電流正帰還・電池式完全対称型パワーアンプを考える
(作っても使ってもいけないアンプ?(^^;)
最初に、「電流(正)帰還」といっても、A社のパワーアンプ等、近年広く用いられるようになった「電流帰還」方式のNFBのことではない。
さて、お見せするほどのものではないとは思うが、右がΛ式MFBアダプタ。
上の図の左がその回路図である。
今回のアンプは、とある方のフィーバーにちょっと感染し、このアダプタを作ってしまったが故に製作することになってしまった・・・(^^;
このアダプタは上の左図の回路図で作って、同図にあるとおりにパワーアンプと接続すると、ごく一般的なパワーアンプであれば、パワーアンプをOPアンプとして表した場合、上の右図のように、パワーアンプに電流正帰還用の回路が付加され、普通のパワーアンプを、なんと、負性出力インピーダンスを有するパワーアンプに変身させてしまう、というものなのである。
負性出力インピーダンス? ということは出力インピーダンスがマイナスということだが、実際問題、具体的にどういうことなのか、全く分からん(^^;
この世の中に負の値を持つ抵抗なんてないんだから、負性インピーダンスとか、負の抵抗値を持つなんて言われても、そりゃぁ理解できませんよねぇ。電子回路なんか素人なんだから・・・
が、負の出力インピーダンスなんていうのは、なんとも怪しくて面白そう。
大体、世の一般的なパワーアンプは、出力インピーダンスは正の値に決まっている、と言い切って良いほどだ。そう、通常、アンプの出力インピーダンスは正の値であって、その値は、オープンゲインを稼いでNFB量を増やすことによって0Ωに近づくのだ。が、しかし、オープンゲインが有限である限り、決して0Ωには出来ない、はず。
なのにその0Ωどころか、マイナスのインピーダンスになるというのだ。その非尋常性がなんとも楽しそうではないか(^^;
では、出力インピーダンスは0Ωに近い、あるいは0Ωであることが良いことなのだろうか。この辺はパワーアンプのダンピングファクターということで語られることがある。ダンピングファクター=スピーカーのインピーダンス/アンプの出力インピーダンス で求められる数値のことだが、スピーカーを信号のままに動かす能力として、その値は大きい方がいい、即ち出力インピーダンスは小さい(=0Ωに近い)方が良い、という意見がある。大抵のアンプメーカーではこれを標榜しているのではなかろうか。まあ、メーカー品は大出力を売り物とするから、出力インピーダンスを高めて内部損失にしてしまうのは損だろうし、歪率等の各種特性を良くするためにオープンゲインを稼げば容易に出力インピーダンスも小さくなるので、標榜しないまでも自然にそうなっているのかも知れない。
ま、それはともかく、出力インピーダンスが小さい、即ちダンピングファクターが大きい方が良いという意見の根拠に、スピーカーの逆起電力の吸収ということが言われる訳だ。スピーカーもボイス“コイル”と言うぐらいで内部構造にインダクタンスを有しているから、アンプからの入力で音を出すために振動すると、その振動でスピーカー自身が発電して起電力を生じることになる。
この起電力はスピーカーへの入力信号と逆相なので、通常はスピーカーのインピーダンスを高めるだけの作用で終わるだけの筈なのだが、実際の所スピーカーの振動板が質量を有するが故に、振動板が入力信号と完全にシンクロして動かず、あるいは、入力信号がなくなった後も振動板が慣性で動いてしまうために、入力信号とずれた、あるいは入力信号と無関係な逆起電力がスピーカーのコイルに生じ、その結果、スピーカー振動板が本来の入力信号と関係ない動きをしてしまう。し、入力信号と位相のずれた、あるいは慣性により生じた入力信号と関係のない逆起電力をアンプが素早く吸収しないと、スピーカーが入力信号とは関係のない余計な動きを続け、それは即ちスピーカーが入力された信号と違う音を出すことに他ならないという訳だ。
だから、この逆起電力を強力、かつ、速やかに吸収し、スピーカーの振動板を入力信号との完全シンクロ状態に戻さなければ、忠実な音楽の再生など望めるものではない、ということなのだが、そのためには、このスピーカーの逆起電力を吸収するために、アンプ側の出力インピーダンスを限りなく0Ωにしなければならない、という訳だ。
実際、スピーカーの±端子をオープンにした状態とショートした状態でその振動板をちょっと指で叩いてみると、その“ボソッ”と“カッ”という音の違いでその辺の理屈は体感できるものではある。
