『シン・仮面ライダー』
監督・脚本 庵野秀明

 七年前に観たシン・ゴジラが面白かったものの、去年観た『シン・ウルトラマン』がさっぱりだったことから見送り気分だったのだが、先ごろNHK衛星放送で本作の番宣とも言うべきドキュメント「シン・仮面ライダー」~ヒーローアクション挑戦の舞台裏を観てしまったら思いのほか面白く、庵野監督と田渕アクション監督の格闘結果がどうなっているのか、池松壮亮と森山未來の奮闘がどう実を結んでいるのか、確かめてみたくなって観に行った。

 すると、アクション映画の醍醐味とは真逆のオタク的能書き台詞全開のドラマが繰り広げられ、呆気に取られた。だが、このほうが如何にも庵野版という気がして可笑しい。蜘蛛怪人が『スパイダーマン』的苦悩を語っていたことに笑った。怪人は、クモ、コウモリ、サソリ、ハチ、カマキリカメレオン、蝶と現れたが、やはり長澤まさみによるサソリの女が一番だったように思う。それなのに最も出番が少なく、格闘もなくて残念だった。

 それにしても、オーソドックスに怪人とは言わないで「オーグ」としていたオーグという言葉の出所は何なのだろう。魂と言わずに「プラーナ」、地獄と言わずに「ハビタット」と称していたのと同様に、如何にもながら食傷感ありだった。というか、言葉遣い全般について何だか無理に今様を装っている感じがしたのと、ショッカー戦闘員の「イーッ!」が出てこないと仮面ライダーという気がしてこないのも残念だった。だが、聞くところによると、最初の戦闘員は「イーッ!」とは言ってないのだそうだ。今回の映画版は、かなり初期の仮面ライダーのテイストを持ち込んいて、カメラワークやカッティングなど、ところどころ意識的に模倣していたとのこと。確かに、例のライダーベルトの回転するカットや無造作にも程のある場面転換とか、あちこちにそれはあったような気がする。

 そのうえで、世界征服どころか内輪の愛憎劇のような話にしていた点は、単なる装いとは異なる、まさに庵野的今様として映って来たように思う。また、殺し合いというよりも試合ないしはサムライ的な立ち合いにしていたことが目を惹いた。そして、爆発せずに泡と消える儚さは悪くない気がした。ただ、戦闘アクション場面にしても音楽にしても、やたらとガチャガチャしていて小煩く感じられた。キャラクター造形的には悩める本郷猛(池松壮亮)よりも潔い一文字隼人(柄本佑)のほうがかっこよく感じられ、思えば、少年時代のオリジナル放映時も、佐々木剛による仮面ライダー2号のほうを好んでいたことを思い出した。

 NHKの番組を観て臨んだ所期の思いは、まんまとはぐらかされたのだが、宣伝の総監修にもクレジットされていた庵野秀明の言ったでしょ。私は用意周到なの。にすっかりやられてしまった。『シン・ウルトラマン』のようにさっぱりではなくてよかった。十代のときに放映されたTV視聴のあと、全く再見していないし、特に仮面ライダーに入れ込んでいたわけでもないから、記憶に怪しいところがたくさんあるのだが、それでも同時代で観ていてゼロではないものだから、いろいろ思いは湧いてきた。

 すると、高校の新聞部の四歳ほど年嵩の先輩からライダー1号の藤岡弘のころのライダーガールは、真樹千恵子と島田陽子で、レベルが高かったですね。真樹千恵子はすぐにいなくなってさみしかったのですが、島田陽子はしばらくいましたね。ショッカーの怪人や戦闘員に追いかけられて、ミニスカでパンツちらちらさせてにげまわっていましたが、可愛かったですよ。との声も寄せられた。さすが高校生当時の目の付け所だと感心させられつつ、当時のものを観直してみたくなるではないかと笑ってしまった。
by ヤマ

'23. 4.25. TOHOシネマズ1



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