エネルギーと食糧および水危機(H27.3.23一部改訂)

世界の人口もエネルギー消費もまだ増加しています

 環境問題と並んで危惧されているのは人口問題です。 世界の人口は1971年には40億人、1987年には50億人、2000年には、60億人を超え、今年(2011年)はついに10月31日に70億人を越えました。 最近の予測では2050年の世界人口は95億人前後、2100年には100億人超となっています。 一方、日本は本格的な人口減少時代に突入したようです。

人口増加

  いま現在の人口(推計)を知りたければ、 世界人口時計があります。  刻々と増える人口を見ていると迫力があります。
  これに伴って、世界のエネルギー消費は、文献21)によれば、WEO2013(2011年データ)と国連の世界人口推計をもとに、以下の(大胆な)仮定を置いて計算しています。
・先進国の一人当たり一次エネルギー消費量は、今後も現在と変わらない(増加しない)。
・開発途上国の一人あたりのエネルギー消費量は、現在(2011年)の値から増加し、2100年時点で先進国平均の半分になる。
 その結果、2100年のエネルギー需要の予測値は、2011年に127.1億toeであったものが2100年には2倍超の265.4億toeとなり、なかでも著しい増加を示すのはアフリカです。 また、1人あたりでは2011年が1.8toe、2100年では2.4toeと増え、これは肉食の増加によるものと考えられます。
 食料による摂取エネルギーも増加を続け、2050年までの予測では1970年頃の1人1日2100kcalから2050年には3140kcalにまで増加すると予想されています。

飢餓マップ

 一方、世界には、すべての人に十分な食糧があると言われていますが、実情は、国連世界食糧計画(WFP)20),21)によると現状でおよそ7人に1人(計約9億2500万人)が飢餓に苦しんでいます。 また、その飢餓に苦しむ人の内訳は、
  @アジア・太平洋地域 5億7,800万人
  Aサハラ砂漠以南のアフリカ 2億3,900万人
  B中南米 5,300万人
  C中東・北アフリカ 3,700万人
 このうち、およそ75%は、途上国の農村に住む貧しい農民で、残りの25%は途上国の大都市周辺の貧しい地域に住む人たちと言われています。
 今後、人口が増えたときでも、人口に見合った食料生産量の供給・分配が問題です。

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食糧生産に限界はないのでしょうか?

 図は世界の穀物農耕面積、穀物生産量、1人当り穀物生産量などの推移を示したものです。

食料生産推移

 図を見ると、1960年以降、食糧の収穫量は地球人口の増加を上回る伸びを示していますが、最近は頭打ちの傾向にあるものの、まだその増加率は人 口増加率を上回っており、当分は、食糧供給に問題は無いようにも見えます。 確かに、 2001年から2009年 までの穀物生産量と人口の推移を見ると、人口の増加にもかかわらず穀物収穫量は増えて、1人当りの穀物量はほぼ一定値(370〜380kg/人年)を 確保しています。
 実際、1940年代から推進された「緑の革命」は、近代農業(高収量品種の採用、灌漑設備の整備、化学肥料・農薬の多用と農作業の機械化)の展開に よって穀物の生産量を大きく伸ばして、アジアの食糧危機を回避するとともに、この地球上に70億人もの生存を可能にしたといわれています。
 しかし、 最近は、灌漑に使う地下水の水位低下、塩害の多発、化学肥料・農薬の多用による土壌の疲弊や汚染、地下水の汚染など環境問題が顕在化してきていること も確かです。 また、別の資料によれば食糧生産に消費される肥料の量が窒素肥料で年8000万トン(1995)、リン酸肥料、カリ肥料を合わせると1 億3000万トンに達しているといわれています。 これは耕地面積1ha当り約90kgに相当し、これに伴って肥料生産に使われるエネルギーも膨大に なっていることを意味します。