が、この観点からの効果については、出力インピーダンスが0Ωでなくても0.1Ω、あるいは0.5Ωならもう同じだ、という意見もある。ダンピングファクターで言えばその値が10程度を超えてしまえば、あとはそれが100になっても1000になっても数値の差ほどの違いはない、というものだ。
また、世の中は理念の世界ではなく現実の世界だから、スピーカーもその作られる時代のアンプを使って良い音になるように作られているものと想定されるのだ。だから、比較的出力インピーダンスが高いアンプが一般だった時代に作られたスピーカーは、比較的出力インピーダンスが高いアンプでドライブした方が良い音が出るし、最近のように0Ωに近い低い出力インピーダンスのアンプが一般の現代スピーカ−には、現代の超低出力インピーダンスのアンプでドライブした方が音が良いのだ、という予定調和的な意見も実際的意味がありそうだ。
ここでこれらについてどうこう言ってもしょうもないが、実は負の出力インピーダンスは、以上のようなアンプとスピーカーを巡る考え方に新たな視野を与えてくれるものなのだ。
要するに逆起電力の吸収という意味でダンピングファクターを考えるとすれば、スピーカーの逆起電力を吸収しようといくらアンプ側の出力インピーダンスを0Ωに近づけても、スピーカー自体に等価インピーダンスがあるのだから、回路ループのインピーダンスはスピーカーの等価インピーダンス以下には決してならない。だから、いわゆるダンピングファクターが10程度を超えれば、あとは100も1000も効果が変わらないのは当たり前で、本当にアンプの逆起電力吸収能力を高めようとするならば、アンプ側の出力インピーダンスを負性、即ちマイナスにして、これでスピーカーの等価インピーダンスを打ち消し、逆起電力吸収の回路ループ自体のインピーダンスを0Ωに近づけるべきだ。という視野だ。
なるほど〜
また、電流正帰還は、入力信号と逆相のスピーカー逆起電力については結局負帰還として働くことになるので、その働きは、スピーカーに物理的な振動検出センサーを取り付けたモーショナルフィードバック、MFBと同じものである、しかもそれを電気的に(=極めて高速かつ正確に)実現する、ということでもあるらしいのだ。
ふーむ、金田式MFBもアンプとスピーカーの相互作用についての面白い実践例だが、こちらも実に面白そうなテーマではないか。
という訳で、早速このΛ式MFBアダプタをこしらえて、我が電池式完全対称型パワーアンプと電池式GOAパワーアンプに繋いで音出ししてみたのだった・・・
そうしたら、どういう訳かややノイズが増えるだけで、さしたる効果がある感じもなく、かえって高域には荒れた感じが出てしまう。
な〜んだ。こんなものか・・・、と折角のΛ式MFBアダプタも即お蔵入りしそうだったのだが、掲示板に結果を報告したことが幸いを招いた(^^)。おかげを持って、再度試して見る気になって内部をもう一度確認してみたら・・・、な〜んと、とんでもない配線の間違いをおかしているではないか(^^;;;
ありゃりゃ、こんな簡単な配線→を間違うとは、汗顔のいたり、恥ずかしくて出す顔がない、ので、これ以上の詳細は書かないが、まあ、ものごと簡単だからと言って侮ってはいけないということだ。(^^;;
即座に配線を正しく直して、アンプ間との結線を確認して聴いてみた。途端に、やや呆然とした。え、え・・・・・・。
いろんなソースを取っ替え引っ替え聴くことになってしまったのだった。
う〜ん。やや尋常ではない。
厳密に違いという点では大きな差ではないと思うのだが、空間の見通しがスッと通ったようなイメージだ。特にクラシックでは空間感の表現力がランクアップしてワープ感が強くなることが判然としやすい。これはちとただものではありませんよ。
と、Λ式MFBアダプタを装着した電池式完全対称型パワーアンプで時空を超えてワープを続けているうちに、もはや今回のアンプの製作とその回路が脳裏に浮かんでしまったのだった。
へ〜。そんなに効果があるものなのか。じゃぁ、試してみるか、と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、このMFBアダプタが紹介されているΛコンさんのHPにある活用上の注意事項を理解し、また、活用の結果について自己責任を取る覚悟のある方以外は止めて下さい。アンプやスピーカーを壊す結果になっても一切関知しません。(^^;
以下はΛコンさんのHPからの無断転載m(__)mです。
注意すべきことはいろいろあるので、初心者はやってはいけません。
注意事項
1 アンプは正相アンプでなくてはならない。
2 アンプはバランスアンプであってはならない。
3 OdBアンプでは不可。
