3回裏、一人の男の伝説が始まろうとしていた――。
満塁のチャンス、迎えるバッターは福留。
インコースのカーブをすくい上げた打球は、高々とライト方向へ。
その刹那、マンモスがどよめいた。打った瞬間入ったとわかる特大の満塁ホームランが飛び出したからだ。
大会ナンバー1スラッガーの一発に、僕らも観客も興奮のるつぼと化した。
完全に勢いづいた僕らは、この回、なんと12人の猛攻で8点を上げ、スコアを10対0とした。
そして5回、福留の第4打席。
ヒットで出塁した僕を2塁において、今度は高めの真っすぐを完璧にとらえた。
美しい弧を描いた打球がライトスタンドに吸い込まれていく。
――2打席連続ホームラン!
セカンドキャンバスから見る彼のホームランは、実に美しい。
彼がホームランを打つときは、たいてい僕が2塁にいた。僕の特等席だったのだ。
前の打席に続き、僕はゆっくりホームベースを踏みしめたあと、福留をハイタッチで迎え入れた。
これで12対0。2本のホームランで完全に試合を決めた瞬間だった。
7回に3点は取られたものの、序盤のアドバンテージがものをいい、結果は12対3の圧勝。
8年ぶりに夏の甲子園でPLの校歌が流れた。
♪〜
燃ゆる希望に いのち生き
高き理想を 胸に抱く
若人の夢 羽曳野の
聖丘清く 育みて
PL学園 永久に
向上の道 進むなり
ああPL PL
永遠の学園 永遠の学園
〜♪
立浪さん(現中日)たちが春夏連覇をしたとき以来の夏の校歌かと思うと、感慨深いものがあった。
当時は、ほとんどの小学生がこの校歌をそらで歌えたのだ。僕も例外ではなかった。それほど、耳に残るインパクトがあった。
観客にも、当時を記憶に残すファンが多くいたのだろう。
校歌の最後のほうは、「待ってました」とばかり、まるでスタンドが一体となって大合唱をしているかのようだった。
甲子園で歌う校歌は、本当に格別だった。
歌い終えると同時に、勢いよくアルプス席に向かって走りだした。
満員に膨れ上がった観客が、盛大な拍手で迎えてくれるのが、また嬉しい。
その中に両親を見つけて手を振った。
身内もたくさん来ていた。
僕らにとって、甲子園で初めて味わう勝利――。
誇らしいやら、嬉しいやら、照れくさいやらで、なんだかこそばゆい気持ちになってくる。
個人としても3打数2安打1打点と、まずまずの成績を残すことができた。
「まず1勝!」
みんなの顔にも安堵の表情が見てとれる。
浮かれている場合ではないが、今日だけは勝利の感動に酔いしれても許されるだろう。
そう、僕らの熱い夏は、まだ始まったばかりなのだから。
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