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9条に自衛隊明記でどう変わる?!

憲法共同センターがシンポジウム

 10月1日、憲法改悪阻止長崎県共同センターがシンポジウムを開き85名が参加しました。
 安倍首相は「9条1項、2項をそのままにして自衛隊を明記する」方針を打ち出しましたが条文に自衛隊を書きこむことはどういう意味を持ち、どんな事態になるのか。3人のパネラーの発言と、それを受けての質疑の一部を紹介します。

■9条に「自衛隊」を明記する意味(井田洋子)
 社会の変化、時代の変化で、法の内容が価値観とずれてきた時には法を変える必要があり、そのための改正手続がある。現実には憲法が軽視され、条文を一言一句変えないままに中身が踏みにじられてきたのだが。それでも自衛隊が存在し、自衛隊の存在を認め始めている多くの人たちがいる。明文化された九条が出発点。論理的には自衛隊は違憲というのが一番適する。「自衛隊」の明記は、九条の価値観の放棄を意味し、論理破綻をさらに拡大させる。この議論の犠牲者は自衛隊員。法の間で不安定な状況を強いられている。物凄い矛盾がある中で九条を守るという主張をするには自衛隊の現状を踏まえて考えないといけない。九条の生まれた意味、日本だけの視点だけでなく、国際社会の視点からも意義を捉え直す必要がある。

■米軍と一体強化される自衛隊の実態(冨塚明)
 9条に「自衛隊」が書き込まれると結局は自衛隊の現状をすべて追認せざるを得なくなる。米軍との一体強化が進められているのが自衛隊の現実。「ミサイル防衛」「水陸機動団」はその典型。安保法制で自衛隊法からも専守防衛は取り払われた。いま陸自は「真に戦える組織」へと変貌し、海自・空自と一緒になって海外展開しようとしている。これまでは武器を持たない災害出動の任務が自衛隊の存在意義を高めてきたが、この間、日本防衛とは無関係の米軍支援任務が次々と付与されてきた。これを憲法で認めてしまったら九条の意味が失われる。

■元自衛官から見た自衛隊と九条(西川末則)
 1970年に18才で海上自衛隊に入隊し、36年間勤務した。日本への侵略があった時には命をはって国民の生命財産を守る決意で生活してきた。しかし集団的自衛権が行使されるとまったく変わってくる。私を慕っている現役の後輩や、自分の影響で入隊した人が負傷・戦死したら気の毒だ。自分の考えをFacebookにあげたところ1日で1000件の応援があった。マスコミからも取材があり、応援してくれるOBも出てきた。現役自衛官はもちろん、OBも再就職援助をしてもらっているので、声を上げられない。それでもおかしいと思うOBはいる。

【会場からの質問に答えて】

●憲法違反を審査する違憲裁判所は必要か
 まずは憲法の番人たる裁判官に対し純粋な法解釈を要求すべき。憲法裁判所の利点は法律の存在だけで、合憲・違憲判断ができること。だが今のような資質の判官なら、安保法制を合憲とする危険性もある。憲法裁判所だからといって憲法の精神が守られる保証はない。(井田)

●北朝鮮と米国の動きをどうとらえるべきか
 北朝鮮としては体制の維持が欠かせない。報道されない真実に目を向ける必要がある。ソ連崩壊後、韓国で米韓合同演習が行われている。強襲揚陸、特殊部隊、空母、潜水艦、米兵1万人、韓国軍が数万人。北朝鮮有事に備えた訓練が毎年やられているのは脅威に映るだろう。
 核保有国はそれぞれ核兵器近代化を進めている。米国は35年間で1兆ドルをつぎ込んで2080年まで核抑止を維持できる計画を着々と実行している。ロシアも旧式兵器の刷新中だ。
 米国はICBMやSLBMの発射テストをそれぞれ年に4回程度行っている。ロシアも年間20回ほど行っている。北朝鮮を「生け贄」にして自分たちが好き勝手にやれる体制をつくっている。とくに軍事産業の儲けは非常に大きく、生き残りの手でもある。裏にあるものをしっかり考えよう。(冨塚)

●ミサイルの100%迎撃は可能か
 PAC-3はイージス艦ミサイルで迎撃できなかった場合の対処となっているが、それは日本だけ。PAC-3は短距離弾道ミサイルや巡航ミサイル用。北朝鮮から短距離弾道ミサイルはそもそも日本には届かない。テストもそのような標的でしか行われていない。ノドンなどは届くが速すぎて迎撃できない。イージス艦でも多数のミサイルには全く対処できない。ミサイルを撃たせない状況をつくるしかない。(冨塚)

●北朝鮮への先制攻撃は技術的に可能か
 先制攻撃自体がいけないこと。20世紀の人類の到達点が武力不行使の原則。武力攻撃があった時、①安保理決議の下、②攻撃を受けた側の個別的自衛権、③同盟国による集団的自衛権、としての武力行使しか認められていない。ここを拠り所にすること。悪いヤツはやっつければいいという風潮がある。いかに防ぐかに議論を集中させるべき。(冨塚)

●ミサイルの迎撃は交戦権行使になるか
 イラク戦争のように「自衛」という言葉で自分たちを正当化して危機の相手を攻撃するという考え方が非常に怖い。ミサイル迎撃が交戦権行使(戦争になる)かどうかは相手の判断による。正当化する口実を与えない雰囲気を国際社会がつくっていかないといけない。(井田)

●河野統合幕僚長の「9条明記はありがたい」発言/自衛官・OBへのアプローチ
 自衛隊は誕生当初から突出させないようにと背広組が押さえ、制服組が国会に出ることはなかった。しかしいまは制服組が口を出せるようになり、国会議員ともひっついてしまった。そこで河野統合幕僚長が自分の気持ちを出した。幹部は戦争に行かないで後ろで指揮をするだけ。隊員を代表した発言ではない。
 ほとんどの隊員は法律的なことに触れる機会がない。集団的自衛権や九条に対しては調教されたシェパードと一緒。気持ちの上では、そういう状況になったら戦うんだな、という程度しかない。36年間染まってきた人の気持ちや考え方を変えることは難しいと思う。(西川)

(2017年10月2日)