県立図書館と高知映画鑑賞会
高知県立図書館報「とさみずき」復刊第111号(通巻第330号)
('06. 1.31.)掲載[発行:高知県立図書館]


 蔵書スペースの乏しさのあまり、遂には視聴覚ライブラリーも移転させざるを得なくなった県立図書館は、市民図書館のように映画会を催したり、貸出ブースでの映画鑑賞サービスをしたりしているわけではありませんが、意外な形で映画との接点があります。でも、そのことはあまり知られていないのではないでしょうか。私が言いたいのは、むろん映画関係の書籍の話ではありません。
 ここには資料課という部署があって郷土資料の収集保存をし、利用サービス課では図書の貸出のみならず、郷土資料の利用サービスを提供していますが、かつて私が運営委員の一人として長年携わっていた高知映画鑑賞会に関する資料も、郷土資料として保存されているのです。高知映画鑑賞会は、2001年3月2日の第127回例会でイランのモフセン・マフマルバフ監督の作品『サイクリスト』と『ギャベ』の2本を上映し、"映画の世紀"と呼ばれることもある20世紀の終焉とともに、1977年からの活動の幕を閉じたのですが、解散に際して県立図書館から活動の記録を郷土資料として保存したいとの申し出がありました。今においてなお、自主上映活動の盛んな土地として全国的にも知られている高知なのですが、現在も映画興行とは異なる形での上映活動を続けている多くの人材が高知映画鑑賞会の活動のなかで育ってきていることを郷土の文化史的な観点から評価していただいたものだろうと勝手に私は思っています。
 今の高知のオフシアター上映(「映画館での興行上映」以外の映画上映のことです。)のなかで、最も重要なのは県立美術館の行っている映画事業ですが、それを担っているのは高知映画鑑賞会の運営委員だった人たちですし、県民文化ホールや美術館ホールで映画上映を続けているシネマサンライズやムービージャンキー、シネマLTG、高知シネマクラブ、中国映画をみる会も、すべて高知映画鑑賞会の運営委員だった人たちが中心になって活動しています。帯屋町商店街にミニシアターを作ろうとしている、こうちコミュニティシネマもそうです。
 県立図書館に資料として提供したものは、上映作品のチラシやポスター他さまざまなものがありますが、きちんと郷土資料として保存されることについて、運営委員の一人だった私が最も嬉しく思っているのは、上映会ごとに発行していた機関紙「ぱん・ふぉーかす」です。短くはない年月のなかで、運営委員のメンバーによって、時々の財政状況によって、あるいは編集長の個性によって、さまざまに姿を変えながら、ずっと発行されてきたものが保存されていて、それを見ると、当時の高知の映画状況が垣間見えたりもします。
 奇しくも高知映画鑑賞会が解散をした年の歳末に制定された文化芸術振興基本法では、映画の振興が初めて文化芸術として明確に位置づけられました。その後、公立文化施設や公民館を活用した上映機会の拡大を中心にした「鑑賞環境の改善」が十二の施策のひとつとして提言され、公共上映の意義と意味への問いかけが、シネコン論議とも並行して耳目を集めもしました。そのような流れを生み出すに至る日本の映画状況の一端を担っていた郷土の活動資料が2001年の時点で、県立図書館によって散逸せずに保存されたことは、大変意味のあることだったと思っています。
by ヤマ

'06. 1.31. 高知県立図書館報「とさみずき」



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