例年なら、秋の日程が終わると4年生は引退する。
昨年の今頃では、ちょうど僕らが1部復帰を誓って、最上級生としての自覚を持ったところだった。
ところが1年経った今、奇しくも1部の立場を守らなければならない状況になって、まだ引退せずに試合をするとは誰が想像しただろうか。
「たとえ入替戦に勝ったからといって、僕たち4年生が来年神宮でプレーできるわけでもないが、伝統を受け継ぐためにも悔いのないよう戦おう」
長年の悲願であった1部リーグという状況を、ここで簡単に手放すわけにはいかない。
自分たちのことはもうどうでもよく、後輩たちへの置き土産を残すんだという気概にあふれていた。
入替戦――。
泣いても笑っても、これが大学生活最後の戦いとなる。
個人的にも、本格的な野球をする最後の試合になるだろう。
じつをいうと、1部の大学と対戦していく中で、この先も野球を続けていこうという気にはなれなくなっていた。つまり、自分の実力に見切りをつけたのだ。
「そこそこプレーができる内野手なんてどこにでもいる。社会人野球に進んでも、やっていく自信はない。この入替戦が正真正銘の引退試合だ」
夏に受けたミキハウスの結果もさることながら、監督から紹介されたいくつかの企業にも断りを入れてもらい、僕は一般入社への道を選択した。
「最後の花道は息苦しくなるほどの大事な試合だ。2部に落ちて去っていくのはさすがにキツい。この4年間いろいろあったけど、最後は笑って引退しよう」
そんな想いを胸に秘め、必勝を掲げて試合に臨むのであった。
1999年11月6日。
外苑の木々は緑から紅へと衣を替え、時折冷たい一陣の風が頬をかすめていた。
いつものように神宮球場に到着すると、ただならぬ空気を僕らは感じた。
そう、待ち受けていたのはリーグ戦のときよりもはるかに多い観客だった。
「せっかく1部に上がったんだから、簡単に落ちないでくれ……」
スタンドからは、そのような祈りにも似た無言のエールが伝わってくるようだった。
春は挑戦者として戦ったわけだが、今回は違うことにあらためて気づかされた。
わざわざ応援に足を運んでくれた人たちの悲しむ顔なんて見たくない。
「どんなに泥臭くてもいい。勝利のために全力で戦うだけや」
おかげで、心のどこかで受け身になっていた自分たちの目が覚めた。
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