その一瞬だけ、少女は夢見る乙女と化したが、次には更に薄暗くなっていた。
「……カミューさん、って言うか、その横にいる人を思い出すのがつらいの」
「マイクロトフか」
今度はビクトールが眉を寄せる。
ナナミが、これまたマイクロトフにも憧れているのは周知の事実だ。カミューは素敵、マイクロトフは格好良い。女心は実に難解なのである。
「するってーと、何か? マイクロトフに女らしくないとでも言われたのか」
それはそれで考えづらい。無骨ながら、彼も女性に対して礼儀正しい男だ。
ただ、カミューに比べると、彼のそれは実に堅苦しい。女性に囲まれると、にっこりするどころか、引き攣ったように顔が強張る。騎士団という男所帯にあって、ロックアックス時代から女性とは縁遠かった、などとカミューは弁護しているが、成る程、他の騎士も似たようなものだ。つまり、カミューのような男が特別なのであり、マイクロトフとしては不慣れな相手に戸惑っているだけなのだろう。
そんな男が、幾ら慣れていないとしても、少女の心を傷つける暴言など吐くとも思えない。探るように言ったビクトールだったが、これは即座に否定された。
「ううん、そんなこと言わないよ。それどころか、碌に話もしてくれないもん」
包み込んでいたカップが揺れる。そこで初めてウィンが口を開いた。
「そうなんですよね、寧ろそっちの方が問題だったというか……」

 

今から少し前、本拠地内をうろついていたナナミは、マイクロトフを見掛けて声を掛けた。
彼は日頃カミューと一緒の時が多い。珍しく一人でいる男は、いつもと違って何処か寂しげに見えた。話し相手にでもなれたら、と軽く考えて呼び掛けたところ、彼は足を止めて堅苦しい挨拶をしてくれた。だが、思い切って「お喋りしませんか」と誘ったところ、まるで相手にされなかったのだという。

 

「つまりですね、マイクロトフさんは他の人を訪ねる途中だったんです。そちらを優先したいから申し訳ない、って」
ナナミが男の後姿を見送っているところへ丁度ウィンが行き会ったという訳だった。補足を受けた傭兵たちは顔をしかめた。
「そんじゃ、しょうがないじゃねーか。別にマイクロトフは悪くねえだろ」
「女としての魅力がない、とも言ってるようには聞こえないぞ?」
「だからそんなの分かってるんだってば」
ナナミは憮然と頬を膨らませた。
「でもでも、男の人って普通は若い女の子に誘われたら、悪い気はしないものなんでしょ?」
「普通、って言われてもなあ……」
「っつーか、人それぞれだろ」
首を捻ってからビクトールはポンと手を打った。
「するとアレか? マイクロトフの奴は熟女趣味で、小娘には興味ねえ、ってか?」
言っておいてから吹き出す。それこそ何とも現実味に欠けていたからだ。
生真面目な青騎士団長は、年齢や容貌を問わず、女性全般に関心が薄いように見える。
彼にとって重要なのは、一に騎士道、二に騎士道。女性に配慮はするが、飽くまでも礼節の範疇を越えない。縁遠い環境が禍して、こと恋愛沙汰には無関心に至ったとでも言いたいような人物なのである。
フリックもまた、相棒の言に肩を震わせていたが、それを遮ったのはウィンの嘆息気味の呟きであった。
「あの人に比べたら、誰だって小娘だと思うなあ……」
「あ?」
虚を突かれた傭兵たちは、更に続いた説明に瞬いた。
「マイクロトフさんがナナミの誘いを断って訪ねようとしてたのって、タキさんなんですよね」

 

 

 

 

 


