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48.3回戦試合前のやりとり

PL応援席に現れた「赤の軍団」

PLの応援席で、ひと際目立つ団体が、にわかに話題を呼んでいた。
真っ赤な衣裳を身にまとい、悲鳴にも似た声援を送りまくる――。
自称「赤の軍団」。
あまりにもインパクトが強すぎて、その騒ぎっぷりは新聞でも取り沙汰されたほどだ。
一体誰が……その正体は、僕の身内である。
赤い帽子に赤いTシャツ。僕の写真が入った自前の手作りうちわを片手に、お祭り状態でスタンドに溶け込んでいた。
どこを探しても、ここまで激しい親戚はいないだろう。
僕にとってはこんなに嬉しいことはなかったが、「どうぞお好きなようにやってちょうだい」という気持ちもどこかにあった。もちろんいい意味で、である。

第1試合の投手戦を横目に

8月18日、3回戦――。
いわゆる準々決勝進出をかけた戦いが始まろうとしていた。
僕らの試合は第4試合
甲子園からほど近い尼崎中央教会に立ち寄って、出番が来るまで待機していた。もちろんブラウン管には高校野球が映し出されている。
よくよく観ると、第1試合が凄まじいことになっているではないか。
柳川高校のエース・花田(現ヤクルト)と、敦賀気比のエース・内藤が、壮絶な投手戦を繰り広げ、試合はすでに延長戦に突入していた。
「2人ともええピッチャーや。ええ試合しとんなぁ」
だが、僕らも感心しながら画面にいつまでも釘付けになっている場合ではない。
延長戦が進むにつれて、僕らの試合開始がどんどん遅れていく。そうなると、集中力を持続させるのが困難になってしまうのだ。
「どっちでもええから、早く決着をつけてくれや!」
白熱する投手戦を横目に、誰もがそう願わずにはいられなかった。
結局、延長15回までもつれた勝負は、敦賀気比に軍配が上がった

続々と名乗りを上げるベスト8

第2試合で金足農業が勝ち上がったころ、ようやく僕らは甲子園に着いた。
ちょうど第3試合では、センバツで僕らが黒星を喫した銚子商業と、北海道・旭川実業の試合が行われていた。
いつものようにウォーミングアップで体を温め、精神を統一させていく。
「長い1日やけど、ここでダレたらあかん。集中するんや」
そう自分に言い聞かせ、試合開始を待った。
ここまで東京勢の帝京創価、奈良の智辯学園、石川の星稜、そしてこの日に勝利した敦賀気比金足農業が準々決勝進出を決めていた。
残りの椅子は2つ――。
「その2つは銚子商業PL
当時の9割近い野球ファンが、そう思っていた。

澤井のいる銚子商業も負けた!

しかし、気まぐれな勝利の女神の差配は、一筋縄ではいかなかった。
第3試合で、高らかに勝ち名乗りをあげたのは、なんと旭川実業だった。
またしても、僕らの試合の直前に波乱が起きた。
センバツ優勝観音寺中央に続き、準優勝銚子商業までもが、甲子園の魔物に魅入られたかのように早々と姿を消すことになってしまったのである。
ベンチで鉢合わせた銚子商業ナインが、目を真っ赤にしながら力なく荷物を整理していた。
福留を見つけた澤井が歩み寄ってきて、何やら話し込んでいる。
「俺の分までがんばれよ。絶対優勝しろよ」
注目のスラッガー同士、きっとこのようなメッセージを伝えあっていたのだろう。
センバツでのリベンジを誓っていただけに、銚子商業の敗退は僕らにとっても残念な結果であった。
これで残るベスト8の席はあと1つ――。
甲子園のどよめきが止まない中、最後の椅子をかけた第4試合が始まろうとしていた。

49章につづく

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