漉砂の充填



夕張市は香川県の約半分の面積があり、
市内の9割以上が山林、
市街地は流れる夕張川の狭隆な平地に発達してきた。 夕張市


夕張市高松、旧石炭の歴史村付近から登る。
スタート地点の標高は365m。
目指すは430m付近となる。


最初の遺構が現れたのが竪坑付近。
大新坑の最初の開発は明治40年(1907)、
歴史ある炭鉱だ。 廃祉


竪坑付近の一際大きな建物は繰込所。
鉱員の入出坑を管理したり、
『捜検』と呼ばれた火気の所持がないかの点検も行われた。 繰込所


向かい側は竪坑捲上機の設置施設跡。
この正面にかつて存在したのは、
深さ116m、内径5.4mの円形煉瓦築壁の竪坑であった。 電柱


竪坑坑口下58mの中段から隧道で坑外に貫通、
山下の本坑選炭場まで隧道を介した電車道が存在した。
当時の権勢の象徴、圧巻の廃祉である。 竪坑捲上機


捲上機は二車巻き一段ケージ。
レールガイドを使用して電動機による運転が行われた。
昭和10年8月の日産額は550tであった。
大新竪坑付近へのリンク 巻上機


更に山中を進むと排気風洞が現れる。
当初の大新坑は通気用の竪坑として開発が進んだ。
大正2年に捲上用に計画変更、大正4年に完成に至る。 風洞


ここは恐らく第二坑奥部排気風洞。
総排気量8,500m3/min、
ターボ型扇風機が設置されていた。 奥部排気


扇風機室の建屋も残る。
大正7年に付近の坑口名は数字から改称し、
河川名、日本三景、滝名などに統一された。 排気立坑


扇風機の設置個所の架台である。
坑口名は例えば丁未坑なら(北上坑/千歳坑/最上坑)、新夕張坑は(橋立坑/松島坑)、
本坑は(天龍坑/石狩坑)となる。 扇風機


付近には複数の風洞坑口が隣接する。
坑名が整理された中で、
大新坑だけが河川名になぞらず、独自の呼称となっている。 風洞


さらに山上にはスキップ斜坑かベルト斜坑の様な巻上台座らしき遺構も残る。
大新坑の名称来歴には諸説あり、「大きく新しい」、
または「大正時代に開発した新鉱」などの由来がある。 スキップ斜坑


特筆するのは運搬方法であり目指したのはトラックレスマイニング(鉱車未使用)で、
実現したのは幅30インチ(76cm)の集団ベルトコンベア 9基による原炭搬出だ。
ベルトの速度は107〜122m/分であった。 斜坑


大新坑でのコンベアの電動機は50馬力、長さは80〜305m、
本坑では最大130馬力、長さ325m、ベルト幅55インチ(139p)に及び、
総延長は5,056m、26基が稼働するベルトコンベアが主流の運搬形態であった。 ベルト斜坑


若干下山すると円形のシックナーの様な巨大遺構がある。
下部に大きな坑口があり、
何かを貯蔵、排出する装置のようだ。 巨大遺構


これは『砂壜』(すなびん)と呼ばれる砂の貯蔵庫だ。
冒頭の自然発火防止のためにとられた措置は
旧坑や廃坑への漉砂(こしすな=洗浄した砂)の充填である。 砂壜


これは水に材料となる砂を混ぜて、旧坑などの坑内に散布する湿式の充填法である。
充填材料は坑内の隙間に綿密に詰まり、水きりの良いことが必須条件となる。
砂、砕石粒、脱泥した選鉱廃滓などが用いられる。 漉砂


材料の採取と運搬が重要となり、このような充填砂壜(すなびん)を設置
選炭廃石や捨石を1.8m3/800oケージの鉄製ズリ車にて運搬、
ここ大新坑新注砂場(800m3)まで索道によって供給した。 充填砂壜


充填砂壜下部の砂排出口である。
ここ夕張での充填林料の主たるものは、継立駅附近の火山灰が使用された。
これは大変珍しい遺構だ。 排出口

山上には貯水槽の廃墟があり、この意義は、
水を用いた湿式の充填法のため、ポンプで散布するために多量の水が必要だったのだ。
選炭のための貯水ではなく、自然発火防止のための砂散布用の貯水であった。 貯水槽


砂壜を上部から俯瞰してみた。
シックナーのように円形だが、しかし中央部に回転軸の駆動装置は無い。
充填砂の各鉱への配布はこのような砂壜にコンベアーなどを介して、
特に主となる中央砂壜からは6か所の各砂壜に分配された。 砂壜


付近には斜度のついた隧道の様な遺構が残存する。
これは中央砂壜と呼ばれる、充填材料のメインポケット(3,606m3)からの
上綱式エンドレス貨車、またはベルトコンベアーの軌道跡のようだ。 隧道


当初の運搬鉱車は鉄製の容量1.8m3、自重1,006kgであった。
時代により充填砂の運搬は、エンドレス鉱車であったり索道であったり、
またはベルトコンベアーへと変遷した。 トンネル


付近には配管やレールの痕跡もある。
充填用水の圧力は約1.4s/p2で材料と水との割合は1:2〜1:3となっていた。
主要幹線充填管は直径17.8〜15.2cmとなっていた。 運搬設備


