映画上映と国際交流
季刊誌「ウィンドウ」No18('98.Summer)掲載
[発行:(財) 高知県国際交流協会]


 高知アジア映画祭も今年で10年目を迎える。外国の文化・風俗・習慣・生活・価値観などを知るうえで、最も効果的な映画というものに着目し、日ごろ接する機会の少ないアジアの国々の映画をいくつかまとめて上映してきた。旅行者としてでは、現地を尋ねてもなかなか知ることのできない人間の姿や生活空間が、映画のなかには実に生き生きと描き出されている。ある国の映画を数多く、幅広く観ることは、出来合いのパックツアーで数日間旅するよりも、その国とそこに住む人々についての理解をよほど進めるのではないだろうか。
 そんな思いから私たちが紹介してきた映画は、高知アジア映画祭で上映したものだけでも、70本くらいになる。インド、インドネシア、ベトナム、タイ、マレイシア、フィリピン、シリア、ヨルダン、エジプト、トルコ、パレスチナ、バーレーン、イスラエル、イラン、タジキスタン、カザフスタン、中国、韓国、といった土地の映画を上映してきた。いずこの土地も一度も訪ねたことがないのだけれど、どことはなく親近感を覚える。それはちょうど、戦後しばらくの間の日本でアメリカ映画だけが氾濫していたとき、日本人にとって最も身近で関心のある国がアメリカだったことにも繋がっているように思う。
 国際交流などと大上段に構えなくても、映画を見て楽しむことならば寛いで気楽に始めることができそうだ。そして、それを続けていれば、知らないうちに話題の蓄積もできるというものだ。初めて会った人との間で困るのは、外国人であれ同邦人であれ、何と言っても話題なのだから、観たことのある映画の話や映画のなかに出てきていた事物習慣の話などの材料が準備できていると大いに気が楽になる。
 さて、今回の第10回高知アジア映画祭では、従来の秋の上映から7月に移したこともあって、ちょうど“返還一周年記念 香港特集!!”というテーマで三作品を上映した。いわゆる香港映画とは一味違った香港映画の特集だ。『チャイニーズ・ボックス』は、中国返還前夜の香港に妖しく光る恋物語のイギリス=ホンコン合作映画で、『キッチン』は、吉本ばなな原作、富田靖子/チャン・シウチョン主演のニッポン=ホンコン合作映画。そして、香港時代劇の新生決定版『ブレード/刀』の三本立て。
 一年前には熱に浮かされたように香港返還と騒ぎ立てたマスコミも今年はほとんど触れもしない。あの大騒ぎはいったい何だったんだろう。国際理解や国際交流を深めるというのは、大挙して押し掛け一時的なお祭り騒ぎをすることとはむしろ反対に、現地を訪れることはできなくても持続する関心と敬意を払って、その国に住む人々や彼らの社会、文化を見つめることから始まるのだと思う。そう多くのお客さんには恵まれなかったが、細々と続けている私たちのアジア映画祭が、そういう関心の持続に少しでも役立っていけば、これに優る意義と喜びはないと思っている。
by ヤマ

'98.Summer 季刊誌「ウィンドウ」No18



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