独断的JAZZ批評 865.

KENNY BARRON
エモーションとテクニックのつづれ織り
"SPIRAL"
KENNY BARRON(p)
1982年6月 スタジオ録音 (FOUR STAR : FS-40073)


1943年生まれのKENNY BARRONが本アルバムを録音したが39歳の時だ。日本のテイチク会館スタジオで録音されており、勿論、レコーディング・エンジニアも日本人の手による。
BARRONが一躍脚光を浴びるようになったのはSTAN GETZとのデュオ・アルバム"PEOPLE TIME"(JAZZ批評 231.)からだと言っても過言ではないだろう。それが1991年のことだから、9年も前の録音ということで、売れっ子になる前の録音と言っても差支えないだろう。
若さからくる溌剌として脂の乗っているプレイとでも言おうか、手数も多く音符の山を築くようなプレイも観られるが、やはり、一流というべきテクニックと歌心を披露している。
最近の「酸いも甘いも噛み分けた」プレイとは異にするので、そんなところも聴き込んでほしいところだ。
オリジナルが2曲で残る4曲はジャズの巨匠のカバー曲だ。

@"SPIRAL" BARRONのオリジナルで、とても良い曲だ。リリカルだけどダイナミズムにも溢れている。同じようなリフが繰り返されるが、微妙に少しずつ変化していくその様が良い。徐々に高揚感が増していくその過程がスリリング。11分を超える長尺であるが聴き応えあり。超一流のピアニストであることを印象付ける好演だ。
A"PASSION DANCE" 
McCOY TYNERの曲。TYNERに負けじと手数が多い。音の洪水である。作曲者のTYNERが矢鱈音符の多いプレイヤーだから、それを真似たわけでもあるまいが・・・。これだけ弾き倒せるテクニックも凄い。
B"REFLECTIONS" 
THELONIOUS MONKの曲。一転して、リリカルなテーマになるが、甘いだけでなく力強さも伝わってくる。流石だね、ウットリとしてしまう。
C"DOLORES STREET" 
BARRONのオリジナル。フリーなテンポで始まる10分弱の長尺であるが、決して飽きさせることはない。リリカルであるが力強い。
D"LITTLE NILES" 
RANDY WESTONの曲。WESTONのゴツゴツとしたピアノに比べるとなめらかで優しい。それでいて演奏にキレがある。
E"MAIDEN VOYAGE"
 言うまでもなく、HERBIE HANCOCKが世に名をとどろかせた記念すべき曲。見事な音使いで魅了するが、最後がフェード・アウトしていますのが勿体ない。

KENNY BARRONは今までに5枚のソロ・アルバムをリリースしている。5枚という枚数は一流ピアニストの証でもあるだろう。そのうちの4枚をゲットしているが、残る1枚は入手困難アルバムだ。
先に紹介した1990年録音の"LIVE AT MAYBACK RECITAL HALL, VOLUME TEN"(JAZZ批評 840.)、2012年録音の"BEAUTIFUL LOVE"と"MY FUNNY VALENTINE"(JAZZ批評 836.)はいずれも素晴らしいアルバムだった。
BARRONにはデュオでも"PEOPLE TIME"のほかに"PEACE"(JAZZ批評 147.)やベースとのデュオ・アルバム"NIGHT AND THE CITY"(JAZZ批評 16.)という傑作がある。トリオ以上の編成でも、優れたアルバムは枚挙に暇がない。配慮が利いて、かゆいところに手が届くピアニストとして引っ張りだこになるのは当然と言えば当然だ。
本アルバムはBARRONが売れっ子になる前の録音であり、年も39歳と若かった。エモーションとテクニックのつづれ織りとでも表現したくなる素晴らしい演奏ということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2014.04.03)

試聴サイト : http://playalbums.net/kenny-barron/spiral/
          このサイトでは全曲、フルに試聴できる!



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