| 「信じる者は救われる、かも」 | |||
| 男 インチキ宗教の教祖。大河原龍鵬(おおがわらりゅーほー) | |||
| 女 男の元に相談にやってきた女性 | |||
| 1 | 男 | では、どうぞ。そちらにお掛け下さい。 | |
| 2 | 女 | 有難う御座います。 | |
| 3 | 男 | それで、今日はどんなお悩みで? | |
| 4 | 女 | はい。ちょっと……。あのっ、こちらの大河原龍鵬先生にご相談させて貰うと良いと聞いて……他にも色々お願いしたのですが、もうここしか頼る所が無いんです。 | |
| 5 | 男 | それは懸命な判断ですね。我が『幸せの大科学』に入信している方は、幸福に満たされた人生を送っています。あなたもぜひ入信することをお勧め致しますよ。 | |
| 6 | 女 | そ、そうですか! で、では私の悩みも解決できるんでしょうか。 | |
| 7 | 男 | 我らが神、デル・メントールの前では不可能はありません。いかがですか? 今すぐにでも。 | |
| 8 | 女 | あ……でも……私はそんな信心深くはないのですが……大丈夫でしょうか? | |
| 9 | 男 | 心配要りませんよ。今からでも修行していけば神は等しく幸福を与えて下さいます。 | |
| 10 | 女 | そうですか。でも、今すぐにというのはちょっと……。まずは今の悩みの相談に乗って頂けますか? | |
| 11 | 男 | それで、あなたのお悩みというのは? | |
| 12 | 女 | はい、その……。 | |
| 13 | 男 | いや、ちょっと待って。私が当てて見せましょう。 ……ご家庭の悩みですね? | |
| 14 | 女 | え!? 凄い! よく判りましたね。 | |
| 15 | 男 | これも、我らが神、デル・メントールの加護があればこそです。 あなたはご家庭の、その家族の事で悩んでいらっしゃる。 違いますか? | |
| 16 | 女 | え、ええ。 もしかして、その先もご存知なんですか? | |
| 17 | 男 | もちろん。ですが、ここから先は貴方の口から聞かせていただきましょう。 | |
| 18 | 女 | で、でもせっかくですから、当ててみて下さいません? | |
| 19 | 男 | え!? えーと……ご、ご家族の病気ですね? | |
| 20 | 女 | はい! その通りです。最近、父が入院してしまったんです。 | |
| 21 | 男 | それは、お可哀相に。 | |
| 22 | 女 | それにしても、そんな事まで分かるなんて流石ですね先生。 | |
| 23 | 男 | いえいえ、デル・メントールの力を持ってすればこれくらいは―― | |
| 24 | 女 | もちろん、病名も分かったりするんですよね? | |
| 25 | 男 | え……? | |
| 26 | 女 | 病名ですよ! 友達が言ってたんですよ。大河原先生ならどんなことも一発で当てて見せる神様のような方だって! | |
| 27 | 男 | 病名……ですか? ええと……ですね……。ガン―― | |
| 28 | 女 | え? ガンですか? 私の家族にガンは誰もいませんが | |
| 29 | 男 | え、ええ! もちろん、今のは「ガンではありませんよね?」 と言おうと思ったところです。 | |
| 30 | 女 | さすがですね先生! で、なんの病気か仰ってもらえますか? | |
| 31 | 男 | そ、それは……その……。 | |
| 32 | 女 | その? | |
| 33 | 男 | 脳こう――。 | |
| 34 | 女 | え? 脳梗塞じゃありませんよ? | |
| 35 | 男 | いえいえ! 脳梗塞じゃありませんよね! って言おうとしたところですから。 | |
| 36 | 女 | さすがですね先生! | |
| 37 | 男 | ははは……。 | |
| 38 | 女 | で、先生、そろそろ正解を教えて頂ければなーって。 | |
| 39 | 男M | あー……参ったなぁ。こういう時はだいたい、ガンか脳卒中だろ。 | |
| 40 | 女 | 先生? | |
| 41 | 男 | よろしいですか? あなたのお父様は……糖尿病ですっ。 | |
| 42 | 女 | でも、病院ではそんな事は言われませんでしたよ。血糖値も正常でしたし。 | |
