独断的JAZZ批評 724.

SADAO WATANABE
ひとつの仕事を成し遂げてきた人の顔だね
"COME TODAY"
渡辺 貞夫(as), GERALD CLAYTON(p), BEN WILLIAMS(b), JOHNATHAN BLAKE(ds)
2011年6月 スタジオ録音 (JVC : VICJ-61655)


渡辺貞夫の音楽活動60周年を記念したアルバムだという。この人、もう78歳にもなるんだ!
長きにわたり日本のジャズを牽引してきたミュージシャンの一人だ。老いて益々盛ん。しかも現役!若い!
このアルバムは現在、ニューヨークで活躍している気鋭の若手ミュージシャンとの競演アルバムでもある。GERALD CLAYTONとドラムのJOHNATHAN BLAKEは初めて聴く。ベースのBEN WILLIAMSは山中千尋の"FOREVER BEGINS"(JAZZ批評 653.)にも参加していた。音色が良くてビートのあるベーシストだ。日本のベテラン・サックス・プレイヤーが選んだニューヨークの若手ミュージシャンとの邂逅。そしてまた、未曾有の地震に見舞われた被災者に対する応援賛歌でもあるらしい。
ところで、ジャケットの渡辺の表情が実にいい顔しているね!ひとつの仕事を成し遂げてきた人の顔だね。

@"COME TODAY" WILLIAMSのベースが力強い4ビートを刻んでいく。ドラムのBLAKEはタイプ的にはERIC HARLANDと似ていて手数の多いプレイヤーだ。
A"WARM DAYS AHEAD" 
古臭いなあと思わせる8ビートの演奏。
B"AIRY" 
渡辺のアルトは少し線が細くなったかなあと感じさせる。艶やかというよりは少し枯れた味わいだ。アップ・テンポの4ビートに乗ってCLAYTONがモーダルなピアノを披露する。
C"WHAT I SHOULD" 
バラード。こういう曲になると本領発揮という感じがする。歩んできた人生の深さを感じさせる奥深いアルトだ。CLAYTONとWILLIAMSのバッキングいいね。
D"I MISS YOU WHEN I THINK OF YOU" 
渡辺に2ビートで絡むWILLIAMSのプレイが印象的。それに比べるとCLAYTONのピアノは少し遠慮し過ぎかな。
E"GEMMATION" 
アップ・テンポでズンズン突き進むが、渡辺のアルトにもうひとつ力強さと艶がないのが残念。PHIL WOODS(JAZZ批評 713.)も今年、80歳になるけれど、まだまだ音色に艶があるからね。
F"VAMOS JUNTOS" 
明るいラテン系のリズムにズバリ嵌っている。
G"SIMPATICO" 
ボサノバ・タッチの哀愁を帯びた佳曲。
H"SHE'S GONE" 
しっとりしたバラード。哀しくも美しい。ピアノとベースの絡みが実に素晴らしい。時のたつのを忘れてしまう。
I"LULLABY" 
「~坊やは良い子だねんねしな~」

際立つのはBEN WILLIAMSとの相性の良さ。アップ・テンポでも、バラードでもこのベースが効いている。ビートもあるし良く歌う。久々に現れた感動させる黒人ベーシストだ。要、注目。
ピアノのCLAYTONもその片鱗を見せてはいるが、少し遠慮したか?
渡辺貞夫、音楽活動60年の年輪を感じさせる優しさと慈しみに溢れたアルバムに仕上がった。ジャケットの渡辺の表情が全てを表している。   (2011.11.03)

試聴サイト : http://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A002549/VICJ-61655.html



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