ワレナベ に とじぶた
「……っ、すまない。もう一度、いいか……?」
半身を起こしたマイクロトフが、荒い息の合間に囁く。滴り落ちた汗が、組み敷かれたカミューの白い胸を伝った。彼もまた、何とか息を整えようと苦心していたが、男の言葉に小さな溜め息を洩らした。
「……駄目だ、と言ってもするんだろう?」
「勿論だ! このままでは気がすまない。今度こそ騎士の誇りに賭けて、おまえを満足させてみせる。でなければ、男がすたるというものだ!」
(おまえの場合、やればやるほど男がすたっていくような気がするんだが……)
内心思うが、口にはしない。大きな図体をしているくせに、マイクロトフはカミューの言葉の一つ一つに妙に反応するのである。
殊に、夜の行為に関しては。
「……無理はするな」
「わかっている! よし、いくぞ!!!」
(そういうところが、情緒に欠けているんだよ)
騎士団の訓練でもあるまいに、『いくぞ!』はないと思うのだが、そこがマイクロトフたる所以である。
挿入以前の慣らしの段階で、本日も早々に達ってしまった男が再戦に挑み始めた。こういう関係になってしまうまで、彼らに同性相手の性交渉の経験は皆無だった。おまけにマイクロトフに至っては、童貞喪失のお相手がカミューときているものだから、未だにレベルが低いのも無理はない。
(いッ……痛いって言ってるんだよ、クソ!)
普段、決して口にしないような罵倒を心で吐いて、カミューは侵入してきた男の圧迫を耐える。
思いつく限りの罵声を浴びせてやりたいところなのだが、そこは一応愛しているので、喉元で留めているのである。
「うっ、キツい……、凄くいいぞ、カミュー……」
「マ……イクロトフ……」
(わたしはぜんぜんよくないぞ。まったく、どうしてこんなに不必要にデカいんだ……)
「頼む、少しだけ力を抜いてくれないか? こ、このままではまた……」
「わ、わかった。善処する」
傍で聞いていれば、カミューの台詞もこうした行為の最中には相応しくないのだが、赤騎士団長なので仕方ない。
「あと半分、いや三分の一……、も、もう少しだぞ」
(いちいち解説するな!)
「苦しいか? 少し休むか……?」
「い、いい。いいからもう、一気にやってくれ」
休んでいる間にも暴発しかねない男だ。そんなことになったら、再戦の再戦になってしまう。ただその懸念だけで言った言葉なのだが、マイクロトフは都合良く解釈したらしい。
「カ、カミュー……苦しいだろうに、おれのために……っっ。よし、わかった。そうだな、斬れ味の良い剣で斬られた方が、治りが早いとも言うし……。つらい決断をするのも、騎士のつとめだ。ここは心を鬼にして、一気に最後まで入れさせてもらうぞ!」
(な、長々としゃべってる暇があったら、早く何とかしてくれ! 斬れ味が……どうしたって? ああ、何だってこうズレまくっているんだ、こいつは!)
「耐えてくれ、カミュー! いくからなッ!」
一応は気遣うような言葉を掛けておいて、マイクロトフは弾みをつけてカミューを貫いた。恐ろしく逞しい欲望に深々と抉られて、カミューは心の底で叫んだ。
(ひっ……ぎゃああああああああああッ)
だが、優美で上品な赤騎士団長は、決してそれを声にはしない。
「……全部、入ったぞ……。よく頑張ってくれたな」
哀れ、ほろほろと涙をこぼすカミューに、マイクロトフは感じ入ったように首を振り、そっと髪を撫でた。
「泣いているおまえは……物凄く綺麗だよ……。何だか、もっと泣かせてみたくなるな……」
(か、勝手なことを言うな! ああ……くそ、あまり泣くと鼻水が出てくるじゃないか……)
「まだ痛むか……?」
「だ、大丈夫だ……何とか……」
「無理するなよ、カミュー。つらかったら言えよ?」
(言ったらやめるのか、おまえは!)
内心の叫びとは裏腹に、潤んだ目で男を見上げる。
「平気だよ……おまえになら、どうされても……」
(ああっ、わたしの馬鹿! こんな時に、お愛想なんぞ! 本気にする、絶対本気にするぞ、こいつは!)
「っっ……、カミュー……!!!」
感激したようなマイクロトフが、がっしとカミューを抱き締める。その拍子に体内の欲望に擦られて、気の毒な赤騎士団長は仰け反った。
「可愛い、何て可愛いことを……おまえは! 同じだ、おれも同じ気持ちだッ! 二人でどこまでも感じ合おう! その果てに、素晴らしい未来が待っている!」
(ああっっ、やはり!!! 火に油を注いでどうするんだ、わたしは!)
「うおおおおおおおおッッ! 動くぞっ、カミュー!」
(ま、待て、待ってくれ。動くぞ、って……最初からそんな……っ、ひえええええええッ)
物事の程度というものを知らない男に、美辞麗句は禁句だった。相手の性格を知り尽くしていながら、時折こうしたあやまちを犯してしまう。どうやらカミューも、本気の恋愛にはあまり巧みな男ではないようである。
「好きだッ、カミュー! 綺麗だぞっっ!!!」
「あっ、あ……っ、マイクロトフ、ああッッ!」
「おれも頑張る、おまえも頑張ってくれ!」
「せ、声援を感謝する……」
かくして同盟軍・本拠地の夜は、まことにうるさく更けていく。
ネタは、小田えみさんとの煩悩FAXより
<エッチのときもうるさいマイクロトフ>
これを書いて思った……。
わし、本当にカミュー様にドリー夢みてるんだろうか?
これから先、ますます馬鹿に磨きがかかっていく……(笑)
ま、いっか。