江戸川乱歩の美女シリーズ(22話~25話)
テレビ朝日系「土曜ワイド劇場」

第22作『禁断の実の美女』['82] 監督 貞永方久
第23作『炎の中の美女』['82] 監督 村川透
第24作『妖しい傷あとの美女』['83] 監督 永野靖忠
第25作『黒真珠の美女』['83] 監督 貞永方久
 第22作禁断の実の美女は脚本が山下六合雄との共同になっていたが、さすがはジェームス三木だと思った。原作の『人間椅子』は流石に読んでいるのだが、こうして連続殺人事件ものに仕立て上げるのか、と感心した。明智をも魅了する小説を書く北見佳子(萬田久子)との互いに一目置く関係がよく、原作には登場しない明智小五郎(天知茂)が、特異な嗜好を持つところの黒川(レオナルド熊)のような男は絶対にそんなことはしないという確信から佳子の嘘を見破ったという運びに膝を打ち、しっかりとマネキン人形を登場させていたことにほくそ笑んだ。泣いて取り縋る嘘臭さなどに嘘を観るより遥かに気が利いている。
 例によって、萬田久子にシャワーシーンと濡れ場が設えられていたが、いずれもボディダブルを巧みに使った撮影だったなか、佳子の未発表作『ダイヤモンドは禁断の実』を盗み読んだ秘書の根岸咲子を演じていた森田理恵のシーンが目を惹いた。眼鏡っ子ぶりも好かったが、眼鏡を外し、シャワーを浴びている裸身のボリューム感のある美しさにも観惚れた。
 また、この運びで明智はいったい誰に変装するのだろうかと訝しんでいたところ、成程この手があったかと納得した。かの『人間椅子』をこう潤色するのかと、思いのほか面白かった。

 第23作炎の中の美女の原作『三角館の恐怖』は、例によって未読。炎の中の美女たる鳩野桂子(早乙女愛)の義従姉の鳥居靖子を演じた朝比奈順子がヌード要員ではなかったことに意表を突かれる作品だったが、最後に明智が火炎瓶ネタに寄せて、凶悪犯荒熊こと荒井熊次郎(織本順吉)について鳩野伸夫(ジョニー大倉)に説くそれが父親というものだとの台詞が好く、納得の作品だった。伸夫の動機にしても哀れな男心が浮き彫りにされており、得心したが、果たして原作小説を踏襲したものだったのだろうか。
 相変わらずというか、四十年前から屑男役が似合っている萩原流行【鳥居竜雄】に笑った。お約束の美女の入浴シーンがシャワーでも入浴でもなく、ランジェリー姿のグラビア撮影だったのは一つの趣向だったのだろう。

 第24作妖しい傷あとの美女は、十四年前に観た加藤泰による江戸川乱歩の陰獣'77]で香山美子が演じていた小山田静子を佳那晃子が演じていたが、彼女の露出はまるでなく、原作小説に彼女のうなじには、おそらく背中のほうまで深く、赤あざのようなみみずばれができていたのだ春陽文庫P7)と綴られた部分を覗かせていただけだった。ヌードは加藤版でのヘレン(原作小説では不在)に当たる小山田の秘書(親王塚貴子)が担っていたが、それよりも、当時の新宿歌舞伎町の風俗街が映るところに目を奪われた。
 テレフォン喫茶やら覗き部屋、アダルトグッズ販売店舗など、今はもう残っていないであろう店構えや電飾看板が目を惹いた。明智の助手である文代が高見千佳から藤吉久美子に替わり、'85年を迎えるとともに、明智事務所の壁に貼ってある「節煙」も「禁煙」に替えられてしまっていた。
 また、さして本格的なSMプレイの場面が登場していたわけでもないのに、エンドロールのクレジットに【技術指導:志摩紫光】とあるのが、ふと目に留まった。プレイよりも平田(中尾彬)のショップに揃えてあったSMグッズの監修のほうなのだろう。しっかりとマネキンが出て来たところには、本シリーズの要点をきちんと押さえている感じを受けて好感を覚えた。
 趣向的に目を惹いたのは、明智のキスシーンとカースタント場面が設えられていることだった。これは今までには観られなかったシーンだと思う。殺人事件の殺害方法を小説にして明智を挑発する作家の配し方に、第22話に通じる趣向を感じたが、その新進ミステリー作家のペンネームが大江春彦だったのが可笑しかった。原作小説に登場する大江春泥と角川による映画化の成功で当時大人気だった大藪春彦を合わせた名前だったからだ。しかも、その正体にひと工夫が凝らしてあり、そこが第22話を想起させるところが洒落ていたような気がする。デビュー作が「屋根裏の遊戯」、第二作が「妖しい傷あと」となっていた。脚本は、初登場の池田雄一だ。

