ポプラの木の歌
 
ポプラの木の出てくる唱歌「牧場(まきば)の朝」は、一九三三年(昭和八年)に「新訂尋常小学唱歌」で発表された、作詞者不明、船橋栄吉(ふなばしえいきち)作曲の歌。日本の歌百選に選ばれた歌のひとつ。文部省唱歌に作者不明の歌が多いのは、文部省が作者を公表しなかったことが原因だと思う。つまり作者は文部省という扱いだったのであろう。
 
この歌は福島県岩瀬郡(いわせぐん)鏡石町(かがみいしまち)にある日本で最初の西欧式牧場、岩瀬牧場の朝の情景を歌ったものとされ、鏡石町の町の歌に指定されている。この牧場は御料(ごりょう)牧場と呼ばれる宮内庁直轄の皇室のための牧場として始まったが、現在は民営の観光牧場になっている。
 
なお歌詞に出てくる鐘は友好の印としてオランダから同牧場に贈られたもの。また「うっすりと」は「うっすらと」に同じ。「黒い底」は地上にはまだ夜の闇が残っていることを表しているが、「黒い底から勇ましく」がポプラ並木にかかるのか、鐘の音にかかるのか分かりにくい。

  牧場の朝

ただ一面に立ちこめた
牧場の朝の霧の海
ポプラ並木のうっすりと
黒い底から勇ましく
鐘が鳴る鳴る、かんかんと

もう起き出した
小舎小舎(こやごや)の
あたりに高い人の声
霧に包まれあちこちに
動く羊の幾群(いくむれ)の
鈴が鳴る鳴る、りんりん

今さし昇る日の影に
夢からさめた森や山
あかい光に染められた
遠い野末(のずえ)に牧童の
笛が鳴る鳴る、ぴいぴいと

ポプラという名前は街路樹や公園樹として利用されるヤマナラシ属の樹木の総称であり、この名で呼ばれる木にはいくつか種類があるが、岩瀬牧場のホームページの写真などから判断すると、この歌に出てくるポプラ並木はセイヨウハコヤナギ(西洋箱柳)の並木のようである。
 
セイヨウハコヤナギは、ヤナギ科ヤマナラシ属の落葉高木、最大樹高は三十メートル、枝がすべて天に向かってバンザイをするように伸び上がる、竹箒を逆さに立てたような樹形の木である。つまりもっともポプラらしい樹形のポプラの木であり、原産地はヨーロッパから中央アジアとされる。
 
ところがこの種は、強風で根返りしたり枝が折れたりしやすいことから、日本での植樹は台風の影響の少ない北日本に限られ、この木の並木で有名なのは札幌の北海道大学のポプラ並木である。
 
セイヨウハコヤナギには、ポプラ、イタリアポプラ、イタリアヤマナラシ、などの別名もあり、ハコヤナギの名はこの木の材で箱を作ったことに由来する。つまり木箱を作るのに適した柔らかな軽い材質であり、マッチの軸にも使われる。またヤマナラシは山鳴らし、わずかな風でもさらさらと葉ずれの音をたてることに由来する名である。

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