4 無帰還アンプでは不可。
5 この回路では帰還をかけるとかなりゲインが減少する。
6 スピーカーは公称インピーダンス6Ω以上でないと危険。
7 密閉型スピーカーにつないでも、低音は減少したとしか感じないので、
ダンプしてないバスレフを使用すること。
8 磁気回路が強力なユニットのほうがMFB量が増えて好ましい。
9 R-SG7では出力インピーダンス-2.3Ωになった。成功といえる。
10 (蛇足)虎の子のアンプ、スピーカーではやらないこと。
調整法
ボリューム最大で帰還量の少ない状態。ボリュームゼロでゲインが無くなる。
その少し手前くらいに調整する。
補足事項
テクニクスのclass AAも無理な感じがします。
アダプターの接続時にアンプの入力と出力のchを一致させておく必要があります。
(間違えると恐ろしいことになりそう)
これが、当初考えた回路。
電池式完全対称型パワーアンプが下敷きだ。今回は実験的アンプだから、電流正帰還に伴う部分以外は電池式完全対称型パワーアンプの実績を活用し余計なリスクを避ける、というか楽をしたい。実際のところ±15Vの乾電池電源で動作させて、上手く動作したのだが、電流正帰還化に伴う部分は勘でこうした、という部分もいくつかあって、勘が当たらなかったところは後に訂正することとなった。
まず、反転動作を採用した。
だから、2段目差動アンプの初段差動アンプとの接続が通常の金田式DCアンプとは逆になっている。金田先生のDCアンプシリーズは全て非反転動作だっただろうか。だからこのアンプはこれだけでもう金田式アンプではない。勝手なアンプだ。だから金田式DCアンプを標榜する方はこのアンプを作ってはいけません。(^^;
また、反転動作であるために、NFBが信号入力側に戻ることになるので、入力インピーダンスの関係等でNFB帰還抵抗の設定の自由度が狭いものとなる。結論として回路図のような定数設定とした。また、信号入力側に820kΩと5pFをパラに挿入したが、これは入力オープン時にNFB量が増大してアンプの動作が不安定になる(要するに発振だ)のを防止するためのもので、金田さんの差動出力パワーアンプで採用されているものをそっくり真似たもの。だから通常の非反転動作の金田式DCパワーアンプのようにこの820kΩが入力インピーダンスになるものではない。
電流正帰還側の電流検出抵抗には0.22Ωを採用し、これを初段に戻す帰還量調整抵抗には51kΩと100kΩの半固定抵抗を採用したのは、取りあえず実験的な定数設定。0.22Ωも勘だが、51kΩと100kΩの半固定抵抗は、いくらかでもこのアンプの入力インピーダンスを高くしたいという願望もあってこうしたものである。
出力段、下側のC960のコレクタが出力ではなく、アースに接続されているのは、これが全くのエミッタフォロアでも動作するだろうこと、そして、このアンプの第一ポールが、2段目差動アンプの上側A607のカスコード接続されたBC間Cのミラー効果によるものであることを実証しようというもの。併せて、基本的に今回のアンプのクローズドゲインは560k/51k≒11倍(20.8db)程度になるだろうと予想されるので、その分NFBが深いので位相補正量もより多くする必要があるだろう、との勘からこの位相補正コンデンサ−値は10pFとした。
また、初段の定電流回路に付加されているフォトカプラTL−521は、勿論保護回路の一部だ。
アンプ基盤自体は特に面倒もなく出来上がる。1枚作ったところで上手く動作するものかどうか±15V乾電池を電源として早速動かしてみる。と、ちょっと問題もあるが上手く動作はするようだ。問題とは勿論発振状態になること。出力をオープンにすると発振するのだが、負荷を繋いだ状態にすれば、アイドリング電流も出力オフセットもスムーズに調整できる、というのが当初の状態。
ので、もう音を出してみたくなって早速ソニーのピンコードを取り付けて音を出してしまう。と、ちゃんと音も出た。う〜ん、回路動作は取りあえず正常のようだ。ただし、入力をオープンにしても発振することもなくこの点は良いのだが、下側のC960やD217のケースに手を触れたりすると発振するということもあり、このままでは実用範囲ではないことも確かな状態だった。が、音自体は至極まともだと思われたので、やはり完全対称型パワーアンプの第一ポールは、終段ブースター効果による2段目差動アンプ上側素子Cob(Crss)ミラー効果によるものだし、併せて、下側のC960のコレクタをアースに接続してこれを全くのエミッタフォロアドライブにしても問題なく動作することが確認できたな、とその時は思った。
