日野 守♂ 15歳 一見おとなしくて優しそうな雰囲気。だけど、言う事はきつい。自分は頭良いと思っている節がある。
台詞数:56





新井 志穂♀ 16歳 病弱で引きこもりな少女。いつも元気無さそうにしている。人をからかうのが密かな趣味。台詞数:56









             跳ね回る風の下で


エピソードその7『とりあえずやってみましょう』



1 志穂 「あれ、怪しい人影が」
2 「怪しくてすみませんね」
3 志穂 「こんにちは、人影さん。何か御用ですか?」
4 「いえ、ただ入れるのかなと迷ってたんです」
5 志穂 「勝手に入ってもいいんですよ。部室なんですから」
6 「まあ、そうなんですけどね」
7 志穂 「では、とっとと入りましょう。立ってるのに疲れてきました」






8 志穂 「なにやります?」
9 「ゲームやりに来たの前提で話さないで下さい」
10 志穂 「え、じゃあ何しに来たんですか?」
11 「何も。ただ、入れるのかなって眺めてただけですよ」
12 志穂 「暇だったんですね」
13 「そうかもしれないですね」
14 志穂 「じゃあ、どれ読みます? 今日はサンデーがありますけど」
15 「だからマンガを読みに来たわけでもありません」
16 志穂 「……寂しかったんですね、ふふふ」
17 「……手持ち無沙汰だっただけです」
18 志穂 「いいですよ。好きに使って構いません」
19 「じゃあ、そこで宿題でも片付けてます」
20 志穂 「殊勝ですね」
21 「普通です」
22 志穂 「まあ、好きに使っていいですよ。しかし――」
23 「なんですか?」
24 志穂 「意外ですね。一人で来るとは思いませんでした。あ、ちょっとそこの箱取ってもらえますか?」
25 「見に来ただけですよ。って、これ重いですね」
26 志穂 「セガサターンですからね。中身が詰まってて重たいんですよ」
27 「……」
28 志穂 「ネット対戦もできるんですよ?」
29 「いや知ってますけど。物凄く環境が限られますよね」
30 志穂 「できる、って便利な言葉ですよね。それにかかる苦労は別ですから」
31 「あの、一応突っ込んでおきますが、ここ部室ですよね?」
32 志穂 「ええ、一応。あと、配線もお願いしていいですか?」
33 「なんで僕が」
34 志穂 「私、先輩ですから。一応」
35 「いや……」
36 志穂 「私、先輩。あなた、後輩」
37 「……分かりましたよ」
38 志穂 「苦しゅうないです。人影さん、会長とケンカでもしましたか?」
39 「……どっから突っ込めばいいのか迷うところですが、ケンカしてないですしケンカする理由も要素もありません」
40 志穂 「ああ、今日はゴミ拾いとかいうボランティア活動があるとかないとか」
41 「ええ、ってなんでそんな変な言い回しをするんですか?」
42 志穂 「私、嫌いですから。そういうの」
43 「僕は、嫌いというわけじゃないですけど」
44 志穂 「別に良いんですよ。私の前では、世間体を気にしなくて」
45 「いえ、そういう訳ではなく」
46 志穂 「ま、いいです。あなたにも色々あるでしょうから」
47 「何もありませんよ。ところで、宿題に集中していいですか?」
48 志穂 「どうぞ。お邪魔しました」





30分後



49 志穂 「終わりました?」
50 「はい。終わってますよ」
51 志穂 「終わってたんですか……ちょっといいですか?」
52 「いいですけど、なんですか?」
53 志穂 「私、考えたんです。あなたがここに来た理由を」
54 「……それで?」
55 志穂 「何かあったでしょう? 嫌な事とか痛い事とか」
56 「……いや何も」
57 志穂 「……面白くありません。何かあって下さい」
58 「無いものは仕方ないですよ。無いんですから」
59 志穂 「はあ、そうですか。分かりませんねぇ」
60 「何がですか?」
61 志穂 「いえ、あなたの事が、ですよ」
62 「そんな簡単に分かられても困りますよ」
63 志穂 「それもそうですが、分かりたいのが私という人間なんです」
64 「はあ、贅沢な人ですね」
65 志穂 「そうですっ、お互いを分かり合うために、一緒にゲームでもいかがですか?」
66 「そこでやっぱりゲームなんですね。というか、対戦は苦手なんですけどね」
67 志穂 「多少は手加減してあげます」
68 「あんまりやったこと無いですし」
69 志穂 「やってみないと結果は分かりませんよ?」
70 「んー……まあ、それもそうですね……いいですよ。何やるんですか?」
71 志穂 「ここは年頃の乙女らしく、ボンバーマンというのはいかがでしょうか?」
72 「どこらへんが乙女……」
73 志穂 「突っ込みありがとうございます。では、これなら女の子っぽくありませんか?」
74 「ぷよぷよですか? 確かにそんな、気も、しますけど」
75 志穂 「煮えきりませんねぇ。つべこべ言わずやりましょう。はい、どうぞ」
76 「はいはい、分かりましたよ。ゲーム自体は好きですし付き合いますよ」
77 志穂 「ふふ、殊勝ですね」
78 「……普通ですよ」
79 志穂 「さ、ボコボコにして差し上げましょう」
80 「望むところです」






81 「……あ、あの」
82 志穂 「ばよえーん、ばよえーん」
83 「いや、ゲームのセリフ自分で言わなくて良いですから。なんでそんな強いんですか」
84 志穂 「私、ゲーマー。ゲームとても好き」
85 「分かり易い説明、有難う御座います……って、また8連鎖来たし」
86 志穂 「ばたんきゅー、ですね。これで何回目ですっけ?」
87 「0勝17敗ですよ……まさか一回も勝てないとは……」
88 志穂 「さて、今日はここらへんにしておいて差し上げましょう」
89 「ええ、そう願いたいです」
90 志穂 「済みません……やり過ぎてしまいましたね。楽しくなかったでしょう?」
91 「そりゃあ、そうですよ。と言いたいですが、意外と面白かったですよ」
92 志穂 「それはなによりです」
93 「ここまで負けると悔しくもありませんね」
94 志穂 「私だったら悔しくて仕方ないでしょうねぇ。……大人ですねぇ」
95 「子供ですよ。」
96 志穂 「ふふ、そうですか?」
97 「やってみないと分からないですね。学校でするゲームがこんなに楽しいとは思いませんでしたよ」
98 志穂 「悪い事は楽しいんですよ」
99 「知りませんでしたよ」
100 志穂 「それはもったいない事です」
101 「さてと、そろそろ失礼していいですか?」
102 志穂 「ええ。良ければまたどうぞ」
103 「気が向いたら、来ますよ」
104 志穂 「……日野さん」
105 「なんです?」
106 志穂 「やってみないと分からない事って多いですよね」
107 「そうかもしれませんね」
108 志穂 「私はもう諦めた人間ですが、あなたはまだ若いです」
109 「いや、全然変わらないでしょう」
110 志穂 「迷ったら試してみることですよ」
111 「……そうしてみます。それじゃあ」
112 志穂 「はい、お達者で」