酒井 聡樹著 共立出版
本体 2600円(税込み 2730 円)
A5 判 324 頁
(ISBN 4-320-00571-6)
Aを明らかにすることを目的とする。
なぜならば、Aが明らかになっていないからだ。
これは、こんな風に人に頼むのと同じです。
ここに穴を掘って下さい。
なぜなら、ここに穴が無いからです。
こう言われて穴を掘る人はいません。穴を掘ってもらうためには、どうしてそこに穴を掘るのかを説得する必要があります:
なぜなら、徳川幕府の埋蔵金が埋まっているからです。
世の中には、穴の無い場所が無数にあります。そして、ある場所(埋蔵金が埋まっている場所など)は穴を掘る価値があり、他の場所は穴を掘る価値があ
りません。同様に世の中には、「明らかになっていないこと」が無数にあります。そして、あることは明らかにする価値があり、他のことには明らかにする価値
がありません(図参照)。たとえば、サッカーくじtotoを惜しくもはずす技術(けっして当ててはいけな
い)を開発していったい何の意味があるのでしょう。
論文を書くとは、この論文を読んで下さいと読者に頼むことです。読者に読む気を起こさせるためには、イントロダクションで、どうしてA
を明らかにする必要があるのか(Aを明らかにすることにどういう価値があるのか)を説得することです。「明らかになっていないから」というだけで
は、読者は納得してくれません。なお本書では、「イントロ折り紙」という、「どうしてやるのか」に説得力のあるイントロダクションの書き方のコツを紹介し
ています。
本書のもう一つの特徴は、学術雑誌に論文を投稿してから、学術雑誌への掲載が決定するまでの各段階でするべきことも解説していることで
す。原稿を書き上げればお終いのはずがありません。学術雑誌に論文が掲載されるまでには長い道のりがあるのです。
本書の説明は、「論文書きの歌」に沿って進みます。これは、「アルプス一万
尺」の替え歌で、歌詞が 18 番まであります。また、ベガルタ仙台に関する架空の論
文を題材に、楽しく、かつ、どんな研究分野の方にも理解できる説明を心がけています。本書が少しでも、「これから論文を書く若者の
ために」役立てば幸いです。
本書は四部構成です。
第 1 部では、なぜ、論文を書く必要があるのかということと、論文に関するいくつかの基礎知識を説明します。
第 2
部は、論文書きの実践編で、本書の核となる部分です。前半部分は、論文のそれぞれの章で何を書くべきか、そしてそれをうまく書くためのコツの解説です。後
半部分は、原稿を書き終えてから学術雑誌に掲載されるまでの道のりの解説となっています。
第 3 部では、いかにして論文を書き上げるか --- 執筆に向かう姿勢 ---
について助言をします。初めに、効率の良い執筆作業の進め方を説明し、次に、なかなか論文を書けない若者を叱咤激励します。
第 4
部では、わかりやすい論文を書くコツと面白い論文の条件を紹介します。わかりやすい論文を書くコツの説明は、文章の書き方一般に通じるものです。
本書が対象とする読者は、「これから論文を書く若者」です。具体的には、次のような人たちを想定しています。
・研究の世界に入ったばかりの大学院生・学部生。研究成果を挙げた後には、どういう作業が待っているのかを知って下さい。そして、自分が論文を書く日を夢
見ながら、これからの研究生活に打ち込んで欲しいと思います。
・初めての論文をこれから書こうとしている大学院生・学部生。本書の内容が、論文を書く上で役立つことを切に願っています。
・論文を書いたことがあるけれども、「大変だった」という実感ばかりが残り、書き方のコツがつかめていない大学院生・若手教官・若手研究員。論文書きを実
体験した後に本書を読む方は、納得度がずいぶん違うと思います。
・学生の論文書きを指導する立場になったばかりの若手教官。教える側の理論武装の一つとして本書を役立てて欲しいです。
・卒業論文・修士論文・博士論文を書こうとしている学生。本書の内容のかなりの部分は、これらの論文の執筆にも役立つはずのものです。
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