 始めに述べた飢餓の問題も、最近は、先進国などがアフリカの資源を狙って経済進出していることから、アフリカを中心とした経済発展とともに変化し て行くと考えられます。 ただ、経済発展の仕方によっては飢餓が緩和されるのか、格差が広がってさらに悪化するのかは判りません。 FAO(国際連合 食糧農業機関)の予測では、今後、途上国を中心とした人口増加と食生活の変化により、2050年の食糧消費の総量は2000年から約6割増と考えられ ています。 この間、世界の耕地面積は、ほとんど増えず、この課題に対処するには、これまでの「緑の革命」とは異なる新たな「第2の緑の革命」19)を 期待する声もあります。

  いま、穀物だけに着目すると、穀物生産に関わる農地面積は1950年には5.9億ha、1981年には史上最大の7.32億haとなり ましたが、その後減少して、1992年には6.95億haになり、2000年は6.56億haにと推移しています。 一方、生産量は、1950年に 6.31億トン、1992年には17.55億トン、2008年には22.27億トンと増加しています。 すなわち、1950年には1haあたり1.1 トンであった面積当り収量は1992年には2.5トン/haに増加し、現在は3トン/haになっていると考えられています。 この理由は、先にも述べ た「緑の革命」と呼ばれる農業技術の進歩?によるものと考えられています。 専門家の中にはフランスなどの例を挙げ、面積当り収量は6トンからそれ以上に増える可能性があるとして食糧危機の可能性を否定している人 もいます24)。 

食料生産推移

  化学肥料に着目すると、窒素肥料は植物の葉に集まり、二酸化炭素と水をでんぷんなどに変換する光合成能力を高めることからも農作物の収量に影響す ることは判りますが、図から判るように1960年以降の地球では、人為起源の窒素発生量は農耕に伴う自然起源の発生量を大きく上回るようになり、Rockstromらの研究でも地球の回復力を越えていることが指摘されています。 こ のように過剰に与えられた肥料によって土壌の窒素汚染、河川や海洋の汚染および健康被害を引き起こし始めていることが指摘されるようになってきていま す。

 そのほかでも、農業の近代化に伴って幾つか気になる話が出ています。 例えば、最近、アメリカやインドで、化学肥料による土地の疲弊や地下水の汚染 が報告され、また、近代農業を支える1つの柱である潅漑用の水資源でも地下水位の低下などが各地で問題になってています。 アメリカの穀物・飼料農業 を支えているオガララ帯水層でも、近年過剰な揚水による枯渇が懸念されており、また、ソ連時代の綿花の生産によってアラル海が50年前の1/4に縮小 し、塩害が進み周辺住民に健康被害がでている例は良く知られています。
 このような状況から、収穫量のさらなる増加は限界に近いと考える人も増えています。 もう一つの懸念材料は、バイオエネルギーの増加に 伴って食糧生産用の農地面積が減る傾向にあることでしょう。

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地球の広さは十分でしょうか?

