『これから論文を書く若者の ために:究極の大改訂版』
表紙 に賭けた魂の闘い
その5

若手研究者のお 経


二週間が経った。2 月 16 日の朝、第二弾のラフ表紙案が届いた。

格好良い。O カがユニフォーム姿に変わっていた。上半身だけでよかったのだが。修正して貰えばよいであろう。そして電光掲示板に、「Major revision」の文字が光っていた。酒井は、何とも言えぬ可笑しさを感じた。
 図案を印刷して学生部屋に行き、見つけた学生を皆つかまえて意見を聞いた。夜を良しとする意見が多かった。ポスドクの O 黒を見つけた。論文をい くつも書いており、読者対象を超えている存在であった。しかし意見は聞きたい。図案を見た O 黒は、「Major revision! あはははっ」と笑った。ウケたことに、酒井は内心喜んだ。しかしその直後、一つの事が脳裏に浮かび上がった --------------------。

 学生は一人も笑わなかった !?。

 図案を掴んで酒井は学生部屋に走った。「Major revisionってわかる?」「Major revisionってわかる?」「Major revisionってわかる?」……………。答えは同じだった。ほとんどの学生が Major revision を知らなかった。大改訂という意味なのだが。考えてみれば、論文を書いたことのない学生が知っているはずもなかった。執筆経験はまだな く、これから論文を書くのだ。酒井自身が書名に、「これから論文を書く若者」と書いているではないか!

「Major revision ……………」
注:わかりにくいかも知れないが、Major revision を Major revision するという意味の呟き。

他の言葉に変えなくてはいけない。学生が知っているか、想像がつく言葉に。
 やがて酒井は、一つのフレーズを書き記した。ポスドクの I 垣に見せると、当然それが良いと言った。I 垣はさらに、夜のバージョンでは第 2 版と区 別が付きにくいと指摘した。

第 2 版表紙
確かにそうだ。昼のバージョンにして、空の色を綺麗な青色にして貰おう。酒井は、空の色等を自分で描き変え Y 内に送った。これに決めたと付け加え た。

電光掲示板には「Road to acceptance」と映し出されていた。acceptance とは、学術雑誌への論文掲載が決定することだ。研究者は皆、これを目指して闘っている。 こうやって見てみると、ストーリー性があって良いと思った。若者が、acceptance を目指して闘う。そこへ、「これから論文を書く若者のた めに」と贈られている。
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