TINGVALL TRIO
同じような展開が2度、3度と続くと、流石に満腹感で食傷気味になってしまう
"VATTENSAGA"
MARTIN TINGVALL(p), OMAR RODRIGUEZ CALVO(b), JURGEN SPIEGEL(ds)
2009年4月 スタジオ録音 (SKIP : SKP 9087-2)


このMARTIN TINGVALL TRIOのアルバムとしてはデビュー・アルバム"SKAGERRAK"(JAZZ批評 473.)を昨年の3月に紹介している。その1週間後に第2弾"NORR"(JAZZ批評 474.)をレビューしている。このアルバムはTINGVALL TRIOの第3弾とも言うべきアルバムでメンバーは不動だ。
当初、このグループはドイツのグループと紹介をされていたので、僕もそういう風に紹介していたが、今度のアルバムのライナー・ノーツにはピアノのTINGVALLがスウェーデン、ベースのCALVOがキューバ、ドラムスのSPIEGELがドイツというように紹介されているのでそのように訂正したい。活動の拠点はドイツのハンブルグらしい。
"SKAGERRAK"はヨーロッパ的な味付けにプラスして、グルーヴ感と躍動感が丁度良い塩梅に加味されており、2008年のベスト・アルバム7枚の中の1枚に僕は選んでいる。
この"VATTENSAGA"も全ての曲がTINGVALLの作曲と編曲になっている。

@"VAG IN" 
最初の1音からして、これぞTINGVALLの音色。透明感のある美しいピアノだ。
A"VATTENSAGA" 
これも美しいタッチで始まるが、途中からタンゴ風の演奏にシフトする。続くCALVOのベースも伸びやかな音色で良く歌っている。美しいだけで終わらずに曲の中にポイントとなる楔を挟み込むのはこのグループのスタイルだ。
B"VALSANG" 
アルコを使用した音色が、あたかも、鯨の鳴き声のように聞こえるが、これって、VIT SVECの"KEPORKAK"(JAZZ批評 245.)なんかでも使っている手法だ。
C"SUITE KUHLA" 
これも美しいイントロで始まるが、ベースが軽快なテーマを奏でる。このキューバ人のCALVOは面白い。このグループにはなくてはならない存在だろう。
D"TVEKLOST" 
E"HAJSKRAJ" 
この雰囲気は、デビュー・アルバムのイメージだ。多ビートに乗ってダイナミズムと躍動感が横溢している。
F"RODBLA" 
ちょっと大げさなテーマではある。
G"UNDER YTAN" 
H"PINOCCHIO" 
「ピノキオ」?美しさだけに留まらず激しく情念を発信しているのがいいね。
I"MAKUSCHLA" 
静寂に広がる波紋のよう。ピアノ・ソロ。
J"VAGOR" 
このアルバム最長の6分半。美しさにプラスして、徐々に昂揚感が醸成されていく、その過程が非常に巧み。これこそこのグループの特徴的なスタイルだ。
K"FLASKPOST" 
L"VAG UT"
 

どの曲もどこかで聴いたような印象があるので、前2作の曲名を追ってみたが同名の曲はない。このアルバムも含めてトータル曲数は38曲。第1弾が14曲、第2弾が11曲。この第3弾が13曲という具合で、しかも、その全ての曲がTINGVALLの手によって書かれている。当然といえば当然であるが、曲の持つ雰囲気はどうしても似てしまう。だから、どこかで聴いたことがあるような印象を残してしまうのだろう。確かに、良いグループだと思うし、最初のインパクトは強烈だった。しかし、同じような展開が2度、3度と続くと、流石に満腹感で食傷気味になってしまう。
曲数が多いので1曲あたりの演奏時間も必然的に短い。前掲のPEOPLE ARE MACHINESのアルバムと比較すると1曲の突っ込み度という点で食い足りなさが残ってしまう。
次に期待したいのはスタンダード・ナンバーとかジャズの巨人の曲を数曲入れたアルバムだ。どういう解釈をして、どういう演奏を示してくれるのだろうか?
実現されると嬉しいのだが・・・。   (2009.10.09)

試聴サイト :
 http://www.tingvall-trio.de/



独断的JAZZ批評 586.