食料生産推移

  人類は地球を次々と都合の良いように開発してきましたが、まだまだ余裕のある大きさなのでしょうか? 文献26)によれば、もう、かなり「狭い」と言うことです。 地球表面の面積は510億haで、うち149億haが陸地ですが、さらにその陸地のうち多くの生物の生息にとって好適な樹林気候域(温度と水分環境の良い地域)は54.8%の81.6億haで、残りの非樹林気候域は植物の成長が強く抑制され砂漠化が進む地域で、毎年、四国と九州を合わせた面積に匹敵する約600万haが砂漠化していると言われています。 人類は、この樹林気候域の土地資源を使って耕作によって穀物および肉類を獲得し、森林からは木材、薪炭材を、海洋からは魚介類を得て生活していることになります。 図は2000年頃の人類による土地、生物資源の利用の内容を示しています。
 ここで人類が利用している土地資源は普通耕地、永年作物、牧草地および森林が87.8億haと民生用の土地利用約3億haで、先の樹林気候域の面積を超えています。  一方、先に示したように、地球の人口はまだ増え続けると予想され、また耕地面積は殆ど増えない状態が続いているため、今後、人類の食料の確保は森林などを潰して農耕地に変えるか?近代農法のさらなる発展によってこれまでのような単収増加を維持するか?にかかって来ると考えられます。
 しかし、森林の減少はすでに始まっており、すでに過去10年間に1億5400万haの森林が失われ、今も、毎秒0.41haの森林が減少していて、生物多様性の維持をますます困難にしています。 原因には気候変動に伴う干ばつなど自然要因がありますが、主に人為的な要因によるものが多く、過放牧、灌漑農業、塩害、森林伐採などが指摘されています。 一方、農耕地の単収増加も頭打ちの兆しが見え始めているだけでなく、農薬、化学肥料による汚染と灌漑に伴う淡水確保の問題などが世界各地で顕在化しています。 結局、人類の食糧問題はかなり危うい状態に向かいつつあると言えそうです。
 また、別の試算、12)では(以下、数値は少し変えていますが)、人間のカロリー源であるタンパク質、糖類は約4kcal/g、脂質は約9kcal/g、まとめてほぼ4kcal/gと考えることができ、人間1日の必要カロリーを2400kcal/人/日とすると1日1人当り約600gが必要となります。 今後、人口が増えて国連推計のように2050年には96億人になると、年間約21億dの食料(固形物)が必要となります。 一方、FAOの予測では、2050年の穀物生産量は30億dとなっており、問題ないようですが、 今後、途上国の経済発展が進むと摂取する食料の内容も先進国に近いものになり、肉食化が進むと考えられます。 先進国では摂取カロリーの30-40%を畜産物に依存しているので、1/3を畜産物に依存したとすると約800kcal/日/人分に相当します。 問題は、グルメ化のところで示したように1kgの畜産物を得るには多量の飼料(穀物)が必要となることです。 例えば、1kgの肉を得るには鶏で4倍の約4kg、牛では10倍の約10kgの穀物が飼料として必要です。 10倍とすると、2050年の必要なカロリー(オリジナルカロリー)は(2400-800)+10x800=9600kcal,穀物量は2400gの需要となり、世界全体では年間 84億dが必要となります。 もし、4倍でも42 億dで、生産可能な量を上回ります。 このことは世界の飢餓地域がより拡大することを示しています。 さらに、もう一つの心配は、畜産物の生産には多量の水を必要とすることです。 水の問題については別項にも記載しています。
注)「生きている地球指数」は地球の生物多様性の劣化を示す指数(LPI:Living Planet Index)で、世界各地の陸域、川や湖などの淡水域、海洋に生息する、3,000種以上の野生生物の10,000以上の個体群を調査し、個体数がどれくらい減少したかを基に計算したものです(WWFホームページ:http://www.wwf.or.jp/earth/)。

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食糧危機とエネルギー危機は関連しています

  人口の急激な伸びを支えたのは農業技術の近代化に負うところが大きいことは確かです。 しかし、その近代農業は主として化石燃料による莫大なエネルギーの投入によって成り立つ機械化と化学肥料の出現に負うところが多いことから、食糧危機とエネルギー危機は本質的に同じといえます。

水稲エネルギ

 図は文献7)から引用したわが国の水稲生産に投入されたエネルギーと産出されたエネルギーの変化を示したものです。 ここで産出エネルギーは生産された玄米の熱量を示しています。 明らかに1ha当りの投入エネルギーは1950年から1970年にかけて4倍に増加し、これに伴って産出エネルギーは約1.5倍に増加しています。 確かに産出エネルギーは増え、食糧供給には貢献していることは判りますが、投入エネルギーが4倍になることでエネルギー的にはマイナスになるという現象が起きています。 次に、投入エネルギーの中身をアメリカのトウモロコシの生産例で見てみると図のようになっています。 その他の例でも同様の傾向が見られます。

トウモロコシ

 投入エネルギーの中で突出しているのはガソリン、続いて石油依存の高い窒素肥料、電力、資材類などによって投入エネルギーの殆どが占められています。すなわち、作物生産量を向上させたのは多量の石油関連エネルギーといえます。

