国体決勝戦の相手は、柳川高校。
試合前、アップをしながら柳川ナインと談笑した。
僕は、真っ先に同じ大学へ進学する花田と右田の元へ駆け寄り、健闘を誓い合った。
柳川の先発は花田ではなく、2年生の開田だった。
「やはり肩を痛めているのか……?」
どうやら噂は本当だったらしい。引退してからボールはあまり握っていないようだ。
試合は序盤から点の取り合い。
1回裏にPLが4点を奪えば、すかさず柳川も6点を入れるという激しい展開になっていた。
途中PLが追いつき、6対6のまま終盤を迎えた――。
柳川高校のベンチが動いた。どうやら投手が代わるらしい。
「ピッチャー 花田くん」
どよめくスタンド、騒然とするPLベンチ。
故障していると思われていた花田が、コールされたのだ。
「おいおい大丈夫かいな。どうせ思いっきりは投げられへんのやろ」
そうPLベンチは揶揄していたが、投球練習の1球目を目撃するや黙り込んでしまった。
――ズバン!
一瞬にして僕らは言葉を呑み込み、目を見張った。
「なんや、めちゃめちゃ速いやんけ。ホンマにケガしとんかい」
後から聞いた話だが、どうやら長い間ノースローだったせいで、肩がすこぶる軽かったようだ。
横から見ても速いと感じたが、実際バッターボックスに入ると、恐怖心さえ呼び覚ますほどの素晴らしい球筋だった。
6対6の同点のまま、試合は9回へ――。
表の攻撃をゼロに抑えたPLは、その裏1番からの好打順。
1死から、僕が左中間へのツーベースヒットで出塁した。
打席には3番・諸麦。一打サヨナラのチャンスだ。
「おまえが決めろ!」
ベンチが、にわかに盛り上がる。
僕もセカンドキャンバスから声援を送った。
しかし、不運なハーフスイングを空振りと判定され、あえなく三振。
打席には4番の福留が入った。
詰めかけたファンは総立ち。おそらく彼の高校生活最後の打席になるだろうことは、ファンもよく知っている。
彼が打席に入る姿を、スタンドは固唾を飲んで見守った。
9回裏2死2塁、一打サヨナラの場面――。
公式戦ならここは絶対に敬遠だが、そこは柳川バッテリーも機微をよくわかっている。
観客がシビれるような勝負を期待していると察すると、いきなりど真ん中に直球を投げ込んできた。
「おぉぉぉ」
スタンドは大喜び。二度と見られないガチンコ勝負に酔い始めた。
「いつもの特等席に俺がいるってことは、あいつ、打ちよんな」
僕もこの勝負をまるで傍観者のように楽しんでいた。
――カキン!
打球はセンター前へ。サードコーチの手がグルグル回っている。
僕は一生懸命走った。そして両手を上げながらホームを踏んだ。
「サヨナラ!」
一瞬にしてホームベース付近に歓喜の輪ができた。
なんという劇的な幕切れだろうか。抱き合ったり、雄叫びを上げたり、もみくちゃ状態だ。
福留のサヨナラヒットで7対6。見事、国体優勝を成し遂げた。
最後の最後で、最高の瞬間を味わうことができた。
僕らは、まさに有終の美を飾ったのである。
閉会式、両校揃って記念撮影をした。
この年代で、一番長く高校野球ができたのがこの2校だ。すっかり仲良くなった姿が印象的だった。
「ありがとう。俺が取ってなかった唯一のビッグタイトルが、国体だった。本当にありがとう」
中村監督の声も弾んだ。
そして、僕らにさらに朗報が待っていた。なんとユニフォームをいただけるというのだ。
PLでは、現役引退のとき、ユニフォームを返還するのが代々の掟だった。
しかし、国体優勝の記念に、特別にプレゼントしようという運びになっていた。
こんなに嬉しいことはなかった。
そのユニフォームは、現在も大切に保管している。
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