鮭のチンジャ焼き
「これ論」読者なら一度は作ろう。
2005.6.8    ver. 1.01
若手研究者のお経

チンジャ焼き

【材 料】(2 人分)
生鮭・・・・・・2切れ
ほうれん草・・・2/3 束
サラダ油・・・・大さじ2
生姜・・・・・・30 g
バター・・・・・20 g
醤油・・・・・・大さじ1
塩・・・・・・・少々
胡椒・・・・・・少々

調理時間 その時による
カロリー 不明
塩分   不明
効能   論文が通りやすくなるという流言あり
1. ほうれん草の根本に十字に包丁を入れる。長さ 4-5 cm のざく切りにし、10 分間水につけてあくを抜く。

2. 鮭の両面に塩胡椒し、5 分間おく。

3. 生姜は千切りにする。

4. ほうれん草をざるに取って水気を切る。フライパンを熱しサラダ油と塩を入れ、ほうれん草を炒める。塩を入れることにより、ほうれん草の水気が抜けやすくな る(想像)。

5. 炒めたほうれん草をざるに取り、水気を搾り切る。

6. フライパンを熱しバターを溶かす。生姜・醤油を入れてさっと炒め香りを出す。鮭を入れて両面を焼く。

7. フライパンに蓋をして、弱火で蒸し焼きにする。

8. 鮭に火が通ったら、フライパンから取り出して器に盛る。

9. ほうれん草をフライパンに入れて塩胡椒し、バターに絡めて味をなじませる。フライパンから取り出し鮭の上に盛る。


お願い:こうすれば美味しくなるという改良案がありましたら、私までメールを下さい。究極のチンジャ焼きを求める道は いまだ続いています。
謝辞:ほうれん草の調理法は、はなまるマーケットで放送し たものをそのまま真似しました。文句があったらはなまるマーケットにねじ込んで下さい。これが謝辞する態度ですかね。

鮭のチンジャ焼き物語
鮭のチンジャ焼きは、「これから論文を書く若者のために」(通称「これ論」)に登場する料理である。この料理は、悲劇の香りに包まれている。その悲劇の 物語 を語ろう。
 北海道には、キャベツなどの野菜と鮭を味噌味で焼く料理がある。1997 年に生態学会で札幌を訪れた私は、この料理のことを初めて知った。実際に食べたわけではないが、以来なんとなく、この料理のことが頭に残っていた。
 私は、2001 年に「これ論」の執筆を開始した。本のテーマを「ウケとサッカー」に決め、意欲的に取り組んだ。「論文の書き方」は副次的なテーマであった。そし て、「勝利を呼ぶ牛タン定食仮説」(ベガルタ仙台が強いのは、選手が牛タン定食を食べているからであると唱える仮説)を検証するという架空の論文の執筆に 邁進した。その中で、モンテディオ山形とコンサドーレ札幌の選手が好きな料理も登場させることにした。山形というと玉コンを即座に思い浮かべ る私(大好きなのだ)であるが、玉コンではいくら何でも栄養が不足していよう。山形は蕎麦にした。コンサドーレ札幌はどうしようか ………。思い出したのが、あの鮭料理であった。そう、鮭のチンジャ焼きだ。そして、「コンサドーレ札幌の選手が最も食べる回数が多いのは鮭のチンジャ焼 き」(p. 95)と書いた。
 幸いにして「これ論」は多くの方に絶賛され、ベストセラーとなった。鮭のチンジャ焼きも、論文執筆に勤しむ若者の眼にふれた。論文の書き方の講 義を私が行ったときも、鮭のチンジャ焼きの文字が刻み込まれたスライドを作った。
 悲劇は、出版からちょうど三年後に起こった。書店に並んだのが 2002 年 5 月 20 日。それからちょうど三年後の 2005 年 5 月 20 日である。この日は、研究室に入ったキメグの歓迎会を私の家で行うことになっていた。気候の良い頃なので、庭でバーベキューをしようと相談した。キ メグが、「北大の久保さん・長谷川さ ん・小菅さん・他、講座の皆様から送って貰った鮭 が一本あるので、それをバーベキューで焼きましょう」と提案した。北海道の鮭を焼くというと、鮭のチンジャ焼きだ。作り方 を調べようと、「鮭のチンジャ焼き」で google で検索してみた。ところが全然引っかからなかった。???。そんなはずはない。そこで今度は、「鮭 北海道 料理」で検索してみた。---------- ------ そしてわかった。この世に、「鮭のチンジャ焼き」という料理は存在しない。正しく は、「鮭のちゃんちゃん焼き」だ!!!。私は、1997 年以来、「鮭のチンジャ焼き」と思い込んでいた。名称を聞きかじっただけなので、こうなってしまったのか。自分で注文して実際に食べていたら、正しく覚え ていたやも知れぬ。流石はちゃんちゃん、上梓してなお三年の間、よくぞこの「これ論」を謀った。
 この日から私の苦悩が始まった。本を訂正するべきか。しかしそれなら、勝利を呼ぶ 牛タン定食仮説も訂正せねばならない。ベガルタ仙台が J2 中位に沈んでいてはあまりに説得力がない。やがて思った。本を訂正するなど敗者がすることだ。世の 中を本に合わせるのだ!  ベガルタ仙台だって、今年昇格を決めたら、2006 - 2010 年に J1 五連覇する可能性を完膚無きまでに否定することは出来ないではないか。

