ERNST GLERUM
ERNST GLERUM、恐るべし
本当に憎いヤツだ
"OMNIBUS ONE"
ERNST GLERUM(p, b), CLEMENS VAN DER FEEN(b), OWEN HART JR.(ds : E, G,
Iを除く), HAN BENNINK(snare-drum : E, G, I)
2004年2月(E, G, I)と4月 スタジオ録音 (FAVORITE RECORDS : FAVORITE
2)
僕は、先に"OMNIBUS TWO"(JAZZ批評 459.)を聴いてしまったので、順序が逆になってしまった。結論を先に言えば、この"ONE"も"TWO"同様に素晴らしいアルバムだ。前回の"TWO"で「古くて新しく、新しくて古い無骨な味わい。昔、忘れてきた落し物に巡り会ったような気分」と書いた。このアルバムの印象も、また然り。
現代ジャズが忘れてきたグルーヴ感が凝縮して詰まっている。ついつい「ウーン」と唸ってしまう。これは「レトロなバス」と評判を取るべくして取ったアルバムだと思う。ジャズ・ファンと自認する人には是非、聴いてもらいたい。そして、じっくりと味わってもらいたい。
このアルバム、@、A、B、D、F、Hがピアノ・トリオ、残るC、E、G、I、Jがベース*2本とドラムスの変則トリオとなっている。
@"MORE OR LESS SERIOUS" 最初の2小節を聴けば、心がウキウキと沸き立ってくる。進むにつれて、このアルバムが決して「ハズレ」でないことが分かってくる。ドラムスが跳躍し、ベースが躍動する。そして、ピアノが踊る。粒揃いな3人の役者が揃って、グルーヴ感を満喫させてくれることだろう。
A"OMNIBUS" これもグルーヴィなテーマ。躍動感溢れる4ビートが気持ちよい。
B"MAKE BELIEVE - DIMPLES ON THE BEACH" EとIを除く全ての曲がGLERUMのオリジナルだけど、どの曲もテーマがいいね。ベースの定型パターンに乗って挿入されるピアノの高音部を使った導入が格好いい。
C"LOCATE" ベースが2本とドラムスの変則トリオ。これが、またまた格好いい!唸るね。2本のベースはアコースティックないい音色だ。シンプルなドラミングもまた、いい。
D"EVERLASTING SOUL" 一転して、流麗なメロディー。切れのあるピアノが歌っている。
E"NAIMA" ライナーノーツには8分26秒と書いてあるが、実際は6分。記載ミスだろう。J.
COLTRANEのオリジナル。ドラムスにHAN BENNINKが入れ替わり、しかも、叩くのはスネアドラムのみ。バスドラやシンバルもハイハットもない。アルコ奏法とスネアドラムの競演。
F"FLY OVER" 本当に憎いヤツだ。4ビートに乗って踊るピアノの憎いこと!
G"ENGINEOUS" 変則トリオ。アルコ奏法で丁々発止のインタープレイで始まる。小気味良く跳躍するブラッシュワークが素晴らしい。以前、HAN
BENNINKのアルバムとしては1994年録音の"HOME SAFELY"(JAZZ批評 281.)を紹介しているが、ピアノのCURTIS CLARKの出来がもうひとつで、ピアノ・トリオとしてはあまり良い評価は与えていない。翻って、このBENNINKが参加した3曲の変則トリオは既成のトリオにはない面白さがある。これは二重丸でしょう。
H"PIPPIN'" どうぞ躍動する4ビートを堪能してください。
I"SLAM BLUES" アルコで奏でるブルース。その後、アルコとピチカートのインタープレイとなる。この二人のベーシストは甲乙点けがたい。二人ともグッド・フィーリングだ。
J"CEMENT" 気持ちの良いベース・パターンで始まる。これにもうひとつのベースのアルコとブラッシュが絡み付いてくる。
このERNST GLERUM、恐るべし。ベースとピアノの両刀使いで、両方ともクールで熱い。ピアニストとしてのGLERUMは特別なテクニックがあるわけでもない(事実、時々ミスることもある)が、そのフィーリングがグルーヴィで捨て難い。音数は少なめであるが、十分、説得力もある。音符過剰のピアニストには見習って欲しいほどだ。しばらく、このプレイヤーには目が離せないなあと感心しつつ、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。どこかのプロモーターがこのピアノ・トリオ+変則トリオを日本に招聘してくれないものだろうか? (2008.05.03)