Last Modified : 10 JANUARY 2004
From Dulcinea's diary Part.2 "Dulcet Wind flows Vana-wide".
ヘブンスコープ、セルビナのクリスタル前に復帰する。倉庫キャラジュノ集合ミッション、いよいよ最後のキャラで挑戦である。
この個人的ミッションの最中は、各キャラの「サーチコメント」にその旨を記載していた。サーチコメントとは、キャラクターサーチで表示されたキャラクターに関する情報を閲覧する機能。FFXIでは、現在ログインしているキャラクターを、「サーチ」機能で種族やジョブ、レベルや今いる居場所などの条件を付けて検索できる。そしてその検索結果から、プレイヤーが自由な書式で記載したサーチコメントを見ることが出来るのだ。
「GW特別企画・倉庫キャラジュノ集合!現在二人目トパトパでソロムグルートを出撃中!」ってな感じで、サーチコメントを書いていたのである。通常サーチコメントにはパーティを組むのに有用な情報が書かれている。経験値があと幾つで次のレベルに上がるのか、使える武器は何か、サポートジョブに付けられるジョブは何か……などというところ。しかし別に、それ以外を書いてはいけない訳じゃあない。
サーチコメントを書き込んでから、ヘブンスコープをセルビナから出す。ヘブンスコープではもちろん初めて踏み込むバルクルム砂丘だ。マップは……無い。青く染まった夜の砂丘を、ザクザクと音を立ててゆっくりと駆けていく。
このバストゥーク方面には、ヘブンスコープ単独では絶対に抜けられない場所がある。それがこの先の、砂丘のトンネルだ。狭い空間にゴブリンが二匹いるこの場所も相当にやっかいなのだが、隙を見て抜けられない訳じゃあない。しかしこの先、トンネル内部は逃げ場がない。そしてそこに、昼夜問わずコウモリが存在するのだ。レベルが低ければ絶対に絡まれる、どうしようもない場所。それがこの、短くも遠いトンネルなのだ。
このトンネルを抜けなければ、ヘブンスコープは先へ行けない。だからこそ、このトンネルの抜き方を以前から考えてあった。一つがMMORPGらしい手段、通り掛かりの冒険者に頼んで護衛してもらうというもの。だが、冒険者がいつ通りかかるか、不確定だ。リンクシェルの仲間に頼むという手もあったが、あまり他人の手を患わせたくはない。そこで浮上したのが、以前思い付いていた「一人二役」による難関突破法だった。
まずこのトンネルの前で、ヘブンスコープがログアウトする。次にドルシネアでログインしてきて、このトンネルまでやってくる。ドルシネアにとってここのコウモリは既に敵ではない。パパッと切り刻み、これを始末する。始末し終えたらすぐさまその場でログアウトだ。そして急いでヘブンスコープでログインし直し、コウモリが再出現する前にトンネルを通過、突破してしまうのである。
この手段を使えば、他人の手を借りることはない! まぁ、折角のMMORPGなので、もしその場を冒険者が通りかかったら声を掛けてみるつもりで。誰もいないようであれば、その時はドルシネアが発進で。そんな風に考えてこの難所までやって来たのだった。
ゴブリンの隙を突いて、ヘブンスコープはトンネル前に辿り着いた。さて、誰か通りかからないかなー?と前後をきょろきょろ探しながら、トンネルを先へと進んでみる。……コウモリが、いない。すんなりトンネルの向こう側に出てしまった。多分数分前に誰かが通りかかり、コウモリを始末してしまったのであろう。
なんだ、あんなに対策練ったのに。かなり拍子抜け。嬉しいやらガッカリやら、複雑な気分。砂丘出口のガードにお金を払い、ホームポイントを設定する。これでこれ以降死んでもここに戻る。あのトンネルをくぐる必要は、もう無い。砂丘を後にし、ヘブンスコープはコンシュタット高地へ。
バストゥークに渡り、ミッションを最終段階まで進めておいて、ドルシネアはチョコボに乗った。ミッションの最後は、リンクシェルの仲間と遂行する予定である。皆よりも先にミッションを進めてしまったので、取りあえずここで小休止だ。一旦ウィンダスに里帰りしようと思う。
チョコボを走らせながら、作りかけの新しいマクロを編集する。珍しく、そのアビリティを使えるようになる前に、そのマクロの構想はあった。構想といっても、単にある漫画の台詞をパクっただけなのだが。しかし、それだけ楽しみにしていたアビリティなのだ……「とんずら」は。
その名の通り、とんずらは敵から逃げるのに有効だ。トラのような足の速い敵でなければ、余裕で逃げ切ることが出来るだろう(魔法などで足を止められなければ)。そして次に、目的地に早く行きたいときにも有効だ。町の中でとんずらを発動し、競売に向かって凄い勢いで走っていく冒険者をよく見る。実際私も、最近はよくとんずらでモグハウスに飛び込んでいったりしている。
