ジョン・フォード騎兵隊三部作['48,'49,'50]
監督 ジョン・フォード

 言わずと知れた『アパッチ砦』『黄色いリボン』『リオ・グランデ砦』の三作品だが、高校時分の映画部長が主宰する“青春プレイバック”と題する合評会の課題作として取り上げられたことで続けざまに再見してみたところ、思わぬことに気づいた。個々それぞれに観ていたときには、確かに画面は充実しているけれども、西部劇としては、さほどパッとしないように感じていたのだが、三作品まとめて観ると、本作は西部劇というよりも、まさしく軍隊映画なのだと思った。

 最初に撮られたアパッチ砦は、現場経験と慧眼を備えたカービー・ヨーク大尉(ジョン・ウェイン)が、無能な上官の赴任によって難儀する物語であり、続く黄色いリボンでは、「謝るな、弱さの表れだ!」が口癖の騎兵隊士官ネイサン・ブリトル大尉(ジョン・ウェイン)が中佐として再任用される退役間近の軍人の悲喜こもごもを描いて、リオ・グランデ砦には、軍人と家庭人の間で引き裂かれ、壊していた家族関係を再生させるカービー・ヨーク中佐(ジョン・ウェイン)の姿があった。言うなれば、ある種、軍人に普遍的な三相を描いた物語だったなと感じたわけだ。そして、それぞれに従軍経験もあるフォードならではのものが投影されているような気がした。

 三作続けて観たことでとりわけ目を惹いたのは『アパッチ砦』で、分の悪い役回りを負わされていた指揮官オーエン・サースデイ中佐(ヘンリー・フォンダ)が、左遷されて辺境のアパッチ砦の司令官を任じられたことに憤慨し、失地挽回を期した手柄を焦り、独り善がりで依怙地な指揮によって連隊に大きな損失を与えたにもかかわらず、その戦死に対して払われている敬意に些かも皮肉めいたところがなかった点だ。ある意味それは、ベトナム戦争・公民権運動以前の時代の西部劇において定番の悪役だったインディアンの描き方にも通じていて、タチが悪いのは軍人よりも、政府に取り入って利権を得て部族を蝕む悪徳商人だという抗議をアパッチの族長コチーズにさせているばかりか、和平交渉を提案してきたヨーク大尉に応じつつ、彼の意を汲まずに反故にして不意打ちしようとする司令官の思惑をも予見して備える練達を寡黙にして堂々たる姿として描いていた。

 未熟な司令官にも敵方の練達の先住民族長にも等しく敬意を払って描いているところに、等しく最前線に立って命を賭して戦ってきた男たちに向ける眼差しがあったような気がする。それは、もしかすると先の大戦において戦死した双方の兵士や士官たちに向けられたものだったのかもしれないと思ったとき、山形国際ドキュメンタリー映画祭'91で観た『December 7thなどを海兵隊士官として撮っていたジョン・フォードの戦場経験が反映されているように感じた。

 また、三作ともにその名が登場するクインキャノン軍曹の存在に端的に感じられるように下士官への目配りが利いているようにも感じる。腕っぷしの強さと気っ風の良さを尊び、分をわきまえた果敢さこそが軍曹や曹長の値打ちだったような気がする。そして、画面での主役は、まさしく馬に他ならないと改めて思った。後の時代のカーアクションを売りにした映画のように、騎馬アクションとも言うべきシーンに力があって美しいことに、改めて感心させられたと『アパッチ砦』の映画日誌に記した部分は、三作ともに通じていたように思う。
by ヤマ

'23. 2.13,14. BSプレミアム録画



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