『プライベート・ウォー』(A Private War)['18]
『奇跡の2000マイル』(Tracks)['13]
監督 マシュー・ハイネマン
監督 ジョン・カラン

 僕と同じ'50年代生まれで、同時代を生きながら、僕の全く知らない世界をワイルドに生きた実在の女性ふたりを描いた映画を続けて観た。手元にあるチラシの表に記された惹句は、『プライベート・ウォー』が挑む女は美しいで『奇跡の2000マイル』が一歩踏み出せば、世界はもっと輝く。となっている。

 先に観た『プライベート・ウォー』は、シャーリーズ・セロンが製作に参加した本作の予告編を公開当時に観るまで、隻眼の女性戦場ジャーナリストのメリー・コルヴィン(ロザムンド・パイク)のことは、その名も知らずにいて気になっていた作品だが、なかなか凄まじい五十六年の生涯だった。エンドクレジットによれば、1956-2012だったから、僕の二歳上となる。1986年から戦場取材を始めたとのことだったから、三十歳のときだ。

 画面に映し出されるのは、内戦中のスリランカで被弾して片目を失う2001年からで、2003年のイラクのファルージャ、2009年のアフガニスタンのマルジャ、独裁者カダフィ大佐が殺害される2011年のリビア、そして、メリーが独裁者アサド政権の砲撃によって死亡する2012年のシリアでの様子が描き出されてオープニングシーンに還って行った後、冒頭でのメリーによる言葉をメリー・コルヴィン自身が語っている記録映像が現われ、劇中のメリーとよく似ていて驚いた。

 それにしても、内戦中のカダフィ大佐に果敢なインタビューを仕掛けて、カダフィからライス国務長官よりも面白いと言われ、アサド政権の反政府運動への苛烈な攻撃を現地から告発して2012年に殉職したジャーナリストのことを知る機会を失していたのが何故だったのかを思うと、何だか考えさせられた。ブリティッシュ・プレス・アワードの優秀外国人記者に選出された際の祝辞のなかで、既に「生ける伝説」とまで言われていたにも関わらず全く知らなかった。

 戦場後遺症と思しき心身の不調に見舞われ、入院療養もしていたようなのにまた戦場に戻って行かずにはいられない姿に、ジャーナリストとしての使命感以上に戦場依存のようなものを感じさせるとともに、四半世紀前に観たウェルカム・トゥ・サラエボ['97]や、『ハート・ロッカー』['08]、アメリカン・スナイパー['14]などを想起させるところがあったように思う。

 メリー自身の言葉ではないが、彼女が劇中で引用していたマーサ・ゲルホーンの本『戦争の顔』['59]の政府は戦争を恐れない。なぜなら彼らは民間人のように負傷をせず、死なない。という台詞が印象深く残っている。聞くところによると四年前にシネスイッチ銀座で観た秀作の『バハールの涙』['18]に登場した女性ジャーナリストのマチルド(エマニュエル・ベルコ)のモデルが、本作のメリー・コルヴィンとマーサ・ゲルホーンだったらしい。


 翌日に観た『奇跡の2000マイル』では、メリー・コルヴィンは凄まじかったが、本作のロビン・デヴィッドソン(ミア・ワシコウスカ)も凄いものだと吃驚した。

 今どきの映画と違って、最初に実話に基づくなどとはクレジットされなかったが、劇性の削がれた破格の非日常性に彩られた運びに、これはロビンという実在女性がモデルになっているに違いないと途中から思い始めるような造りの映画だった。

 映画としては、ずっと古い美しき冒険旅行(WALKABOUT)['71]のほうが面白かったように思うが、1975年に豪州中央部のアリス・スプリングスに赴き、牧場に住み込んでラクダの飼育を学んだ後、1977年に西端のカナーボンまで2,700kmの二百日の旅をラクダと犬を連れて続けたロビンは、同作を観ていたのではないかという気がした。どこへ行っても居場所のない者がいる。この旅に出るまで私もそうだった。と述べているだけで、冒険旅行の動機について、やりたかったから以外の理由が語られなかった分、却ってそのような気がしたのだった。

 ロビンの冒険旅行のスポンサーとなったナショナル・ジオグラフィック誌のカメラマンであるリック・スモーラン(アダム・ドライヴァー)が当時、実際に撮って掲載したものと思しき写真の数々が最後に映し出されたが、ロビンのなかなかの美人ぶりに驚いた。偶然と言ってしまえばそれまでだが、'70年代に二十代で凄い冒険旅行をしたロビンも、'80年代に三十路に入って戦場取材を始めたメリー・コルヴィンも、ともに'50年代生まれの女性だったことが目に留まった。セックスへの臨み方も二人揃ってなかなかワイルドだったように思う。
by ヤマ

'23. 7.24. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画
'23. 7.25. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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