訳者あとがき

  私は立ちつくしていたIついさっきまで心を占めていたさまざまな思いわずらい、とても越えられそうにもない限界感がいつのまにか消え、平和な思いに満たされてどこまでも歩いていけそうな自分に呆れながら……。
 二十数年前、店先で何気なく取り上げた一冊の本、「積極的な考え方の力」の中から、何かふしぎな美しい力が湧きあがって、ふいに私を捕えた、その時のことである。その力は、人生には全く別種の考え方があること、その彼方には思いも及ばぬ喜びの世界が広がっていることを強く私に印象づけた。十数年後、今度は毎月送られてくるようになった同じ著者による小冊子によって引き継がれたその力は、絶えず私に呼びかけ、幼い日、父を失って以来、私の中に徐々にかたくなに広がっていた懐疑の根を暖かく包み、次第に溶かしていった。そしてついに、私の後半生を大きく巻き込んでしまったのである。 世界のベストセラー「積極的な考え方の力」の著者、ノーマン・ヴィンセント・ピール博士は、著述、テレビ、講演等に幅広い活動をつづけている米国マーブル・コレジェイト教会の牧師であり、日本でも実施されている「いのちの電話」の米国での創設者である。
 博士の透徹した目と無私の愛が、聖書を通し、人間生活のさまざまな苦労や悲しみを溢れる喜びへと転換しつつ至聖者のもとへ導いていくその深さ、広さ、力強さには驚くほかはない。一人でも多くの方が、このすぐれた霊的指導者の手によって、豊かで明るいキリスト教の世界に導かれることを祈りつつ、世界五十五万の人に毎月送られている博士の説教の小冊子の翻訳と配布に努めている昨今である。 このたび、岸千年先生、森優先生の非常なご好意で、その数冊を「きょうの祈り・瞬間の祈り」にまとめ、聖文舎から発行していただける幸せをしみじみと嬉しく、感謝申し上げずにはいられない。

  1977年 4月        亀山和子



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