キャンプに戻ったら、生き残り競争が激化していた。
当然ながら、これから始まるオープン戦のメンバーに選ばれなければ、リーグ戦のメンバーに入れるわけがない。
「ここで踏みとどまってやる」
卒業式の浮かれ気分を払拭し、再度気合いを入れ直すのであった。
ある日、西武ライオンズの選手が、高知キャンプで近くのホテルに泊まっているとの情報を聞きつけ、先輩の黒田さんとそのホテルへ向かった。
「お久しぶりです」
目線の先には松井稼頭央さんが立っていた。
当時の背番号はまだ「32」。スイッチヒッターの練習をやり始めたところで、若手の期待株だった。
挨拶に訪れた僕らに、バットとバッティンググローブをプレゼントしてくれた。
「応援ありがとうな。お前らもがんばれよ」
松井さんがブレイクする前の貴重な体験だった。
その後の松井さんの活躍は、みなさんもよくご存知であろう。
キャンプ後半にはオープン戦が組まれ、僕はそのメンバーに選ばれた。
主に代走や守備固めで試合に出させてもらい、それなりの活躍を見せた。
他の1年生も負けじと結果を残すなど、僕らは切磋琢磨していった。
そして、キャンプが無事に終わり、東京に戻った。
4月からはリーグ戦が控えている。
全てが初めての経験で、目の前で起きることも新鮮だ。
大学野球のスケジュールは、まず4月から5月にかけて春のリーグ戦を行う。
それに優勝した大学のみが、神宮で開催される全日本大学野球選手権大会に出場できる。
9月からまた秋のリーグ戦が始まり、優勝すれば明治神宮野球大会に出られる。
この2つのリーグ戦に優勝するのが、最大の目標なのである。
中央大学は、東都1部リーグで24回の優勝、全日本大学野球選手権大会を3回制覇、明治神宮大会も1回の優勝を記録している。
主なプロ野球選手は、桑田武さん(元大洋)、武上四郎さん(元ヤクルト)、末次利光さん(元巨人)、高橋良昌さん(元東映、現中央大学監督)、藤波行雄さん(元中日)、佐野仙好さん(元阪神)、岡村隆則さん(元西武)、熊野輝光さん(元阪急)、小川淳司さん(元ヤクルト)、高木豊さん(元大洋)、尾上旭さん(元中日)、苫篠賢治さん(元ヤクルト)、堀田一郎(元巨人)、花田真人(ヤクルト)、阿部慎之助(巨人)、亀井義行(巨人)などなど。
PL学園出身では、中塚政幸さん(元大洋)、行沢久隆さん(元西武)、米村明さん(元中日)、岡部明一さん(元ロッテ)と、4人のプロ野球選手が誕生した。
まさに名門大学の称号を欲しいがままにしてきた中央大学。
そんな中で、進学を決めたわけだが、当時は正直そこまで名門だったとは知らなかった。
そんな歴史など、僕は全く忖度していなかったのである。
しかし中央大学は、1989年に2部に降格すると、以降低迷期が続いていた。
当然、僕らの目標が、長年の悲願になっていた「1部復帰」ということになったのは言うまでもない。
それを達成するために、僕らは中央大学に誘われたんだと、ようやく理解できたのは春先になってのことだった。
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