 さらに、投入エネルギーと産出エネルギーの関係を、いろいろな作物について調べた結果を下表に引用しました。 まず、表に示されている全ての作物 (1950-1965年の水稲を除く)について投入エネルギーが産出エネルギーを上回っています。 とくに、ハウスなどを利用する施設栽培では化学肥料、農薬、資材(ハウス自体など)、機械類の投入エネルギーが高く、作物の産出・投入エネルギー比が極端に悪いことがわかります。 また、化学肥料と機械類への投入エネルギーの多い小麦や大豆などの食用作物に比べ、化学肥料、農薬、機械類のほか、資材(プラスチックシートなど)を必要とする野菜と果実類も産出・投入比が悪くなっています。 表の中では唯一、アメリカ産のトウモロコシの産出エネルギーが投入エネルギーを上回っています。 これは農業の形態が集約農業になっているためと考えられますが、1950年よりかなり産出/投入比は悪くなっています。

農産物一般
EU有機

 このようにエネルギー投入の多い近代農業ですが、結果として食料生産量が増えたことは間違いありません。 しかし、ひとたび石油などのエネルギー危機が起きると連鎖的に食糧危機になる危険性を孕んでいると言えます。
 この問題は深刻で、単純に石油がなくなれば有機農法に戻ればよいと言う訳には行きません。 少なくとも化学肥料なしでは、これまでの高い生産量を維持できないからです。 しかし、EUでは有機農法に回帰しようという動きが見られるようになって来ました。 この意味では、現在の化学肥料にかわる技術開発が望まれているといえます。 多くの専門誌でもこの問題は議論されていますが、なかなか一般社会の中での関心は高まっていないのが現実です。

農法の比較

 さらにもう一つの問題は、わが国は食料・木材などの輸入が多く、その輸送に多くのエネルギーが消費されていることです。この輸送エネルギーの影響はフードマイレージやウッドマイレージなどで評価されています。

 参考として、D.Hallの論文から、種々の農法によって生産エネルギーと投入エネルギーの比がどのように変化したかを引用して示しました。
 この食糧危機の到来をできるだけ回避するには消費者側の対応も必要です。 中でも先進国では、多くの穀物を飼料として消費する肉食が進んでいること、食肉に比べて飼料とする穀物の量は少ないものの魚の養殖も増えているのは気がかりです。 さらに、食物の残渣・廃棄量の多さなど改善すべき点は多くあります。 とくにわが国ではまだ食べられるのに廃棄されている食料(食品ロス)が年間500〜800万トンにもなっています。 この問題についてはライフサイクルエネルギーとあわせて考えて行くことが必要です。

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食料生産の領域でも自然環境における物質循環が問題になっています。

窒素循環

人類の活動が自然の窒素循環にも影響を与えています。
  すでに炭素循環のように人類の過剰な化石燃料依存が地球環境への問題となっています。 その影響はグローバルな地球温暖化とそれに付随した異常気象として現れてきています。 さらに、その他の物質の地球規模の循環についても同じような問題が顕在化してきています。 その1つが窒素の循環です。 この窒素は、ここで考えている食料にも密接に関連する元素で、1次産業や生活と深く関わっています。
 図は窒素の循環のところで示した生態系に関与する窒素と窒素化合物の関係を簡略化して表したものです。 地球上に生息する生態系の主人公?は植物、動物ですが、その生存に必要なアミノ酸やタンパク質を生成・獲得するには窒素が不可欠です。 しかし、植物、動物には大気中に多量にある窒素ガス(N2)を直接利用する能力がなく、植物は豆科植物と共生する根粒菌などが大気中の窒素を生物窒素固定して、あるいは動植物の死骸や動物の排泄物などの有機態窒素を微生物で分解してアンモニア態窒素に分解し、さらにこれを微生物の硝化作用によって(亜)硝酸態窒素に変換したものを利用します。 これらの窒素は、植物に吸収利用されアミノ酸やタンパク質などの有機物を合成(窒素同化)し、さらに、動物に取り込まれて行きますが、その排泄物や死骸は、再び、微生物に分解されてアンモニア態窒素になるという循環をしています。 また、余剰の窒素は、この過程を逆に進める脱窒作用により、アンモニア、窒素ガス、亜酸化窒素を環境に排出するプロセスを進めて、もう一つの大きな循環を構築しています。 この他、硝酸態窒素(NO3)は雷などの空中放電によっても生成され、これも植物に利用されます。
 この自然界の窒素循環に対して、人間は、1913年以降、大気中の窒素を工業的に固定するハーバー・ボッシュ法を確立し、独自の生態系活動である農業に対して大量の化学(窒素)肥料を用いるようになり、窒素循環の様相を大きく変えてしまいました。 さらに、先の炭素循環と関連して人間が化石燃料を燃焼してエネルギーを獲得する過程でもフューエル・ノックスやサーマル・ノックスのような窒素酸化物を排出することから窒素循環の問題をより複雑にしています。