だが、町を出てモンスターの徘徊するフィールドを歩くとき、私はなるべくとんずらを使わないようにしている。とんずらは一度発動させると、30秒間の加速状態が持続する。そしてそれが切れたあとは、4分30秒の間とんずらが発動できなくなる。その能力制限時間の間に、とんずらが欲しかった最大の理由が来てはまずいのだ。最大の理由のためにこそ、とんずらは大切に取っておかなければならないのだ。
チョコボはバルクルム砂丘を駆け抜け、やがてセルビナの入り口が見えてきた。少し離れたところで、二人の冒険者がパーティを組んでゴブリンと戦っているのを見る。その戦闘からある程度距離を置いた場所に、もう一体のゴブリンがいた。……あのパーティの方に向かわなければいいけれど。チョコボを立ち止まらせて、様子を見る。
やがて二人はゴブリンを倒し、その場にしゃがみ込んでヒーリングし始めた。結構消耗している。今襲われたら危険だな……二人は近くにいるゴブリンに、気が付いているのだろうか。パーティを組んでいると、時として一人でいるより無防備になる。仲間を見てしまい、周囲を見るのを忘れるのだ。ゴブリンを「調べる」。ドルシネアでも勝てる相手だ。
ゴブリンが動き出した。二人に向かっている。チョコボの上で、ドルシネアは念のため装備を整える。ゴブリンが、パーティを襲った。回復の済んでいない片方が、慌てて逃走を始めた。急いでチョコボを降りた。
ドルシネアから幾分離れたルートでセルビナへ向かって走っていく冒険者と、それを追うゴブリン。以前なら絶望する距離だ。だが今は違う! 作っておいたマクロを選択して、そのアビリティを発動する。
『天国への階段(Stairway to Heaven)!!』
『時は加速する!』
ドォーーンッ! 入れておいた台詞と共に、音を立ててとんずら発動。弾けるように走り出し、冒険者とゴブリンに急接近。走りながら考える。ゴブリンに攻撃か? いや、冒険者に回復魔法を打てば、体力を回復させながらゴブリンの注意をこちらに向かせられるだろう。
確実に止まらなければ、魔法の詠唱に失敗する。冒険者をターゲットし、ある程度近付いたところで急停止。一拍置いてケアルIIマクロを選択する。ケアルII詠唱……だがそれが途中で止まる。冒険者との距離が離れてしまった。遠すぎた! まだ走れるか? 再度疾走、今度は更に冒険者に近付いてから、ケアルII。届いた! 冒険者の体力が回復するのと同時に、ゴブリンがくるりと振り向いた。剣を抜き、ゴブリンに相対する。
冒険者はそのままセルビナに逃げ込めたようだ。ゴブリンをなんとか始末。通りがかりの人にケアルを頂いたりして、感謝しつつドルシネアもセルビナ入り。冒険者で溢れかえるセルビナの門を抜け、村長の家に向かおうとすると、一件のTellがドルシネアに届いた。先程助けた冒険者からの感謝の言葉だ。
助けてから数分経っているのにな。わざわざログを確認して、お礼を言ってくれたんだろうなと思う。「いえいえ、ご無事で何より」と返事をする。これでいい、これがしたかった。挑発がなくて、ケアルもなかったレベル一桁の頃から……ずっと前から、追い付いて助けたかった。やっとその為の能力を手に入れたんだ。
シーフ最高ッ!と、とんずらで勢いよく船に飛び乗りながら思った。
コンシュタット高地に入ったヘブンスコープは、マップがないために頼りない記憶を辿りながら、次のエリアを目指した。コンシュタットはタロンギ大峡谷のようにデコボコとしているが、見通しが悪いという程でもない。余程の油断をしなければ、徘徊するカメやゴブリンに絡まれる心配はない感じだ。
東に行き過ぎ、何か見慣れない場所に出てしまう。ゴーストが二匹ほど浮かんでいて危険極まりない。リンクシェルの仲間に次のエリアの方向を聞いたりする。言われた方向に歩いていくと、やがてそれらしい道が伸びているのに出くわした。道沿いに行くと、チョコボに乗った団体さん方が次々と先へ走り去っていく。なるほど、こっちだ。
そしてエリア切替え。雨が静かに降るパシュハウ沼に出た。
パシュハウの地図も何となく覚えている。南西から入って、S字を書くようにエリアのほぼ全体を横断して、北東に出るのだ。雨に濡れた草木に隠れて見にくいが、ちゃんと道もある。この道に沿っていけば、迷うことなく次のエリアまで行ける筈だ。
パシュハウは狭い場所も少なく、障害物も特にないため見通しもいい。いつも天気がぐずついていて、暗いことが問題となる程度だ。だが今は昼間で雨もなく、明るいフィールドで有り難い。カメから距離を取り、道を見失わないように先へと進んだ。
やがて陽が落ち夜を迎えて、難易度がぐんと上がった。非常に暗い上、フィールドにはコウモリが飛び始めたのだ。そしてS字最初の切り返しを曲がった後は、道が少々狭くなっていた。慎重に足を運ぶと、先をゴブリンとコウモリに阻まれた。イカン、進めない……。危なっかしいので距離を取ろうと後ろへ下がる……と、後ろにはカメが現れた。さ、下がれないッ!
