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98.東都1部リーグを前に

PLの旧友たちとの再会と現実

解散が終わり、いよいよ秋に向けての準備が始まった。
僕らの力が1部で通用するかどうかはわからない。オープン戦をするのは亜細亜大学ぐらいだったが、これまで勝った試しがない。
青山学院大学の諸麦渡辺、東洋大学の前田、みんなから祝福の声をかけてもらった。
と同時に、これからは彼らと敵として戦わなければならないわけだ。
「中央は強い」
そのように口を揃えるが、2年前の入替戦といい、今回の専修大学戦といい、1部で最下位だった大学といい勝負をしているようでは到底適わないだろう。
それに、万年2部で過ごしてきた僕らに、いきなり1部でやれるだけの自信を持てというのは酷である。染みついているものは簡単には洗い流せないからだ。
神宮での歓喜から一転、厳しい現実を叩きつけられたのであった。

成功率10割の盗塁の極意

夏のオープン戦、僕は1番を打つようになっていた。
得点力を上げるためには、僕の出塁率が大きくかかわってくる。春から好調を維持していた打撃を買われての起用だった。
僕は監督との間で、ある専用のサインを決めた。盗塁である。日頃から「モーションを盗めたらいつでも行っていい」と言われていたものの、何か別の作戦を監督が考えているときは走らないで欲しいときがある。
点差やイニングによって走ってはいけない場面などはわかっていたが、考えを統一させることは難しい。
ピッチャーの癖や相手の守備体系を見て、「これは走れる」という状況ならスタートした方がいい。もちろん100%成功する自信があるという条件はつくが。
従って、サインの発信は僕がおこなった。
まず右手で左胸から右胸に線を引くようにジェスチャーすれば、「盗塁します」のサイン。監督が同じジェスチャーをすれば「了解」の意味。逆に右手で胸の真ん中を上から下に動かせば「動くな」という合図だ。
幾度となくこの作戦は決行されたが、最後の最後まで盗塁死は一度もなかった
野球には「走・攻・守」がある。前にも述べたように「走」と「守」にはスランプがない。中でも「走」は、得点力をアップさせるどころか、相手にプレッシャーをあたえることができる。
ここでいう「走」とは、決して足の速い選手だけを指しているのではない。走塁がうまい選手は、走らないと思わせて走ったり、走るぞという構えをしながら走らなかったりと、相手が嫌がることを平気でやってのける
「嫌なランナーが出たな。いつ走ってくるんやろう」
そのように思わせることが重要なのだ。
1部になると、ピッチャーの質が上がるので、今までのように打って勝つことは極めて難しいと予想できる。
少ないチャンスをものにするにはこういった細かいところを精査する必要があった。

最後の浜松遠征での感慨

最後の浜松遠征に行ったときのこと。
中央大学出身の方々は、河合楽器ヤマハなど、静岡の社会人野球チームに進まれるケースが多かった。
そのせいもあって、あいさつをするたびに先輩方が今春の偉業を慰労してくれた。
1部復帰を心待ちにしていたOBは、何も神宮球場に観戦に訪れた人たちだけではないのだ。悲願の達成の意味を改めて感じる。
しかし、ここ浜松にもよく来たものだ。ケガをした3年生の夏を除けば7回も訪れたことになる。
下級生の頃はバスでの長距離の移動中に寝れない苦しさを味わったが、今となってはいい思い出である。
ちなみに、この年もPLは甲子園出場ならず。
この夏の甲子園を制したのは正田(日本ハム→阪神→台湾・興農ブルズ)を擁する群馬の桐生一。春の沖縄尚学に続き、初の栄冠を手にした。
確実に「地方」へと、新しい野球の風が吹きはじめていた。

99章につづく

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