それから程なくして、四人は本拠地西棟の裏手に陣取っていた。
タキはレイクウェストの村に住んでいた、齢72才になる女性である。穏健で平和そのものといったタキを見れば、誰もが不可解を抱かずにはいられない。いったい、誰が彼女をこんな戦争集団に招き入れたのか──勿論、同盟軍の指導者ウィンである──などと、最初は非難がましい意見もあったが、やがてそれも消えた。
タキはとにかく物知りである。その上、温かな雰囲気で周囲を和ませる良き「おばあちゃん」だったからだ。
マイクロトフが訪ねたのが彼女では恋愛関係の線は消えるだろうが、今度は別の興味が湧く傭兵たちだ。いつも厳しく背を正している男が、老女に何の用があるというのだろう。
そんな訳で、いつもタキがいる部屋の外に忍んで、聞き耳を立ててみることにしたのだった。
「ねえ……やめませんか?」
少年が常識人フリックの袖を引くが、代わりとばかりにビクトールに一蹴される。
「んだよ、面白そうじゃねえか。あのガチガチ堅物男がタキ相手に何を話してるのか、気になるだろうがよ」
それはまあ、と正直に頷いた上でウィンは眉を顰める。
「でも、これって盗み聞きだし……」
「だったらウィンは戻ればいいじゃない。付き合い良く、ついて来ることないのに」
窓枠にへばりつくようにしてナナミが睨む。おばあちゃんに負けた、という事実が少女を駆り立てているらしい。
「お、いるいる。今日はリッチモンドがいないんだな、マイクロトフの奴、タキと二人きりだぞ」
背後の少年らに解説するビクトールの横、フリックが苦笑した。
「まあ、そう気にするなって。もし深刻な相談でもしてるようなら、盗み聞きは中止するさ」
まるで興味がない訳ではないので、ウィンもそこで漸く迷いを振り払った。四人揃って窓枠を囲むが、中の声は聞こえない。
「っと……、これは窓を開けないと駄目だな」
「よっしゃ、おれがやる」
「気付かれないでね、ビクトールさん」
「任しとけ」
コソコソと囁き合った後、よっこらせ、と傭兵は剣先を窓枠に引っ掛けて、巧みに窓をずらした。ほんの僅かに開いただけだが、石壁の反響か、たちまち中の会話が洩れてくる。一同は中から見えないように地面に屈み込んで耳を峙てた。
「───それからね、高いところではお湯が早く沸くんだよ」
途端に四人は脱力する。
「……いつもと同じじゃねーか」
「あれ、ぼくも三回くらい聞いたな……」
「マイクロトフさん、わたしとお喋りするより、こういう話の方が楽しいんだ……」
「地味な好みだなあ」
窓枠下にて、小声で感想を呟く各人だ。さながらナナミの嘆きが聞こえたように、室内ではタキがマイクロトフに問うていた。
「でもねえ、騎士さんにこんな話は面白いかしらねえ」
すると、たいそう厳格な口調で青騎士団長は言い放つ。
「無論です、タキ殿の御口授はたいそう奥が深い。骨身に染みます」
「……教えなのか、あれって?」
息を潜めて突っ込んだのはフリックだ。外野の反応も知らず、マイクロトフは尚も熱っぽく続けた。
「先日教えていただいた説も、非常に役立ちます」
「まあまあ、何を言ったかしらね」
「つばめが低く飛ぶと翌日は雨になる、という……。雨天の作戦行動は敵に気付かれにくいけれど、体力を著しく消耗するという不利があります。やはり、避けるに越したことはない。日々の訓練にも実に有益な知識ですな。今後、つばめが低く飛んだ翌日の野外訓練は、前もって室内訓練に切り替える手筈が取れます」
「何だか難しいけれど、役に立つなら良かったねえ」
ビクトールが大仰に溜め息をつきながら零した。
「何つーか……良かったじゃねえか、ナナミ。女として負けた訳じゃなくてよ」
フリックも同意顔で頷く。
「……と言うより、あいつに女扱いされなくても、全然気にしなくて良いと思うな」
「───まったくです」
不意に背後から掛かった声に一同は竦み上がった。一斉に振り向くと、そこには端正な青年が、彼らと同じようにしゃがみ込んでいた。
「うわっ、カミュー!」
「おまえ、どっから沸いて出た?」
すると美貌の赤騎士団長は、しっ、と指を唇に当てて嗜める。
「お静かに。気付かれてしまいます。つい先程からご一緒させていただいておりました」
中の会話に気を取られていたとは言え、まったく見事な気配の消し方である。いつの間にか盗み聞きの輪に連なっていたカミューは、その容貌が容貌だけに、ちんまりと座る姿が実に似合わない。
「カミューさんもマイクロトフさんの様子を見に来たんですか?」
ウィンが問うと、彼はやや表情を曇らせてナナミを見た。
「いえ……、実は、ナナミ殿が彼に冷たくあしらわれて泣いておられたのを部下の赤騎士が目撃致しまして……」
「別に冷たくされてないし、泣いてもいないけど」
ウィンは首を傾げた。するとカミューも小さく笑った。
「ならば良かった。あいつは気の利かない男ですし、てっきり失言でもしたかと……代わりにお詫びしようとお探ししていたのです」
成程、と納得してからビクトールが感嘆気味に呟く。
「しっかし、よくもまあ、そんな細かいことまで見てるなあ」
「赤騎士団の信条は「日々是れ諜報」、本拠にて生じる様々において常に目を光らせ、耳を欹てておりますから」
それも何だか嫌だな、と考えたフリックだが、賢明にも口を噤むのに成功した。
「酒場でお見掛けしたのですが、皆様こちらへ移動なさったので……何事かと後を追ってみました」
「で、一緒になって聞き耳立ててたのか」
小声ながら、ビクトールは笑い出した。カミューは軽く肩を竦める。
「先日から、時折マイクロトフが姿を消すので気にはなっていたのですが……タキ殿をお訪ねしていたのですね。思い掛けず、彼の動向も探れました」
「変わった取り合わせだけどな」
室内では相変わらずほのぼのとした、だがある意味、穏やかならぬ会話が続いている。
「高いところで湯が沸き易いとは知りませんでした。ロックアックス城は高所に位置しているのです。下方から寄せる敵を湯攻めにするという戦法も使えますな」
「あらあら、そうなの。お湯は熱いからねえ」
「しかし、そうなると……たらいが大量に必要になりますな。軍事予算を割けるだろうか……」
吹き出し掛けたフリックが横目でカミューを窺う。
「どうだ、カミュー? たらいは軍事予算で買うのか?」
「備品扱いですね」
澄まし顔で言い、彼は首を振ってナナミを見た。
「マイクロトフは決してナナミ殿を粗略に考えている訳ではありません。ただ単に、好意というものに疎いというか……レディ慣れしていないため、避けがちになってしまうだけなのですよ」
うん、と少女も顔を綻ばせた。
「それは分かってたの。タキおばあちゃん、とっても良い人だし。ただ、何て言うか……少しだけ悔しかったんだ、私もマイクロトフさんとお喋りしてみたかったから」
「こうした会話でも?」
「うーん、ちょっと遠慮したいかなあ……」
では、とカミューは微笑んだ。
「そろそろ足も痺れてきましたし……場所を移すのは如何でしょう。ハイ・ヨー殿が新作のケーキを焼かれたようですから、皆様揃ってお茶にしませんか?」
「わあ! 行こうよ、皆!」
たちまち明るく叫ぶ少女を、残りの男たちが慌てて宥める。
「大声出すなってば、バレちゃうよ」
「甘いものかー……ま、たまにゃ良いか」
「本当に足が痺れたぜ……」
五人は窓下を這って移動して距離を取り、それから立ち上がって大きく伸びをした。
これ以上、屈強で厳格な青騎士団長のささやかな憩いを邪魔するつもりはない。並んで遠ざかりながら楽しげに語り合う。
「マイクロトフの奴、あれで結構タキのために通ってるのかもしれないな」
「お年を召したレディは会話がお好きですからね」
「だから、そこは素直に「おばあちゃん」って言っとけよ、カミュー……」
「おばあちゃん孝行かあ。マイクロトフさんって優しい人ですね」
「ああ、やっぱり格好良いよね……」