窒素循環量(日本)

 実際に、どれ位の窒素負荷がかかっているかを見てみると、わが国の場合、工業的に固定される窒素の多くは食料・飼料につかわれる農業用化学肥料となるため、わが国の農業分野における窒素の収支(1996年)は図に示それたようになると考えられます。 図から、農地へは化学肥料として487.0千dN/年が投入され、そのうち483.6千dN/年が農産物に吸収され、化学肥料として投入された窒素はほぼ農産物に移っているようにも見えますが、わが国が輸入する食飼料は1168.6千dN/年、国内生産食飼料は483.2千dN/年が国内食品流通などに流入し、ここから1627.2千dN/年が農地を含む環境に排出されています。 その結果、差し引き環境には1627.2千dN/年もの窒素が農地を含む環境に残留することになっています。
 多量の窒素が国土(とくに土壌)に残留する原因の一つは工業的な窒素固定が可能になって農作物に多量の化学肥料を撒くようになったからと考えられます。 確かに結果として生産は伸びたのですが、実際に作物が吸収するのはその1部で、多くは吸収されずに土壌に残ることになります(トマトの例)。 悪いことに、食料自給率の低いわが国は食料・飼料の輸入量が多く、この食飼料は最終的には日本の国内で消費され廃棄・排泄されて土壌に残るため窒素を輸入したことに相当します。 さらに、蓄積された窒素は酸化されて土壌、地下水、河川等から海へと移動し、地下水の硝酸汚染、湖沼、内湾での赤潮、アオコ等の富栄養化問題などを起こすと考えられています。  しかも、わが国の硝酸・亜硝酸態窒素に対する規制はまだ緩く、環境基準を超過する割合が高い状態に置かれています。 また、地下水の硝酸汚染では乳幼児に酸素欠乏症を起こす「メトヘモグロビン血症」や「ニトロソアミン」と言う発癌物質の原因になることが報告されています。 この他にもわが国の場合、まだ農薬の使用も多いことも心配の一つです。 これらの影響を避けるには農業の形態を有機農業に変えることが有効ですが、わが国の有機農業は耕地面積で0.1%程度に過ぎず、簡単には変更できそうにはありません。 また、化学肥料に比べて有機肥料は遅効性であるなど、単純に変えれば良いという話ではなく、作物の改良、肥料の改良、土壌の改良などがも合わせて対応することが必要となりますが、これらの問題については、環境対策を含めて専門書に数多く取り上げられています。

水需要と水資源に問題が起きています
  食糧と同じような状況にあるのが水資源です。

水需要の変化予測

 地球の陸地上に降る水の年間総量は約 111兆トンありますが、蒸発せずに地上に残る水は約40兆トンと言われています。 しかし、淡水資源は地域的にも季節的にも変化するので、全ての水を利用することはできません。 使えるのは河川、湖沼からの0.001億km3と地下水からの0.11億km3です。

水の使用状況

 この水の利用法については図から明らかなように世界全体では農業用として70%、工業用に20%、生活用として10%の割合になっていて、農業用の水資源使用量が多いことが特徴です。 その農業用の使用水量も年とともに伸びていますが、これは世界の人口増加を背景にして進められた緑の革命など、農産物の生産向上と関係しているようです。 緑の革命では品種改良、化学肥料の採用および灌漑(かんがい)の普及などが行われています。 その結果、このベージの初めで見たように世界の耕地面積はほとんど増えてないのに生産量は確実に増加しました。 また、生産量増加に対する要因分析では、例えば米の例では図のように灌漑の普及による効果が大きいことが判っています。 このように農業における水利用量の増加は、とくに、地下水、河川や湖沼からの取水による”灌漑農業”の発達によって穀物生産量は大きく伸びましたが、反面、上記したように世界各地で問題が顕在化し始めています。

