『フォート・サガン』(Fort Saganne)
監督 アラン・コルノー


 思ったほどに面白くなかった。何故だろう。大きくもなるはずのスケールがそうならなかったのは、ひとえに主人公サガンの人物的魅力を画面がほとんど描き得ていないからだ。一介の農民出身の軍人が美男で勇敢な英雄として名声を得ていく過程は語られているのに、僕には英雄として映ってこなかった。それは充分な説得力を持つだけの描写を伴った展開が欠如していることにもよるが、加えて英雄には欠くことのできない伝説的な部分が彼にはないことにもよる。ジェラール・ドパルデューにはそういう雰囲気がない。あちらのほうでは彼は評価の高い役者らしいが、僕には彼のよさが全く解らない。『終電車』を観たときも『1900年』『隣の女』を観たときも…。彼に比べれば、長らく芸がないと言われてきたらしいカトリーヌ・ドヌーヴのほうが遙かに優れている。彼女の演じる、サガン中尉に入れ込む女は、画面からは極めて不自然な人物像しか得られないが、ドヌーヴの持つ雰囲気でかなりカバーされ、それなりの存在感を持っている。その点、ソフィー・マルソーにはそれがない。総じて人物が描けていないだけに、却って個々の役者の力量が見えたようで面白い。サガンがヒロイックなカリスマ性をほとんど感じさせないなかで、彼に命を狙われる部族長の男のほうが、主人公でもなく登場場面も少ないのに、ずっとそういうものを感じさせているのは皮肉だ。
by ヤマ

'85. 1.12. 名画座



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