やはり、こういう場合は電池式はありがたい。トランスとケミコンとダイオードだけの電源でも、製作は大変なのだ。電池式はそれがない。それだけでも精神的・物理的(・金銭的)に楽なことは大変な差だ。また、たとえアンプが発振したところで乾電池の内部抵抗が保護回路となって素子を守ってくれる。まあ、併せて電源ラインにヒューズは入れておくのだが、その安心感はACを電源とした場合とは比較にならないほどだ。特に今回のアンプは正帰還を用いるもの。正帰還と言えばアンプを発振させるだけのものというイメージを持つので、これをAC電源で作ってみようなどという気にはそもそもなりがたいのだが、電池式なら自分でもやれないことはないだろう、というのは最初からの思いだった。
さて、出力オープンで発振する点は、UHC−MOSパワーアンプのように出力にパラに10Ω+0.1uFの位相補正回路を入れるか、2段目差動アンプに入っている位相補正のSEコン10pFを調整するしかないかな、と思いつつも、まずアンプ基盤をもう一枚製作し、ケース加工もしてしまった。当初から10Ω+0.1uFを追加することになる場合も想定して、基盤にはそのためのスペースは確保してあるので、そうなったとしても基盤作り直しなどの問題はないのだ。
製作作業をするかたわら、この回路の動作について下手な解析もしてみる。のだが、そうするうちに電流正帰還側の51kΩ+100kΩのボリュームの定数設定が、どうも意味がないものだということが分かってきた。
実は、この反転入力型の電流正帰還アンプを製作しようと考えた大きな理由の1つは、Λ式MFBアダプタ方式では、電流正帰還を利かせるほどに入力インピーダンスが下がってしまい、金田式パッシブチャンネルデバイダーをつなげないという点を、反転入力型なら解決出来ないか、と考えた部分が大きいのだ。Λ式MFBアダプタ方式で市販2Wayスピーカーを聴いて是非TADも電流正帰還アンプで鳴らしてみたいと思ったことが、今回の製作の大きなモチベーションなのだ。
では、反転型の入力インピーダンスが高いのか?というと実は高くない。基本的には非反転型より低くなる。通常は、入力に入った抵抗、このアンプ回路では51kΩが入力インピーダンス値になるはず、という程度の知識だったのだが、正帰還側のゲート抵抗にも高い抵抗を用いることが入力インピーダンスを下げない方向に働くのではないかと漠然と思って当初の定数設定としたのである。まあ、100kΩのボリュームを0Ω側に絞ってしまえばもとより高い抵抗値設定の意味はなくなる訳なのだが、0Ωまで絞らない位置で上手い調整位置はないか、と探ってみるつもりであったのである。
が、解析の結果、51kΩ+100kΩのボリュームの定数設定は入力インピーダンスを高く保つ点においては、何ら意味がないことが分かり、そう分かってしまうと、下側のC960やD217のケースに手を触れたりすると発振することが、帰還回路が高いインピーダンスであることによって誘導の影響を受けるせいなのではないかと思えてくるのだった。そう言えば、と思って100kΩのボリュームを0Ω側に絞って試してみると、この状態であれば、C960やD217のケースに手を触れたても何ら問題は生じないし、ついでに出力をオープンにしても全く正常状態なのだ。
早速、正帰還側の帰還量調整抵抗は330Ωと1kΩのボリュームに変更した。結果、何ら問題なく安定動作するアンプとなった。出力にパラに10Ω+0.1uFの位相補正回路を入れる必要性もこの時点で失せた。
もう、基盤2枚をケースに収めて状況を見ながら、本格的に音出しをする。とともに、電流正帰還アンプの不思議な挙動の確認作業をすることになったのである。
が、この時点で新たな問題点が明らかになった。
それは、本格的な音出しで音量も少し上がったことで明らかになったのだが、音を大きくするとある段階でひどい歪みが生じるのだ。クロスオーバー歪みの酷いやつ、といった感じなのだ。・・・こりゃ、出力段の上下が上手く繋がっていないなぁ・・・。ので、これは下側だけエミッタフォロアドライブとしたのではやはり上側のダーリントンドライブとは繋がらないのだろう、と考えて急遽下側もダーリントンドライブに変更した。結果、この問題は霧散消滅した。やはりドライバーをエミッタフォロアドライブに変更するときは、上下ともそうしなければならないようだ。
といったところで、回路的には殆ど出来上がり(^^)としてしまったのである。
(2002.5.13)
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