| 43 | 男 | 確かに、今は大丈夫でしょう。しかし、近いうちに症状が出てくるはずです。 | |
| 44 | 女 | そんな……。 | |
| 45 | 男 | 残酷なようですが……。 | |
| 46 | 女 | ただの盲腸で入院だから、大丈夫って思ってたのに……そんなのって……。 | |
| 47 | 男M | 盲腸かよ……。 | |
| 48 | 女 | 先生! どうすればいいでしょう!? | |
| 49 | 男 | お任せ下さい。その前に、なぜ盲腸でご相談に? | |
| 50 | 女 | その……父が……下半身を見られるのが恥ずかしいと手術を嫌がって。 | |
| 51 | 男 | そ、そうですか。 | |
| 52 | 女 | すみません。下らない悩みで。 | |
| 53 | 男 | いえいえ、下らない悩みなどありません。 | |
| 54 | 女 | ありがとうございます。それで、私はどうすれば良いでしょう? | |
| 55 | 男 | まず、お父様が手術を嫌がるとのことですが、それはきっと不安から来るものでしょう。恥ずかしいというのもテレ隠しではないでしょうか。 | |
| 56 | 女 | では、どうすれば不安を取り除く事ができるでしょう? お医者さんには丁寧に安全性を説明して頂いたのですが、それでも父は手術を拒むんです。 | |
| 57 | 男 | 不安を取り除くのには、我が『幸せの大科学』の経典を読めば心安らかになりあらゆる事が恐ろしくなくなるでしょう | |
| 58 | 女 | 是非、その経典を頂けないでしょうか? | |
| 59 | 男 | しかし、経典は信者の方にしかお渡しできないものでして。 | |
| 60 | 女 | なんとか、頂けないでしょうか? | |
| 61 | 男 | では、特別に入信料の半額を頂ければ、お渡し致しましょう。 | |
| 62 | 女 | 入信料ですか……あまりお金は持っていないんですが。ちなみにおいくらなんでしょうか? | |
| 63 | 男 | およそ、三十万円となります。 | |
| 64 | 女 | 三十万! あの、その半分にして頂けないでしょうか? | |
| 65 | 男 | ……よろしいでしょう。困っている方には手を差し伸べるもの。十万円にして差し上げましょう。 | |
| 66 | 女 | 有難う御座います! | |
| 67 | 男 | こちらが、経典になります。 | |
| 68 | 女 | あ、はい……これ、ちょっと薄くないですか? | |
| 69 | 男 | 何を仰るのですか。言葉を選びに選び抜き、最適な表現を使用しているまで。決して手抜きなどではありませんよ。 | |
| 70 | 女 | な、なるほど。 | |
| 71 | 男 | あの、代金を頂ければと思うのですが。 | |
| 72 | 女 | あ! はい、十万円です。 | |
| 73 | 男 | 有難う御座います。ひぃ、ふぅ、みぃ……たしかに。 | |
| 74 | 女 | それで、糖尿病の方は? まだ症状が出ていないから、食生活に気を付ければいいんでしょうか? | |
| 75 | 男 | たしかに、それも大切です。ですが、これは徳が足りない事から掛かってしまう病気です。 | |
| 76 | 女 | 徳ですか? | |
| 77 | 男 | いくら食生活を良好なものとし、健康的な体を作ったとしても、神は徳の無い者には祝福を授けて下さいません。 | |
| 78 | 女 | 一体、どうすれば。 | |
| 79 | 男 | 世のためになることをすることでしょう。 | |
| 80 | 女 | ボランティアでしょうか? ですが、父は最近足腰が弱くなってきていて、そういった事は難しいんです。 | |
| 81 | 男 | ボランティアだけでなく、寄付や募金といった行為も徳を上げるのですよ。 | |
| 82 | 女 | ユニセフとか赤い羽根共同募金とか、でしょうか? | |
| 83 | 男 | はい、ですが、ああいった募金はどこへお金が流れているのか分からないものです。実際に困っている方々へ届かなければ、徳は上がりません。 | |
| 84 | 女 | では、私達はどこに募金すれば? | |
| 85 | 男 | 我々も、募金活動によって独自に困っている方々を手助けする行為を行っています。一年毎に使用用途等を公開し、募金者にも納得頂ける基金を運営しているのです。 | |
