『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(吹替版)』
 (The Super Mario Bros. Movie)
監督 アーロン・ホーヴァス&マイケル・ジェレニック

 久しぶりにフルCGアニメーションを観た気がするが、凄いことになっているのだと驚いた。格別のゲーム愛好者ではない僕でも覚えのあるキャラクターやアイテムを巧みに繰り出す空間構成が素晴らしく、ゲーム画面で見覚えのある世界が様変わりして現れ、カメラと言うべきではないのだろうが、画面の動きに圧倒された。また、吹替版の台本がヨーロッパ企画の上田誠とクレジットされていたことが目を惹いた。

 クッパ【声:三宅健太】は、やはりマリオ世界最強のキャラだと改めて思った。ラ・ラ・ランドばりのピアノ演奏を嗜む設定にしてあるところに感心した。ピーチ姫【声:志田有彩】に、いかにも今どき映画らしいキャラクター造形が施されながら、程の良さがあって気に入った。Holding out for a Heroが流れるなか、プリンセスがマリオ【声:宮野真守】を鍛える場面が、なかなか好かったように思う。あからさまに己が力を誇示するクッパの思い上がった“これ見よがしの強さ”ではなく、何度失敗しても挫けないマリオの諦めの悪い“心の強さ”のほうに惹かれていることが明示され、アイテムなど何らかの助けを得て、工夫を凝らしつつも小賢しさの欠片もない体当たりでぶつかっていく姿のほうが、最初から秀でて他を圧倒する力なんぞよりも数段値打ちがあることを描いていた気がする。

 SNSでは、映友から『TAR/ター』より上の星取!と驚かれたが、いろいろ触発してはくれながらも、何だかなぁとのあざとさが気に障り、収まりの悪かったTAR/ターと、率直に「凄ぇ~」と思わせてくれて、気持ちよく観終えた本作との差なのだろうと改めて思った。同じようにゲームを扱っても、こちらは至って素直で、後味が好い。ゲーム好きが観ると、僕以上に愉しめるのではなかろうか。

 その『TAR/ター』については、別の映友から多くの映画好きが様々な持論を展開している訳で、答えはそれぞれ観客の中にあると、作り手はそれを狙っていたのかも知れません。公開された時の観客の反応もこんな感じだったのかもということで引き合いに出された2001年宇宙の旅の提起が興味深かった。公開時の観客の反応についての指摘に大いに頷きながらも、映画作品そのものについては、大きな違いを感じたからだ。

 キューブリックの同作には、観る側に対する意識が殆どないというか、換言すれば観客など眼中になく、自分の創り上げたい映画世界への没頭感が伝わって来たことに比べて、『TAR/ター』は、どこを取っても何かやたらと観客を意識した映画造りというか、狙ってる感が強すぎて妙にあざとく感じられ、収まりが悪いように思った。なかなか刺激的で面白くはあったが、そういう思惑塗れのような点が気に障り、なんだかなぁとの思いが残ったわけだ。

 その“観客を意識した映画づくり”という点では、本作もまた『TAR/ター』以上に、その最たるものを感じるのだが、意識するならこういう形で臨んでもらいたいものだと思う。両者の何よりも大きな違いは、観客を愉しませようとするフラット目線と、観客を試し撹乱することで己が位置取りを図るマウント目線のような気がする。
by ヤマ

'23. 5.21. TOHOシネマズ7



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