『天使のはらわた 名美』['79]
『愛の解体新書』(Le Sentiment De La Chair)['10]
監督 田中登
監督 ロベルト・ガルゼッリ

 いわゆる“レイプ願望”を描いていたたそがれの情事['72]とは対照的に、強姦が引き起こす無惨を容赦なく描いている作品だった。商売ネタに徹底追跡レポート!強姦・その後と題する連載記事を女性誌に掲載するための取材を行う土屋名美(鹿沼えり)を軸に、メディアによるセカンドレイプに言及しているところが目を惹いたが、強姦された妻がその後に強姦犯人と駆け落ちしたことで人生を狂わせることになった元一流出版会社のエリート社員の村木(地井武男)に陰影が乏しく、名美の雑誌記者としての思い上がりと無神経さが何とも堪らなかった。

 僕が観ている「天使のはらわた」シリーズは、'82年と'06年の二度程観ている“赤い教室”と'02年にVTR視聴した赤い淫画だけのように思うが、本作のタイトルバックにも使われていた石井隆による原作劇画は、当時、ある程度読んでいたような覚えがある。それらにおいて、同じ名美という名前で様々な女性が登場したけれども、脚本が原作者自身なのに本作の名美には、何とも違和感が付きまとった。

 画面に現れた強姦場面はいずれも陰惨なものだったが、とりわけ酷かったのがYさん(水島美奈子)の場合だったように思う。名美が言葉巧みに彼女を口説き、想像はできても想像がつかないと思うわと言いつつも取材に応じた彼女を踏みにじって、乳母車を押す写真を掲載して憤激させ、職場に乗り込まれての刃傷沙汰になっても居直る傲岸さだった。ファッションモデルU(林りえ)の場合を取材中に、出所して恐喝を繰り返している強姦犯から脅され凌辱されている現場に居合わせ、身を竦ませつつ覗き見をして唾を吐きかけられている姿が象徴的だったように思う。

 看護婦(青山恭子)の場合は、もはや強姦というよりも猟奇事件と化しており、いささか遣り過ぎという気がした。彼女の見舞われた「その後」も凄惨極まりないものの、些か安いホラー映画に向うことで作品の調子を損なっていた気がするし、彼女に襲われた後の名美の顛末にも頭を抱えた。ただマトリックスを先取りしたような雫の垂れ流れ落ちるショットが少々目を惹いた。

 また、オープニングタイトル後の冒頭に現れた相撲を取るかのような体勢で向かい合った男女の裸像の噴水は、学生時分に高田馬場の駅のホームからよく見かけていたもので、そうだなぁ、当時はこんなものがあったっけなぁと失笑し、名美の吸うセブンスターが当時の僕の愛好していた煙草であり、八神純子の歌う♪水色の雨♪も♪想い出のスクリーン♪共々愛聴していた楽曲だったことを懐かしく思い出した。そして、蘭(山口美也子)が「生板乱舞」の垂れ幕と共に演じていたような、いわゆる白黒ショーが当時のストリップ小屋の出し物にあったことを思い出した。

 それにしても、鹿沼えりが僕の記憶にある印象と違って、顔つきがめっぽう柔らかくて驚いた。少々きつい顔つきのイメージが残っていたのは何故なのか思い出せない。


 本作視聴後、ネット連鎖からフランス映画の劇場未公開作『愛の解体新書』を観たら、猟奇事件と上述した臓器フェチへと亢進していく妄執に囚われる男女の性愛を描いた作品で、その奇遇に吃驚した。相手の全てを隅々まで知りたい、見せたいという欲求が、医療という人体を探求する分野に熱意を抱いていたベノワ教授(ティボー・ヴァンソン)と医学生ヘレナ(アナベル・エトマン)の間で過激に展開していて、流石に呆気に取られた。

 肉体の隅々まで弄り合うのはセックスの領域として何の違和感もないけれども、相手の身体の見えない部分への強い関心と執着が、観るにしても見せるにしても下着の内側に留まらずレントゲン写真からMRI造影に進展し、遂には腹腔鏡から開腹に至るラストには畏れ入った。口の中は菌だらけと言っていた医師が腹から流れ出る血を陶然と啜っていては最早どういったところで、愛の領域とは言えず、原題タイトルの文字通り“肉欲”でしかない気がした。

 印象深かったのは、ベノワが自身の内に眠らせていた人体フェチをヘレナによって開発されていく過程において、己が脳裏に浮かんだ腹腔鏡の件を見透かすようにヘレナが盗品調達してきたことに怯み、彼女を遠ざけようとしていたことだった。初期の発展段階において臆病に駆られるのは、得てして施す側であるというのは、ひと頃「サービスのS・満足のM」などと喧伝されてトレンド化した観さえあり、団鬼六の『花と蛇』をモチーフにした映画化作品に各世代に渡る女性客が少なからず訪れていて驚き二十年前に言及した、SMプレイにも通じるところのあるもののような気がした。人なるものにおけるタブーやマージナルの持つ威力と怖さを垣間見せていたようには思う。
by ヤマ

'23. 1.21,22. GYAO!配信動画



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>