暗闇の中、前進も後退も出来ずに立ち止まるヘブンスコープ。まいった、どうしよう。コウモリがノンアクティブであることを祈って、突撃するか……? そんな風に迷っていたら、シュパッとウィンドウの開く効果音と共に、画面右下に小さなウィンドウが開いた。ターゲットされた!と思った瞬間、飛び込んでくる攻撃魔法。ガーンと一気にヘブンスコープの体力が減る。前方のゴブリンに絡まれた!
慌てて後方に振り返ってダッシュする。カメがいるけれど、出来る限り距離を取って、土の壁を擦るように先へ。もう一発、今度は弱体魔法が飛んできた。まだ生きてる……凄いな、流石ガルカだ。同じレベル1のシーフでも、タルタルのトパーズトパーズとは体力が倍も違う。トパトパなら最初の魔法で一撃死だ。
モンスターも、魔法を使うときは足を止める。相手が魔道士タイプのゴブリンだったため、ゴブが魔法を使おうとする度にヘブンスコープとの距離が離れていった。やがてターゲットも外れ、ゴブリンの姿は見えなくなった。……ふ、振り切った!?
だが幾ら強靱なガルカとはいえ、所詮レベル1のシーフである。パシュハウのゴブリンを相手とするには、その体力はあまりにも少なかった。弱体魔法により、徐々に残りの体力が減っていく……。
国道だ もうすぐさ 真っ赤な車 通り過ぎる
かわそうとして倒れた 「大丈夫?」と声をかけられた腕をはらい はね起きて 振り返らず彼は
「急いでますから」筋肉少女帯「戦え! 何を!? 人生を!」より。
む、無念なり……。だがすぐにはね起きる。というか、ホームポイントに飛ぶ。バルクルム砂丘出口に転生完了。コンシュタット突破から再チャレンジだ!
道を覚えたコンシュタットは速攻でクリア。再びパシュハウ沼。相変わらず夜の沼はコウモリがやっかいだ。雨が降り始める。ぬかるみを蹴る重い足音。雨の音は精神を落ち着かせてくれる。そして聴覚で敵を認識するカメ獣人・クゥダフは、その雨の音で探知能力が鈍るという話だ。雨は味方である。
密集するコウモリを交わし、やがて見覚えのあるアウトポスト(前哨基地)へ。以前、ここでFlさんの倉庫キャラが爆死したんだった。そんなことを回想していると、パシュハウの雨が止んだ。静寂の中、ホームポイントを設定して最後の難関へ足を踏み入れる……エリア切替え。
もの悲しい旋律のBGMが静かに流れ始めた。そう、この曲だ。初めてジュノを目指したとき、この曲を張り詰めた緊張の中で聞いたのだ。ロランベリー耕地。徒歩でやって来たのは、これで三度目。今回は夜明けで、雨も上がっている。コンディションは良い。
地図は持っていないが、ここもやはり道沿いに行くのだ。緩めのS字。他のルートは足の速い敵がいる危険性の高さがあるが、その分距離は短い。バストゥーク方面からの上京は、パシュハウ、ロランベリーととても長い距離を歩まなければならない。緊張感の持続が要求される。それがこのルート独特の難しさだと、強く感じた。
コンディションが良かったこともあるが、どうも後半のゴブリンが少なかった。難易度をわざと上げるため、あまりプレイヤーがいないであろう時間帯を選んで挑戦したつもりだった。だがゴブリンの姿が殆ど見当たらない。他の冒険者が倒してしまったのだろう。ちょっと失敗したかな?とか思ったりする。だがこれも、オンラインゲームらしさなのだろう。他のプレイヤーの行動が、この様な形で別のプレイヤーにも強く作用するのだ。それがきっと、運命の巡り合わせだったのだろう。
ゴブリンの危険を殆ど感じることなく、ヘブンスコープはジュノ下層に辿り着いた。倉庫キャラジュノ集合ミッションは、遂に達成されたのだった。