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50.3回戦・中盤の攻防

日大藤沢がついに逆転

日大藤沢の勢いは、ピッチャーが交代したくらいでは、そう簡単に止まらなかった。
替わったばかりのエース・前田が、続く寺田に左中間を深々と破るタイムリースリーベースヒットを浴び、この回4点目
すぐそばで見た3塁ベース上の寺田のガッツポーズが、今でも目に焼きついて忘れられない。
「とうとう試合をひっくり返されたか……」
気を落ち着かせるためにグルリと球場全体を見渡せば、1塁側アルプススタンドの盛り上がりが最高潮に達していた。
「絶対取り返したるから、打たれるだけ打たれろ」
もはや、そう割り切っていくしかなかった。
いっそのことホームランを打たれてもいい。とにかく「ランナー無し」にして仕切り直したかった。
ノーアウト3塁――。
この流れからいっても、得点が入らない可能性は限りなくゼロに等しい。内野は前進守備だったが、気持ちの中で1点は覚悟していた。
「センバツで負けたときも、確かナイターやったな。嫌な予感がするで……」
あのときの敗北が、僕らの脳裏をよぎっていた。

追加点を許さなかった好プレー

ところが、奇跡的にこれ以上の得点を与えることはなかった。
一体何があったのか――。
次の1点を重く見た日大藤沢のベンチは、1死からスクイズを仕掛けてきた。
ピッチャーの右側に上手く転がしたと思われたが、前田が好フィールディングを見せ、本塁タッチアウト。追加点を許さなかった。
逆転はされたものの、心境としては無死3塁のピンチを切り抜けたことの方が大きかった。
このワンプレーは僕らに勇気をあたえた。
試合の行方を左右するプレーといってもの過言ではない。
5回を終わって5対4、PLが1点のビハインドで中盤を終えた。

チャンスに回ってきた打席

試合は終盤戦に差し掛かる7回表PLの逆襲が始まった。
9番・早川のヒット、1番・渡辺がフォアボールでつなぎ、1死ながら1、2塁のチャンスが訪れた。
「ここや!」
誰もが山場とわかっていた。今こそ「逆転のPL」の底力を見せるときだ。
「なんとしてもつなぐ」
打順は2番の僕のところに回ってきた。
中村監督のサインは送りバント。ツーアウトにしてでも2、3塁にするのがベストと考えたのだろう。
監督の思惑は僕にも伝わっていた。しかし1、2球をファウルにしてしまい、この大事な局面で逆に追い込まれてしまった。
バントのサインは取り消され、ヒッティングのサインに切り替えられた。
自分で自分の顔を殴りたくなったが、ここは流れを絶対に止めてはならない場面。なにがなんでもつなぐしかない。
ピッチャー神崎と相対し、左の手で胸を握りしめ、集中力を高めていく。
僕の緊張は極限にまで達していた。

51章につづく

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