米の増産要因

 地下水では、インド、中国など、例えば華北平原では35年間に地下水位が50メートル低下していると言われています。 米国でも中西部のオガラ ラ帯水層での過剰な取水による水位の低下が問題化しはじめました。 河川では中国の黄河で、1990年代終わり頃から農業取水による流れの断流(1999以降は発生してないそうですが)が頻繁に起きています。 このほか、河川からの取水にからむ国際紛争も各地で発生しています。 湖沼からの取水ではソ連の農業政策により、取水源となった中央アジア、アラル海は取水のため面積が60%に減少するとともに、塩害が発生して、農業生産が激減し、漁業が壊滅したという例はよく知られています。
 一方で、地球全体における異常気象の発生は年々激しさを増し、オーストラリアや東アフリカの干ばつなど水だけでなく食料にも影響を及ぼしています。 とくに雨量の少なかったエチオピアをはじめケニア、ソマリア、タンザニア、ルワンダ、ウガンダ、スーダンなどでは食料不足が深刻化しています。 欧州の南東部から南部では干ばつやそれに伴う大規模な森林火災が発生し、米国でも中西部で干ばつの被害が広がり、各地で山火事が頻発しました。 中国では北部から中・南部の各省で少雨のため干ばつとなり、農業生産が大きく落ち込み、飲料水の不足がしました。
 水不足は世界で毎年8000万人以上の人口増が水需要を押し上げ、これに水質汚染が拍車をかけ、各地で慢性的な水不足が顕在化しています。 また、人口増加、経済発展に伴う都市化や多くの開発事業による水源破壊や、発生する廃水による健康被害なども問題化して来ました。

仮想水
水ストレス

 さらにグローバル化によって農産物の生産が特定の国や地方に偏る傾向があり、水資源の問題はより深刻化しています。 日本などは農産物を大量に輸入するため、輸出国側に多量の水の消費を強いていることになっています。 この問題は農産物の輸入と同時に、農産物の生産に使用する水も輸入する(仮想水)という考え方で議論されています3

 一方、世界の人口は増え続けていて、人口の急増と社会の変化にともない、多くの国で水不足が発生していますが、今後さらにこの問題が深刻化するこ とが懸念されています。 右の図は2050年における水の供給状況を予想し、それぞれの国の水の使用量(年)をその国の水資源量で割った値を水ストレスとして表した図です。水ストレス値は40%以上を高ストレスと分類されます。

水危機の内容

 ちなみに2000年前後におけるわが国の水ストレスは約20%で中程度のストレス、世界平均は7%で低ストレスに分類されます。 いま、世界的な水危機が叫ばれているのは、まず、世界的な水需要の増加傾向があります。
 また、個々の原因としては以下のようにまとめられています。
(1) 人口増加による食料需要増に伴うかんがい用水需要の増加
(2) 生活レベル向上に伴う、例えば食生活の肉食化による飼料用穀物需要に伴う生活用水需要の増加
(3) 発展途上国の経済発展による工業化に伴う工業用水需要の増加
(4) 都市化および過剰な開発に伴う水源の破壊
(5) 温暖化による干ばつ、洪水など降雨の時間・地域の変化による水資源の偏在増加
(6) 生活廃水・工業廃水・農薬汚染および過剰な化学肥料の施肥による水資源の劣化
などです。

安全水の内容

とくに、人間の生活に関わる食料や製品について警鐘を鳴らす指標として、その生産から消費までの全過程、あるいは組織・地域において使用される水の総量を表すウオーターフットプリントが用いられています。
さらに、この水危機は、人口問題やエネルギー問題と密接な関係があります。図はこの関係をまとめたものです。
 また、水の循環を妨げ、生態系に影響を及ぼしている淡水の汚染原因には次のような項目が あります。
(1) 生活廃水による汚染
(2) 工業廃水による汚染
(3) 産業廃棄物・し尿による汚染
(4) 船舶からの油流出や排水
(5) 降雨・降雪に伴う大気汚染物質による汚染
(6) 農薬や過剰な化学肥料による地下水・河川水の汚染10)
 いずれも豊かさを追いかける人間活動の結果であり、エネルギー消費と関連しています。

