中央大学硬式野球部の合宿所は、東京都八王子市にある。
京王相模原線の「京王堀の内」という駅が最寄りだ。
駅を降りると、PLのひとつ上の先輩・黒田さんが待ってくれていた。
「よう、来たな」
後輩が入寮するから嬉しいのだろう。黒田さんも笑みを浮かべる。
寮に着くと、早速部屋に案内された。
中央大学の寮は6畳の2人部屋。4年生と2年生、3年生と1年生が基本的な組み合わせだった。
荷物を置くと1年生は食堂へ集められ、そこで仲間との再会を果たした。
これだけ全国に名が通ったメンバーが集まるのは、まずないだろう。
2年生から決まりごとや、1年生がやらなければならないことを聞いた。
大体のことはPLで経験してきたので、すぐに飲み込めた。
主な仕事は、3、4年生の付き人の洗濯、練習後の買い物、グラウンド整備、毎朝の掃除、基本的にはこれぐらいだ。
他に細かい縛りはあったが、気にならない程度のものだった。
唯一「ん?」と思ったのは、挙手をするときに「はい失礼します」というのが決まりだった。これだけは、なかなか馴染めなかった。
「変わった決まりやな」
同級生たちも、そう口をそろえて疑問を投げかけていた。
門限は22時30分だったが、部屋長に許可をもらえば過ぎてもいい。
部屋でタバコを吸っても大丈夫だし、テレビも観られる。同部屋の先輩の冷蔵庫や、ミニコンポなどは使いたい放題。外でお酒を飲むのも自由だった。
何が一番辛かったと強いていうなら、どんなに酔っ払っていても、朝の掃除だけはしなければならなかったということ。掃除をしなくて何回か怒られたことがあった。当たり前ではあるが……。
1年生の睡眠場所は、主に押し入れの中。
もし誰かが部屋に来ても寝たふりができるし、その空間を独り占めできることが心地よかったからだ。
当時の僕の部屋長は、埼玉の武蔵越生高校の小島さんという方で、非常に優しかった。
4年生の付き人の山口さんも武蔵越生高校の出身。学生コーチという立場から、怒るとかなり怖いといわれていたが、僕には本当によくしていただいた。一緒に飲みに連れていっていただいたこともある。
本当にいい先輩に恵まれた。
翌日から練習はスタートした。
まだ2月になったばかりだったので、冬用の練習メニューだった。
かなり体力は落ちていたが、ついていけないほどでもない。
PLの冬の練習の方が数段厳しかった。
「PLでやってきてホンマによかった……」
何度そう思ったことか。
2月はボールを使わない練習が当分続いた。
ここで、1年生の1日を紹介しよう。
まず、上級生が起床される前に寮内掃除をする。
朝食を済ませたあと、ユニフォームに着替えて自転車でグラウンドへ。
グラウンド整備を終えて10時から練習。15時ぐらいに練習が終わると、グラウンド当番以外はすぐに寮に帰って、付き人の買い物に出かける。
「山口さん、本日のお買い物は何になさいましょうか?」
「セブンスターと『週刊プロレス』買ってきて。おまえもジュースか何か買ってもいいよ」
「はい、ありがとうございます!」
このようなやりとりだったと記憶している。
買い物が終わると、付き人の洗濯。
これで1年生の仕事は終わりだ。
ご飯は寮の食堂に業者が入っていたので、炊事の必要もない。
好きな時間に夕食をとり、空いているときに風呂に入る。部屋でくつろいでいてもいい。
入寮当初からは、こうした1日を繰り返していった。
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