『ニュースの真相』(Truth)
監督 ジェームズ・ヴァンダービルト

 二十年前に観たウワサの真相は、まさしくフェイクニュースの映画だったが、本作は、ニュースのフェイクが問われた実際の事件を描いた作品だった。

 ダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)は、この業界では本当に特別な存在なのだなと思いながら観ていると、エンドロールに原作者がメアリー・メイプス(ケイト・ブランシェット)と出て、タイトルが『Truth And Duty』だとクレジットされた。どうして映画のタイトルを『Truth』だけにしたのだろう。本作を観ていて僕に響いてきたのは、むしろ“Duty”のほうだったのに、などと思った。

 最後に弁護士が「僕はあなたを信じる」と語っていたように、内部調査委員会でのメアリーの態度と弁舌は実に見事だった。最も重要なのはブッシュの軍歴詐称の真偽なのに、そこには立ち入らずにキリアン文書の真偽のみに論点が矮小化され、主旨が見失われているとの主張も、文書が模造品だったにしても当時の状況把握を的確にしたうえで、これだけのものを拵えることができる者の言い分には高い信用性があるとの指摘も、出来レースのために組まれた調査委員会のメンバーの質問より、遥かに説得力があった。メアリーを演じたケイトの強い視線に宿っていた意志の力が印象深い。

 メアリーのあの強さを引き出したのは、番組への攻撃が始まったことで情報源を秘匿しきれなくなり、当初の約束を違えて情報提供者への直接取材をしたなかで、その妻からメアリー達に向けられた痛烈な非難が正鵠を射ていたことと、メアリーが他の誰に対してよりも屈したくなかったであろう父親に哀願する屈辱を味わったことに対して夫が「君はまだ闘えるはずだ、闘わなければいけない」と鼓舞してくれたことにあるように感じさせてくれる造りが気に入った。

 義父による中傷をTV視聴して「止めろ!腕をへし折るぞ」と電話していた夫の内助の功あってのメアリーの仕事ぶりであることや彼女の仕事のやや性急で強引な側面というものも包み隠さず描出していた点に好感を抱いた。とりわけ、キリアン文書の提供者【ビル・バーケット中佐】の妻から体調不良の夫に何度も何度も「嘘を言った」と繰り返させて侮辱していたのに、その体調を気遣うようなことを言うなと非難され、実際のところは、彼が嘘を言ったのではなくて訊かれなかったから言わなかっただけのことをそう言わせるインタビューを撮ることの目的が放送局の社命であり保身対応であることを露にしていた点に感心した。

 本来、提供者に本物かどうかを問うて真偽を確認するようなものではそもそもない。提供者に問うのではなく、裏を取るなり専門家に鑑定させて判断すべきもので、実際、メアリーたちはそうしていた。性急すぎて詰めが甘かった部分はあるのかもしれないが、当時の関係者の証言まで得られていたのなら、突っ走ってしまうのも止むない気がした。それと同時に、ひとたび文書そのものの真偽が疑われだすと「自分は嵌められたのかも」との疑念に見舞われ、いとも簡単に証言が翻されるのも、いかにもありそうなことに思え、物証の重要さを改めて知らされたようにも感じた。

 特大スクープという点では、タイトルをSCOOP!としているのが恥ずかしくなるような邦画と違って、スポットライト 世紀のスクープにも匹敵するものだと思うが、映画作品としては、同時代性のメディアとして今を衝く力において、よりインパクトがあったのは、本作のほうだと思う。我が国での、自殺者も出したらしい「偽メール事件」のことや今まさに渦中の森友学園事件のことを思わずにいられなかった。
 
by ヤマ

'17. 3.17. 美術館ホール



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