とくに、地球上で多くの人が日々の生活のなかで、安全な水を手に入れられない状況にあることに注目が必要です。2006年のデータでは9億人(世界 人口の13%)が、汚染から保護されていない水源を使っているといわれています。
 わが国でも、各地で地下水の低下が見られ、夏季には渇水による給水制限などがたびたび見られるようになっていることはよく知られるとおりです。

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グルメ指向がエネルギー消費を増やしています

食品エネルギ

  人口増による食糧危機だけでなく、われわれの食生活が豊かになりグルメ志向になっていることも問題です。 世界的にも国のGDPが大きくなるにつれて1人1日当りの食料エネルギー供給量が増えています。 また、供給される食品の種類も多くなり、例えば、最近は多くの野菜や果物が季節に関係なく、いつでもスーパーで買えるようになりました。これは、野菜から果物まで温室栽培が普及したためです。当然、温室栽培では温湿度管理などに多くのエネルギーが使われます。このほか、魚も養殖ものが増えていますが、養殖のための飼料をはじめ多くのエネルギーが投入されています。図は食品が 持つ食糧としてのカロリー(エネルギー:食品熱量)と食品を作るために費やされたカロリー(エネルギー)を比較して示したものです。

'きゅうり’は、「ハウスもの」も「露地もの」も食品としては同じ熱量ですが、生産には、ハウスものの‘きゅうり’は食品としての熱量の約46倍、 露地ものの5倍のエネルギーを消費しています。同様に、ハウストマトは27倍、養殖ブリは5倍、和牛は5.5倍です。われわれはグルメという名のエネ ルギーを食べているのです。

肉食化

 さらに、食生活の肉食化傾向も気になります。先の図で、食品エネルギーを見ると米、小麦などの穀物1kgと魚や肉1kgは、ほぼ同じ熱量を持って います。しかし、肉を得るためには、家畜に餌として穀物を与えなければなりません。図は肉1kgを得るために何kgの穀物が使われるかを示したもので す。

鶏肉1kgを得るには2-4kgの穀物が必要であり、豚肉1kgには穀物4-7kg、牛肉1kgには穀物7-11kgが必要です。穀物も肉も1kg 当たりの食品熱量はほぼ同じですから、穀物(小麦)7kgは、7人1日分のカロリーを供給できるのに、これで飼育した牛肉1kgは約2500kcal で1人1日分のカロリーしか供給できません。

自給率自給率

 次の図は、主要各国の食糧自給率を比較したものですが、日本は農業などの1次産業がグローバル化の潮流に飲み込まれて衰退を続け、自給率は年々 低下しています。 先進諸国の中で、日本の自給率だけが(ほかに韓国があります)低下を続けているのは、将来、大きな問題となる可能性を秘めていま す。
 最近、穀物のバイオ燃料転換や食料・エネルギー資源への投機ブームによって輸入食糧の高騰に悩まされているのも、その表れと考えられます。
 なお、この数値は国民1人1日当りの国産で賄われた供給カロリーをロスする食料分も加えた供給カロリーで割った値として表され、農林水産省の 2006年のデータでは全供給カロリーが2548kcal、国産供給カロリーは995kcalでカロリー自給率き39%になっています。
 全供給量にロスなどが含まれている点が問題とされますが、人間1人1日の所要カロリーである約2000kcalと考えても自給率は50%を割り込み ます。

 このような事態に対して、国は対応策として農業を諸外国並みに大規模化しようとしているようですが、諸外国並みの食糧生産価格を目指すために、こ の狭い日本の農地を使って、オーストラリアやアメリカと同じ手法で対抗しようとするのは、自殺行為のように思われます。
信じられないことかもしれませんが、このような状況の中でも、われわれ日本人は 多くの食糧を無駄に捨てているという残念な結果も出ています。