| 86 | 女 | それだと、募金する人も安心できますね。 | |
| 87 | 男 | あなたもいかがでしょう? 一万円から受け付けておりますが? | |
| 88 | 女 | うーん…… | |
| 89 | 男 | お父様のためを思えば、僅かでも寄付なさるべきかと。 | |
| 90 | 女 | そうですね。あまりお金もないので一万だけ……。 | |
| 91 | 男 | ……(舌打ち) | |
| 92 | 女 | 先生? | |
| 93 | 男 | ま、宜しいでしょう。今後も続けられる事をお勧めしますよ。 | |
| 94 | 女 | はい。本日は有難う御座いました。 | |
| 95 | 男 | あ、ちょっと。せっかくですからあなたのお悩みのご相談にも乗りましょう。 | |
| 96 | 女 | え? 私の? | |
| 97 | 男 | はい。あなた……いま良縁に恵まれず寂しい毎日を過ごしていませんか? | |
| 98 | 女 | えぇ!? 私が寂しいなんてどうして分かるんです!? | |
| 99 | 男 | ど、どうしました? 突然叫んで? | |
| 100 | 女 | い、いえ、すみません。 | |
| 101 | 女M | なんで、そんな事言われなくちゃならないのよ | |
| 102 | 男M | 図星か。肌の荒れ具合と、そのパッとしない顔見りゃ誰でも分かるが。 | |
| 103 | 男 | この霊験あらたかな壷を持っていれば、良縁に恵まれますよ。 | |
| 104 | 女 | ほんとにぃ? | |
| 105 | 男 | ええ、今までも多くの方がこの壷を買ってから結婚なされています。 | |
| 106 | 女 | ……ほんとに? | |
| 107 | 男 | ほら、こちらの女性の方。あまり綺麗とは言えませんが……このような男性とご結婚されています。 | |
| 108 | 女 | あ、良い男じゃない。これ、ほんとに結婚してるんですか? | |
| 109 | 男 | ええ、こちらの年賀状に結婚式の写真も。どうぞ。 | |
| 110 | 女 | ……うわぁ……へえ……。 | |
| 111 | 男 | いかかでしょう? | |
| 112 | 女 | あ、あの、結構高いんですよね? | |
| 113 | 男 | そうですね。こちらの大きな壷ですと、三百万致しますね。 | |
| 114 | 女 | 三百!? | |
| 115 | 男 | ですが、貴方は容姿も悪くないので、こちらの小さめの壷で充分でしょう。 | |
| 116 | 女 | そ、そっちの小さいのはいくら? | |
| 117 | 男 | 百万円になりますね。 | |
| 118 | 女 | ……百万ね。貯金を切り崩せば……ってダメダメ! 結構です! | |
| 119 | 男 | では五十万で? | |
| 120 | 女 | え? ほんと? | |
| 121 | 男 | はい。 | |
| 122 | 女 | 先生! 有難う御座います! 是非、握手を! | |
| 123 | 男 | はっはっはっはっは……そんなに喜んでいただけるとは。 | |
| (ガシャっと手錠の音) | |||
| 124 | 女 | はい。逮捕。 | |
| 125 | 男 | え!? | |
| 126 | 女 | えー、大河原龍鵬。詐欺罪で逮捕します。さっきの会話は録音済みです。 | |
| (女は携帯をかけた) | |||
| 127 | 女 | あー、もしもし課長? 裏取れました。突入お願いします。 | |
| 128 | 男 | あんた警察か!? | |
| 129 | 女 | いやー、あなた面白かったわ。 病気が外れたら、勝手に人を糖尿病にしちゃうし。 | |
| 130 | 男 | 道理で、外れると思ったらそういうことだったのか……。 | |
| 131 | 女 | それに、なによあの薄っぺらい経典は。あんなのに騙される人が可哀相ね。 ま、言い訳は弁護士に言いなさい。 あ、はいはい。ホシはこいつね。護送宜しくお願いねー。 | |
| (他の刑事が大河原をしょっ引いていく) | |||
| 133 | 女 | え、この壷は何かって? ……この壷はあたしが押収しておきます。 | |
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