無いならば 作って見せよう チンジャ焼き

私は、意気込んで台所に立った。
 さてどういう料理にするか。料理の本を読んで作るのが精一杯な私に、新しい料理を作り出すことが出来るのか?  そのとき、遠い記憶がよみがえった。暁子と二人で分担して料理していたときのことだ。本を見ながら、暁子は料理本体、私はタレを作っていた。出来上がった 本体とタレを合わせる段になって、微妙に辻褄が合わないことが気になった。しかし、構わずタレを合わせたら、ちゃんと美味しかった。食べ終わって気づい た。暁子と私は、同じページに並んでいる違う料理を作っていたのだ。 つまり料理とは、それほどまでに悠然とした存在なのである。私が作るチンジャ焼きも、広い心で受け入れてくれるに違いな い。
 まず、「チンジャ焼き」の核となる素材を決めてしまおう。「ジャ」のあたりがなんとなく生姜を思わせた。そこで、鮭と生姜を使うことに決めた。味噌味で はちゃんちゃん焼きと変わらない。醤油味にしよう。ならば、豚の生姜焼きの味付けを取り入れればよい。試しに、「鮭とキャベツの豚生姜焼き風」を作っ てみた。それなりに美味しかった。しかし今一つでもあった。キャベツと生姜醤油の相性が悪いように思えた。その後もいくつか試作したものの、納得できる料 理は出来上がらなかった。
 ある夜、究極の組 み合わせを思いついた。キャベツではなくほうれん草だ。「バターと鮭」「鮭とほうれん草」「ほうれん草と醤油」「醤油と生姜」「生姜とほうれん草」「ほう れん草とバター」 「バターと醤油」と、どこを取っても相性が良いではないか。鮭とほうれん草をバターと醤油と生姜で味付 けすれば良いのだ。わくわくしながら試作してみた。それはまさに、研究において、期待しているデータが出そうなわくわく感であった。ところ が。ほうれん草から水気がびったり出ていて、今までで一番不味い試作品と 化していた。

君の 行くー道はーー 果てしーなく遠いーー

という歌が頭を流れた。
 問題は、ほうれん草から出る水だ。はなまるマーケットで、「水気の出ないほうれん草バター炒め」の作り方を放送していたのを思い出した。google で検索した。あった。こ れをこのまま取り入れれば良いであろう。それと、すり下ろし生姜ではなくて、生姜の千切りにしてみた。この方が、鮭の臭みが消えや すいのではないかと思ったのだ。試作してみた。美味しかった。これならいける! これで完成にしよう。でないと、「いったい何やってんだか、日記のネタにしかならないではないか」と思う日が、果たして来るのか?
 この二週間、鮭のチンジャ焼きを求めて十回くらい試作をした。バター味の鮭を何切れ食べたことやら。この努力のおかげでついに完成した。私自身は、鮭の チンジャ焼きを見るのも嫌になってしまった。この物語の真の悲劇は、 ここに あったやも知れぬ。了。

 後日談:鮭のチンジャ焼きを作っただけでは駄目であった。コンサドーレ札幌の選手に食べて貰わないと、世の中を本に合わせたことにならないのだ。大塚愛 に「論文書きの歌」を歌わせること(3/23 の進歩参照)に劣ら ぬ難問 に見えて、茫洋とする日々を過ごしている。