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高見三明×朝長万左男「対話のつどい」

「核兵器なき世界」の実現と市民社会の役割

 2月17日、核兵器をテーマにした髙見三明さん(カトリック長崎大司教区大司教;胎内被爆)と朝長万左男さん(日赤長崎原爆病院名誉院長;2才で被爆)による「対話のつどい」が開かれました。主催は「ヒバクシャ国際署名」をすすめる長崎県民の会で約140名が参加しました。

高見:核兵器について
核兵器は極悪非道の兵器としか言いようがなくどんな理由があっても正当化できない。危険きわまりない兵器に莫大な金がかかっている。その一方で億単位の人たちが飢えている。実に矛盾だらけだ。たとえ核兵器を廃絶したとしても平和になるわけではない。人間には暴力性があるため、武器を持たないことが必要だ。

朝長:禁止条約をめぐる動き
広島・長崎の被爆者たちの運動が核兵器禁止条約成立の原動力になったのはまちがいない。核兵器の使用と威嚇の禁止を最重点項目とする禁止条約を推進する、世界の122以上の国々からなるグループに対して、核兵器の威力をいまだに信奉して維持し続けようとする核保有国とその同盟国からなるグループの大きな流れが顕になってくる。トランプ大統領の核態勢の見直しは、禁止条約を真っ正面から否定し、核軍拡に戻そうとするもの。これまで米国が約束してきた「核なき世界」の実現が危うくなっている。この核軍拡シフトの理由をすべてロシアと中国、北朝鮮の核の脅威の増大に求めている。米国は自分たちの国と国民の安全を保つことを優先し、世界の国々と市民に常に脅威を与え続けているという視点が全く欠落している。背景には米国の市民社会の支持と核兵器を製造する軍産複合体による米国の経済支配がある。

朝長:禁止条約は国際規範になりうる
122か国以上の国々が核兵器禁止条約を批准した場合、すごい国際法になる。規範になる。核兵器は二度と使えない兵器だと世界中で確認できることになる。加盟していない国に対しても影響が効いていく。対人地雷がそうだった。

朝長:国際署名運動で次世代を切り拓く
最も憂うべきは米国内からは、民主党も含め米国民からもメディアからも批判が全く聞かれないこと。米国の核軍拡路線に対抗する唯一最大の「抵抗勢力」は禁止条約派の国々と、それらを支持したICANなどの市民社会のNGOグループ、われわれ地球市民。中でも被爆を経験した日本の市民社会の運動が不可欠。ヒバクシャ国際署名がまさにその具体的運動。米国の核政策に対する一辺倒の日本の姿勢を転換させ、戦後73年の総決算にしよう。このままでは発効しても核廃絶は期待できない。世界の市民社会が、次世代の若者たちがこの機会に世界の主要国の核依存の現状に目覚めることが必要。若者が自分たちの未来は核兵器なき世界だという確信を持ち運動していくこと。国際署名はそのような動きのスタートになる。

高見:多様性を認めあう社会に展望
EUは経済的につながって、国としてアイデンティティを持ちながら、つまり多様性を認めあいながら、しかし1つになっていこうという素晴らしい試みだと思う。東アジアの国同士でも、脅威を与えあわない、お互いに仲良くつきあっていこうという共同体は可能ではないか。

高見:カトリック教会での平和・核廃絶の取り組み
第1次大戦後、ローマ教皇ベネディクト15世は戦争を憂いて平和への思いを強く表明した。後の教皇たちは、武器を持って平和をつくろうとするのは誤りと主張。いまのフランシスコ教皇もバチカンの核兵器廃絶に向けたシンポジウムで、「抑止力による平和は偽りの平和であり不安定な平和でしかない」「健全な現実主義は、今日の秩序を失った世界の希望の灯をともし続けている」と述べた。つまり本当の平和のためには武器を使ってはいけない。非暴力的な方法で平和をつくのが健全な現実主義だ。

高見:宗教者懇話会について
40年の歴史がある。いままで宗教は互いを排除・非難しあっていたが、カトリック教会が対話しながら一緒に歩いていくべきではないかと大きな方向転換をした。多くの宗教者たちも刺激されて国際的に広がってきた。長崎では原爆の日に合わせて、犠牲者のために祈る、世界平和のために祈る、この2つのことで実現した。集会に向けて年間何回も会合する。ただ9条のことになるとデリケートな部分があり、神道などは軍隊を持つのが当然という考え方があるので話題にしない。それでも平和のために黙とうをする。考え方が異なっても認めあい、1つのことに共通点を見いだしてともに歩いていこうとしている。

高見:武器の不保持こそ平和への道
米国は自分の身を守るために、相手を殺傷する道具が必要だと当然のように考えている。日本でも北朝鮮問題で、当然という意見がある。武器を持つことで国民を守れるのか。自分を守るために武器を使ってはいけない。相手が持つからと相手の責任にして、こちらも持とうとするから軍縮が進まない。残念ながら背景にはもっと兵器を造って儲けようとしている軍需産業もある。

高見:争いたければスポーツで
戦争のことを知らない若い人が軍隊を持つべきだと言う。人を殺すことが名誉と考えるのが戦争。議論した方がいい。戦争を避けるには武器を持たないようにする。どうしても戦争したければ素手でやればいい。近代オリンピックは、戦争の規模が大きくなってしまったのでスポーツで戦争しろとして始まったともいわれる。確かにスポーツは戦争用語を使う。スポーツを通した戦いをもっと広げるべき。

朝長:賢人会議の方向性について
いかにして核保有国側と禁止条約側の間に立って実行できるような、有効な橋渡し策を提言できるか、「賢人会議」で議論している。日包括的核実験禁止条約や核物質生産禁止条約などF核軍縮に向けたステップをたくさん用意すべきではないか。禁止条約の賛成側と反対側との間で国際会議を行うなど、プロセスが進むことを日本政府は求めるべきではないのか。

(2018年2月18日)