『えびボクサー』(Crust)['02]
監督・脚本 マーク・ロック

 フェイスブックで、つげ義春の『必殺するめ固め』の話になって思い出し、先輩映友からの宿題ディスクを観たら、意外にも「“全くのおバカ映画”として撮っている作品ではない」ことが明白で、思い掛けなくも奇妙な味わいがあった。その点では、もしかすると、未読の「必殺するめ固め」と奇しくも重なるところがあるのかもしれないなどと思った。さりとて、シュールを特段に意識しているようでもない、ヘンな映画だ。

 脚本・監督を担ったマーク・ロックは、何を考えて本作を撮ったのだろうと思うと、TV局に巨大エビとの格闘ショーの企画を売り込むビル(ケヴィン・マクナリー)たちの姿に、「えびボクサー」の映画化を売り込んで難儀したであろうマークのことが浮かんだ。ミスターC(えびボクサーの呼称)ほどのパワーではないにしても、そこそこパンチ力もあってヒットしたようなので、こういう映画を撮った後、どのような作品を手掛けているだろうと興味を覚えて調べてみた。すると、どうやら本作一本で終わっているようで、まさか海に帰ったりしているのではなかろうが、少々驚いた。同年の東京原発['02]を撮った日本の山川元監督に以降の作品が途絶えているのは、実に残念なことながら、分らなくもない面があるけれど、本作はそういうこととは無縁だと思われるのに、何故なのだろう。

 映画を観ていて、いちばん僕が可笑しかったのは、ビルの相棒である芽が出ないままのボクサー、スティーブ(ペリー・フィッツパトリック)の恋人シャズ(ルイーズ・マーデンボロー)に篭絡されたTV局の男から得た情報によって、女性プロデューサーの私宅にミスターCを見せに行ったものの怖気づいて二人ともが身を隠し、いきなり巨大エビだけに対面させて彼女が卒倒した場面だった。慌てたスティーブの施した人工呼吸が滑稽で、「そりゃフレンチ・キスだ!」とビルが呆気に取られていて笑ってしまった。スティーブは何かにつけて、性的技巧に未熟であることが小ネタとして挟まれてきていただけに、その可笑しさが増していたように思う。

 それにしても、幾度か繰り返された挙句、最後の締めにも登場した「バーのツマミは人の尿で汚れている」というのは、どうやらお気に入りのフレーズのようだが、その心はいったい何だったのだろう。ともあれ、シャズのみならず、スティーブにもビルにも、それぞれ何らかの形で原題の意味する「殻」を破って、きちんとブレイクスルーの訪れているエンディングが、常套ながらも好もしく映ってくる出来栄えだったように思う。洗練とは真逆にあるスタイルにおける、いかにも英国映画風味と言えるものが宿っている作品だった気がする。
by ヤマ

'20. 5.27. DVD観賞



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