奥には煉瓦製のパラペットを持つ古い坑口がある。
これは恐らく探鉱用の立入坑道で、
鉱床と交差する方向に掘削された明治期の坑道である。 立入坑道


こちらは立入坑道に隣接する四区排気風道。
総排気量は2,832m3/min、
L型配置のターボ型のファンを設備した。 四区排気風道


場所を移動し大新坑隧道付近に下る。
竪坑直下58mからの連絡隧道であり、
ここから電車道を介して選炭場まで連絡していた。 隧道


付近には坑口神社の跡がある。
「坑口は鉱夫の顔」と言われ、坑口の美しさが現場のレベルを表したと言われる。
坑口には御神木を祀る坑口神社が設置されたのだ。 坑口神社


御神木は化粧木などと呼ばれ、坑口上から安全を見守るために設置される。
鳥居や神社に見立てた木を備え付け、
山神が鎮座する場所として敬われた。 マウスon 御神木


正面には立坑に向かう水平坑である隧道と、
制御機器を配置したドーム型の建屋が残る。
この延長300mで大新竪坑と交差する。 大新坑隧道


夕張礦の福利厚生は手厚く、
戦前は学校、少年労務者養成所、女子家政塾などを配置し、
子弟をも含めた教育には熱心なものがあった。 制御機器

トランスか開閉器の様な遺構も残る。
当時の社員には年2回、
勤続10年以上の労務者を研修を兼ねた9日間の国内旅行に招待していた。 トランス


付近には巻上機も残存する。
鉱員による課外活動も活発で、
スキー場やプール、野球場なども所有していた。 巻上機


トロッコの車軸が朽ちている。
社員の住宅は家賃、水道無料で大浴場が設備され、
日用品配給の会社分配所では、市場の15%引きでの商品を扱った。 トロッコ


これは変圧器、つまり伝導しやすい6,600vなどの高電圧を、使用機器に合致した200vなどに落とす装置だ。
正確には『坑氣防爆竪開閉器付乾式變壓器』。
昭和26年、(株)夕張製作所製だ。 変圧器


竪坑に向かう隧道の坑口である。
大正4年完成の竪坑に接続する隧道、
劣化が著しい。 大新坑





『大新坑』と刻まれた扁額も立派に残る。
上部の大木が坑口を覆っている。
何回訪れても、ここからの劣化の進行は少ないように感じる。 大新坑


坑口を背に、遺構の散らばる右岸を下る。
目指すはもう一つの砂壜、『大新砂壜』である。
ここからのルートは非常に厳しくなる。 碍子

遺構が散発する大新の沢である。
ここから下流の選炭場までは
上綱式エンドレス、または電気機関車が使用された。 大新の沢


大きく巻くとプレートガーダーの廃橋がある。
これは鋼板を組み合わせて板(プレート)状にし、
断面がT字形になるように組み立てた桁けた(ガーダー)からなる鉄橋だ。 プレートガーダー


ここからは完全廃道をかき分けて進む。
一気に標高を稼ぎ、
まずは排気風洞を目指す。 完全廃道


斜面を延々登ると突然石垣が現れる。
人工的な痕跡は続くものの、
酷い藪と急斜面だ。 石垣


そして到達したのは排気風洞跡。
おそらく『石狩坑扇風機』と言われる排気斜坑だ。
詳細についてはよくわからない。 排気風洞


シロッコかターボ型のファンが設置してあったらしく、
もしもの風向き変更の際の添ルートが確保してある。
シロッコファンは逆回転させても風向きが変わらない。 排気斜坑


斜坑はすぐに埋没している。
もしもの坑内事故の際、風向きを排気から吸気に変更したい場合、
風のルートを扉などで変改して、ファンの回転方向は変えずに対応するのである。 風井


排気風洞から砂壜へは更に過酷なルートとなる。
遭難や獣害の危険性が高いため、
うかつに入山しないこと。 排気風洞


風洞からかなり登ると充填砂を運搬するトロッコ、エンドレス巻上機らしき廃墟がある。
もしかすると クリーパーの痕跡かもしれない。
クリーパーは鉱車に鎖をひっかけて、動力を用いて短距離移動させる装置である。 クリーパー


再び延々登攀すると、到達したのは大新砂壜の遺構である。
坑内自然発火防止のために火山灰などを旧坑などに充填するための、
充填用砂貯蔵容器の廃墟である。 大新砂壜


円形の砂壜の一画は崩れて落下している。
充填砂を貯蔵したタンク施設。
将来的にはFAと呼ばれるフライアッシュが充填に用いられた炭鉱もある。 砂壜


坑内採掘現場付近には充填用排水の沈殿池が常に設けられ、
泥水は一時的に濾して沈殿後、上澄浄水のみを坑外に揚水していた。
この流砂充填法は改良が重ねられ、自然発火の減少に貢献することとなる。 大新坑


夕張は炭鉱都市として発達するなかで、戦後の傾斜生産方式の後押しにより急激な都市化が進み、
やがてエネルギー革命の大きな転換に翻弄されるという、
政策や社会情勢に深く関連しながら歴史を積み重ねてきた。 大新坑







戻る

上綱式エンドレス
上綱式エンドレス

トップページへ