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食品ロスは大きな問題です

食品ロス
食品用途

世界の食料生産量は2012年には穀物として22億トンが生産されましたが、人間の主食などが46%。34%が家畜や養殖魚のエサ、20%が加工で んぷん、甘味料およびバイオ燃料として消費されています。また世界では、食用に生産された食料の約1/3がムダになったり、捨てられたりしています。 なかでも、先進国は毎年、サハラ以南アフリカの全食料生産(2億3,000万トン)とほぼ同量の食料(2億2,200万トン)を、食べ残しや賞味期限 切れなどの理由で廃棄しています。 (cf.http://www.hungerfree.net/hunger/food_japan.html)
 わが国の場合でも、左図のように大量の食べ残しが発生しています。可食と考えられる食品ロス は年間500−800万トンもあり、 この食品ロスは世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料援助量(平成23年で年間約390万トン)を大きく 上回る量であるだけでなく、TV報道によると一年間の食べ残し食品(700万トンと考えて)を金額にすると11兆円に相当し、これは日本の農業と水産 業の総生産額(12.4兆円)に匹敵すること、すなわち国内で作られた食品を全て捨てているのと同じといわれています。 (http://www5e.biglobe.ne.jp/~eff/gomi.htm) わが国の食糧自給率を考えると食べ残しの問題はもう少し注 意を払う必要があります。

次に、これらの問題の元となるエネルギーの使い方について 調べてみましょう。

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  主な参考資料
1)内山洋司:「私たちのエネルギー」,培風館(1998)
2)石 弘之:「地球環境報告・それから・・・」
3)沖大幹「世界の水危機、日本の水問題」
4)中日サンデー版「水危機と食料」世界と日本 大図鑑シリーズNo.826,2008年3月2日
5)JWG:「水の学習室」
6)Water Problems:日本水フォーラム
7)片野学:「有機農業の展望と課題」,国際農林業協力Vol.30,No.4 (2007)
8)井田徹治:「データで検証!地球の資源ウソ・ホント」講談社(2001)
9)]三宅基文・沖大幹・虫明功臣:」「日本を中心とした仮想水の輸出入
10)レスター・ブラウン編著;ワールドウォッチ研究所「地球環境データブック」2000-2001,家の光協会
11)持続可能な農業に関する調査委員会:「第5章:20世紀半ば以降の農業−データに見る光と影」,sas2007.jp/project/pdf/pdf08.pdf
12)奥野忠一編「21世紀の食糧・農業」,東京大学出版会(1975)
13)Johan Rockstrom et al.:「Planetary Boundaries: Exploring the Safe Operating Space for Humanity」,Ecology and Society Vol.14,No.2,(2009)
14)西尾隆:「農業が環境に及ぼす影響について−農地の窒素循環を中心として−」
15)新藤純子:「人間活動に伴う窒素負荷の増大と生態系影響」,地球環境Vol.09 No.1
16)生源寺真一:「日本農業の真実」,ちくま新書902(2011)
17)林雄介:「ニッポンの農業 ここが常識、非常識」,鰍ャょうせい(2010)
18)宮崎毅:「耕地創生に向けて」,第29回東京大学農学部公開セミナー講演要旨集(2005)
19)岩本純明:「「緑の革命」に学ぶもの」,第29回東京大学農学部公開セミナー講演要旨集(2005)
20)小林和彦:「食料と農業の未来」,ARDEC (March 2015)
21)早瀬祐一:「エネルギー需要は2100年に倍増へ=世界的・長期的視野の検討」,http://www.gepr.org/ja/contents/20140609-02/
22)「緑の革命」,Wikipedia
23)山賀進:「かけがいのない地球-地球の定員-」,http://www.s-yamaga.jp/kankyo/kankyo- shokuryo-1.htm
24)川島博之ほか:「人類は食料危機を乗り越えたのか-ICA-RUS プロジェクト/国立環境研究所主催 食料問題セミナー報告」(2013年8月)
25)松浦武蔵:「世界の食肉需要の動向と飼料用穀物」,http://mitsui.mgssi.com/issues/report /r1405x_matsuura.pdf
26)内嶋善兵衛:「人類にとって地球は狭い」,海外情報誌 ARDEC (Oct.2006)

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