ホームニュース一覧2019

原発事故から何を学ぶか?

さようなら原発ナガサキ集会

 3月9日、長崎市で「さようなら原発ナガサキ集会」が開かれ、240人が参加しました。NHKディレクターとして「ネットワークでつくる放射能汚染地図」を制作した七沢潔さん(現在、NHK放送文化研究所上級研究員)が「原発事故から何を学ぶか」と題して講演しました。

1.途絶えた放射能情報を独自に
 誰もが原発事故など起こらないと思い、事故後のことなど考えたことがなかった。モニタリングポストが壊れ、人による放射能調査が始まったが3月14日の爆発の後すぐに撤退を命じられ、現地の情報が途絶えた。そこで4人で計測機器を携えて2ヶ月かけて3000キロほど走ってデータをとった。地図が出来るまでのドキュメントが「ネットワークでつくる放射能汚染地図」となった。放送後の反響は大きく、自主的調査への共感が広がった。

2.圧力による「分断」が抵抗力を奪う
 ここ6年で夜間番組の原発報道は8分の1に減少。自然風化もあるが報道への圧力が大きかった。具体例を2つあげる。

①NHK『追跡!真相ファイル 低線量被ばく・揺らぐ国際基準』への攻撃
 番組では国際放射線防護委員会が原発推進のため低線量被ばくのリスクを過小評価してきたと批判。これに対して委員会の日本人委員ら102人(原発関連会社OBが多い)が連名で「虚偽報道」と批判し、BPOに提訴した。却下されたが低線量被ばくの問題を取り上げ難くした。

②朝日新聞「吉田調書」記事取り消し
未公開だった政府事故調による福島第一原発の吉田所長の聴聞結果書を入手し、3月15日早朝、9割の所員650人が第2原発に撤退したことを暴露。これはまったくの事実。しかし所長命令(第一原発での待機指示)違反だったか否かに焦点があてられ、結局朝日新聞社長は「誤解を招いた」と記事を取り消して謝罪、記者たちも処分された。情緒的な朝日バッシングによって事故原因と経過解明に不可欠な調査・報道が座礁させられた。朝日記者の指摘は再稼働方針を揺るがすものであり(☞次頁)おそらく官邸筋が他社に調書をリークし、潰した。

3.市民・ジャーナリストの行動に未来が
 事故が起こると国家、原子力体制は自己防御に動き、国民の防護は二の次にされる。事故原因は解明されず、責任は問われない。
 原発事故から学ぶべきは、「市民やジャーナリスト、研究者の監視や行動が『真実』を明らかにすること」。東電刑事裁判を実現したのも市民団体の粘り強い活動だった。タンクの汚染水の多くにストロンチウムやヨウ素が残っているデータを東電に提出させたのも、公聴会で激しく迫った市民の力だった。

 そして闘うことによってのみ「未来」が勝ち取られること。これがはっきりした8年だった。

原発事故の対処に誰が立ち向かえるのか?

「吉田調書」記事取り消し事件で隠された〝奈落の深さ″

 3月15日早朝、9割の所員650人が第2原発に撤退した。朝日新聞の記者の提起は「過酷事故が起きたら誰がどう対応できるか」―。原子炉を制御する電力会社の社員が現場からいなくなる事態が十分に起こりうる。そのとき誰が対処するのか。当事者でない消防や自衛隊なのか。特殊部隊を創設するのか。それとも米国に頼るのか。

 わかっていることは現場に人がいないので対応できなかったことだ。15日の午前9時38分に4号機で火災が発生したが原因は不明。16日早朝にも同じところで火災となった。たくさんの使用済み核燃料が入ったプールがあり、米国は再臨界などを非常に心配していた。

 本来であれば東電の自衛消防隊が消火に行くのだが、彼らはすでに他の号機の爆発時に給水活動を行って相当被ばくしており、第2原発に撤退していた。東電は“協力企業”の南明興産に要請したが彼らも同様に被ばくしており、社長が止めた。それでも東電社員は電話で「あなた方の仕事です」と復帰を求めたが、断られる。双葉郡消防団にも要請したが断られる。自衛隊も3号機の爆発で被ばくし、ケガ人が出ている。自衛隊はもともと原発サイト内の仕事はしないことになっている。結局は官邸経由で米軍に出動要請し、16日に横田、横須賀基地から米軍の消防車が駆けつけた。しかしどのように消火したかの記録がない。

 この日、キャンベル国務次官補が駐米日本大使を呼び出して、「数百人の『英雄的犠牲』が必要」と伝えた。「日本は自分たちで始末できないのか!」ということ。これが翌17日の自衛隊ヘリによる、意味のない「放水作戦」となった。このような経緯が隠されることになってしまった。

 始末に負えない原発事故を誰がどうするかということがはっきりしないのに原発を再稼働していいのか。これは政権にとっては大変な局面になる。このことを国民が真面目に考え始めたら原発は動かせない。原発が本当に危なくなった時に誰がどうするか。「初めて見てしまった足元の奈落の深さ」―福島原発事故の最大の特徴はここにある。

 自衛隊は現在も原発サイトの仕事はしない。米国、ソ連では軍隊の仕事で、補償と引き換えに命令で行かされた。軍隊のない日本で原発を進めることの意味を突きつけている。

(2019年3月10日)