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長崎県佐世保市で発生した米軍人による業務上過失傷害被疑事件に関する質問主意書・答弁書

平成十七年六月九日提出
質問第七八号

長崎県佐世保市で発生した米軍人による業務上過失傷害被疑事件に関する質問主意書

提出者  照屋寛徳

長崎県佐世保市で発生した米軍人による業務上過失傷害被疑事件に関する質問主意書

 米軍人・軍属らによる事件、事故は絶えることがない。それらの事件、事故は米軍基地の集中する地域に多く発生している。しかも、米軍人・軍属の事件、事故に対する米側の対応は、国内関連法はおろか日米地位協定すら無視することが多いのが現実である。

 去る六月三日午前零時半ごろ、長崎県佐世保市の県道一一号線路上で、米軍人の乗用車がライトバンに追突、ライトバンの男性が軽傷を負う事件が発生した。重視されるべき問題は、業務上過失傷害の現行犯で逮捕した被疑者の米軍人を米軍佐世保基地の憲兵隊が怪我の治療を理由に基地内に連れ帰ったことである。これらの米軍佐世保基地の憲兵隊の行為は日本国警察の逮捕権を著しく侵害するものであり、とうてい容認することはできない。また、米憲兵隊員の行為はわが国の主権を侵害するものであり、公務執行妨害罪に該当するものと考える。

 よって以下、質問する。

一 去る六月三日午前零時半ごろ、長崎県佐世保市の県道一一号線路上で発生した米軍人による業務上過失傷害事件の被疑者名及び階級、被害者の負傷の部位程度、被疑者の当該犯罪は公務中か公務外か、過失の内容等その犯行態様を含めて事実関係を詳細に明らかにされたい。

二 同事故による被疑者の米軍人は飲酒運転の疑いが濃厚であったようだが、検知管による検査には応じたのか。また、相浦警察署が現行犯逮捕したようだが、現行犯逮捕をしなければいけなかった諸事情を明らかにした上、一連の逮捕行為について政府はいかなる見解を持っているのか示されたい。

三 米憲兵隊員は、当該被疑者米兵を基地内に連れ帰ったようだが、これら米憲兵隊員の行為は、わが国警察の正当な逮捕権、捜査権を妨害するものであり公務執行妨害罪に該当すると思われるが政府の見解を示されたい。

四 長崎県警はその後米軍と協議の上「日米地位協定の合意事項に基づく共同逮捕だった」と発表しているが、日米地位協定に基づく共同逮捕の具体的な根拠及び共同逮捕の要件、共同逮捕の場合の捜査権、裁判権について日米地位協定や合意事項においてどのように定めているのか明らかにされたい。また、長崎県警と米軍の協議機関ないし協議にあたった者の氏名等を明らかにされたい。

五 今回の事件処理は長崎県警による捜査権の放棄に等しいと思われる。これら長崎県警による捜査権の放棄は、不平等、不公正な日米地位協定を容認するものであり、とうてい承服できないと考えるが政府の見解を明らかにされたい。

 右質問する。


 平成十七年六月十七日受領
答弁第七八号

  内閣衆質一六二第七八号
  平成十七年六月十七日

内閣総理大臣 小泉純一郎

       衆議院議長 河野洋平 殿

衆議院議員照屋寛徳君提出長崎県佐世保市で発生した米軍人による業務上過失傷害被疑事件に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員照屋寛徳君提出長崎県佐世保市で発生した米軍人による業務上過失傷害被疑事件に関する質問に対する答弁書

一について
 御指摘の事件は、平成十七年六月三日午前零時三十分ころ、長崎県に駐留するアメリカ合衆国海軍(以下「米海軍」という。)に所属する上等兵曹テリー・リン・ペイスが運転する普通乗用自動車が、長崎県佐世保市内の路上において、普通貨物自動車に追突し、同車の運転者が加療約一週間を要する傷害を負ったものであると承知している。また、事件発生時、同上等兵曹は公務執行中ではなかったと承知している。その他の事実関係の詳細については、捜査の具体的内容にかかわる事柄であることから、答弁を差し控えたい。
二について
 長崎県警察においては、被疑者が事情聴取に応じず、逃走のおそれがあったことから、被疑者を業務上過失傷害の疑いで現行犯逮捕したものであると承知しているが、逮捕に至る状況の詳細については、捜査の具体的内容にかかわる事柄であることから、答弁を差し控えたい。
 また、本件逮捕については、個別具体的な事件における捜査機関の活動内容にかかわる事柄であることから、政府としての見解を示すことは差し控えたい。
三について
 個別の事案に関する犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づき個々に判断すべきものであるので、答弁を差し控えたいが、本件では、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和三十五年条約第七号。以下「日米地位協定」という。)第十七条10(b)により、米海軍の当局において被疑者の逮捕等の措置を講じたものと理解している。
四について
 お尋ねの「共同逮捕」とは、実務上、刑事裁判管轄権に関する事項についての日米合同委員会合意第8(1)の「日米両国の法律執行員が犯罪の現場にあって、犯人たる合衆国軍隊の構成員、軍属又はそれらの家族を逮捕する場合」における当該逮捕を指称するものと承知している。同合意第8(1)では、そのような場合には、「合衆国軍隊の法律執行員が逮捕するのを原則とし、この被疑者の身柄はもよりの日本国の警察官公署に連行される。日本国の当局による一応の取調の後、当該被疑者の身柄は原則として引続き合衆国の当局に委ねられるが、当該事件が日本国の当局が裁判権を行使する第一次の権利を有する犯罪に係るものである場合には、日米の共同捜査のためいつでも取調の対象となる。日本国の当局が特に当該被疑者の身柄を確保する必要があると認めて要請した場合には、その者の身柄は日本国の当局に引き渡される。」とされており、我が国及びアメリカ合衆国軍隊の当局は、日米地位協定、日米地位協定についての合意された議事録及び日米合同委員会合意に従って、捜査を行い、裁判権を行使することとなる。
 また、長崎県警察本部及び長崎県相浦警察署が米海軍佐世保基地法務部と協議に当たったと承知しているが、協議に当たった者の氏名等を明らかにすることは、業務遂行に支障が生じるため、答弁を差し控えたい。
五について
 長崎県警察においては、米海軍の当局の協力を得ながら、所要の捜査を行っているところであると承知しており、捜査権の放棄との御指摘は当たらないと考えている。