 天知茂版のシリーズ最終作黒真珠の美女の原作は、かの『心理試験』であった。十九年前に春陽文庫で読んだとき大正十四年当時だと「もう六十に近い老婆」(P3)ってことになってたんだなーと感心した作品だ。潤色の仕方がなかなか面白かった。シャガールと思しき絵に観入る「黒い真珠の耳飾りの女」たる蕗屋裕子(岡江久美子)など原作小説には登場しないし、奇しくも先ごろ四国らしんばん【シコクディグReal or Fake? 贋作師からの問いで観たばかりの贋作絵画の話になっていることに意表を突かれた。
NHK総合 録画で、四国らしんばん【シコクディグReal or Fake? 贋作師からの問い】を視聴した。 三十年前に上梓した拙著のなかで、贋作ではないけれども「画集の絵と本物の絵」や「ブラウン管とスクリーンの違い」「同じで違う絵画と映画」といった項を設けて、芸術における本物偽物について語ったこともあるばかりか、最も焦点の当たっていたカンペンドンクの【少女と白鳥】とされる作品を所蔵する高知県立美術館に開館当時勤めていて、贋作師ベルトラッキと並んで、本番組のメインキャラクターのようにして登場していた奥野学芸課長とは旧知の間柄だから、ことのほか興味深く観た。 地方局の制作とは思えないほど、製作費も手間も掛けた観応えのある内容に感心。海外取材もベルトラッキ氏本人だけに留まらない多彩さで、さすがNHKだった。スタジオゲストの画家 中島健太の見識豊かで力のある言葉にも感心。何らかの賞を得る番組になるのではないだろうか。
 原作小説で先天的の悪人だったのかもしれないP2)とされていた大学生の蕗屋清一郎を新進のうら若き画商に置き換えていたのは、裕子を演じた岡江久美子の知的美人のイメージからのものだろうという気がした。五年前にコロナ禍で亡くなった岡江久美子の三十路前の美しさに見惚れ、お約束のシャワーシーンになったときにはボディダブルに違いないと思ったが、そのまま首から上にまでカメラが揚がっていったので瞠目したら、絵画コレクター徳田礼次郎(高橋昌也)の家政婦(東千晃)だったので、拍子抜けした。
 その一方で原作小説の心理試験なる肝心ネタの二枚折りの時代のついた金びょうぶで、極彩色の六歌仙が描かれていた…P9)はきちんと踏襲されており、そのうえで富者が隠していたものをカネではなく、あろうことかゴッホの本物に替えていたことにすっかり感心してしまった。真珠の黒に喪の心理を読み取る心理試験は少々取って付けた感じだったが、安田火災海上がゴッホの『ひまわり』をクリスティーズで高額落札するのは、本作から二年後のことだから、すっかり驚いた。同社がゴッホを落札したのは、よもや本作に刺激されてのことではなかろうが、今は昔のバブル期ニッポンの華々しさが自ずと窺える画廊業界であったように思う。脚本は、第22話にて『人間椅子』をジェームス三木と共同で巧みに潤色していた山下六合雄。
 それはそうと、青酸化合物を混ぜた塗料でボディペインティングしたら本当に死に至ったりするのだろうか。礼二郎の娘(代日芽子)のヌード・ダンスの場面を作るためだけの苦肉の策のような気がしてならなかった。
by ヤマ

'25. 2.21~3.1. BS松竹東急録画



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