『ドアーズ』(The Doors)['91]
監督 オリヴァー・ストーン

 先ごろ観たばかりの名もなき者/A COMPLETE UNKNOWNの公開を見越して放映されたと思しき、名のみぞ知る三十四年前の映画を観た。

 かのハートに火をつけて(Light My Fire)地獄の黙示録['79]でのThe Endを知るくらいで、ディラン同様に然したる思い入れもないドアーズやジム・モリソンだったが、陰鬱なモノローグで始まったタイトルクレジットを観ながら、メグ・ライアンが出ていたのかと驚いていたら、イン・ザ・カット['03]に十二年先駆けてバストトップを覗かせていて吃驚した。

 ドアーズというバンド名は「知覚の扉」から来ていたようだが、大学で専攻していた映画を止めてバンドで成功したジム・モリソン(ヴァル・キルマー)には、そのタブーを犯す反逆スタイルが上手く時流に乗って成功しただけで、その成功に増長して破綻していった愚かさは感じても、知性はあまり感じられず、専ら痴性だったような気がしてならなかった。悪魔学に関心の強いパトリシア(キャスリン・クインラン)との結婚以前からの恋人であるパムことパメラ・カーソン(メグ・ライアン)の指摘どおり、成功による堕落として描かれていたような気がする。

 『名もなき者』で映画の最後を締めていたニューポート・フォーク・フェスティバルの開かれた1965年から音楽活動を始めて、まさにディランと同様に駆け上がり、ディランと違って1971年にオーバードーズとアルコール依存によって心臓発作を起こして、バスタブで僅か二十七歳で死亡したようだ。時流に翻弄された生涯のように感じられたが、最も哀れなのは、三年後に後を追ったとのテロップが映し出されたパムだった気がする。

 聞くところによれば、ジム・モリソンはフランシス・F・コッポラと大学同期だったらしい。すると、彼のゴッドファーザー['72]を観る前に死んだことになるわけだ。コッポラが『地獄の黙示録』で♪The End♪を印象深く使っていたのには、そのあたりの事情が作用していたのかもしれない。本作の劇中で映し出されていた映画が、実際にジムの製作した作品だったかどうかは判らないが、かなり尖がっていたように思う。映画では、その作を観た学友のなかからゴダールの名も出て来ていたような気がする。
by ヤマ

'25. 3.30. BS松竹東急土曜ゴールデンシアター録画



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