 

───だから、彼らは知らない。
一同が立ち去った後、室内の会話が一変したことを。
「……それで? そろそろ話してごらんなさいな、何でも聞いてあげますよ」
老女が優しく諭すように笑う。刹那、雄々しき青騎士団長はきつく拳を握り締めた。
「あなた、猫にミカンの皮の匂いを嗅がせるとどうなるか、とか……そういうのを聞きに来てるんじゃないでしょう? 安心なさいな、決して口外しませんよ」
尚も励ますように言い募るタキに、マイクロトフは吹っ切れた顔を上げたのだった。

 

 

 

 

 


「そう……、つらい恋をしてるんだねえ」
堰を切ったように語る男の激情が途切れたとき、タキはぽつりと呟いた。
「そうなの、もう十年以上も……赤騎士団長さんも、つれないねえ」
「まったくです。人のことを鈍感だ何だと言うけれど、おれに言わせればカミューだって鈍い。信じられますか、タキ殿? 決死の覚悟で「好きだ」と伝えても、あいつは「友人に面と向かってそんなことを言うなんて」と感心するだけなのです」
「あんまりだねえ、それじゃあ一生報われないね」
しみじみと同意して、タキはにっこりする。
「そういう子には、ちょっと強引に出た方が良いかもしれないね」
「強引……と仰ると?」
まさか、とマイクロトフは蒼白になった。
「そ、それは駄目です! 幾ら限界が近いと言っても、無理矢理押し倒すなど、騎士の誇りが……」
するとタキはコロコロと笑い出した。
「はいはい、せっかちな子だねえ、そこまでしなくても良いのよ。言葉では伝わらなくても、文字なら……恋文を書いてみたらどうだろうねえ」
「恋文、……ですか?」
困惑して目を丸くする男に老女は信念を込めて続ける。
「切ない想いを文にしたためて、「恋人になってください」とお願いしてごらん。それなら幾ら鈍い子にでも、はっきりと伝わるからね」
「な、成程……文書か、それは妙案ですな」
だが、とそこで彼は深刻な面持ちで乗り出した。
「おれは文才にも自信がないのです。タキ殿、恋文を書き上げたら、申し訳ないが、添削していただけまいか?」
「しょうがないねえ」
新同盟軍の知恵袋、温和で慈悲深いタキは穏やかに笑んで頷いた。
「息子が嫁に贈ろうとした恋文も、それは誤字が多かったよ。まったく、男の子はいつまでたっても子供だねえ。おばあちゃんに任せなさいな。上手くいくと良いねえ、騎士さんや」

 


どっちと絡ませようか迷って、結局は青にしました。
ついでに肩でも揉ませようかと思ったけど、
骨折しそうだから中止(笑)
タキおばあちゃんにとっては、
騎士団長も手の掛かるお子様なのでした。

しかし、推敲してて思いましたです。
赤が何だか変な人……。

 

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